ダンジョンコア 間宮日向 Lv.4①
俺の寿命が残り4日……正確には3日と23時間59分36秒となった。
レベル3で残り1日以上の猶予があったからもう少しレベルアップは見送ってもよかったかもしれないが、今はレベルカンストRTA中だし。
タイムアタックを走ってるのが俺だけしかいないだろうから、とりあえずは記録を叩き出すことを目標としている。
そしてタイムアタック中の目標は大きく分けて2つ。
ひとつ。地球の価値観を捨て、虐殺の限りを尽くすこと。
ひとつ。眷族は駒として扱う。信じ、酷使し、そして常に疑う。
これがなかなか、難しいことなんだけどさ。
「ウィルたちは……撤退したか。引き際を見誤らない指揮官は厄介だな」
以前召喚しておいたペンを手に取り、新規でB5紙を二枚ほど召喚する。
そこに覚えている限りのウィルという男性の情報を綴る。外見的特徴、戦略の立て方、そして隙など。
もう一枚の紙にはあの女のことを書く。ウィンドウ越しに目があった、あの奇妙な女性についても。
あいつは明らかに偶然ではない頻度でウィンドウ越しに俺に目を合わせてきた。そして俺の方を見ながら言った。
『化け物は殺さなくてはならない』
こいつらはきっとまたここに来る。今度はお互いにレベルも上がり、全力で潰し合うことになるだろう。
それだけじゃない、あいつらはここを潰すために情報を広めるとも言っていた。早急に防衛戦力の強化が必要となってきたわけだ。
さて、まずは俺のステータスの確認からいこうか。
「ステータス」
────────────
名前:魔宮 日向
年齢:0歳(外見:17歳)
性別:男型
種族:ダンジョンコア
職業:ダンジョンマスター
レベル:4/99
EXP:0/398
体力:19/19
魔力:19/19
攻撃力:14
防御力:14
敏捷:13
精神力:16
幸運:14
身体:学ラン(防1)
スキル(SP:2)
凍心1
────────────
4レベルになっているが、ステータスの伸びが小さすぎる。
これだと10レベルになっても、下手したら20レベルになったところでナズナに勝てる気がしないんだが……まあ、前衛職と後衛職の差だろう、たぶん。
実際レベルアップする理由は3つだ。
まずは当然寿命のためだ。レベルカンストを目指すのも、そうしないとタイムリミットで殺されるからに過ぎない。
そして防衛戦力の増強のため。
召喚できる魔物は……増えてないが、作成できる階層は4階層までと増えている。
今は2階層しかないから、倍に増やすことができるというわけだ。後回しにしてたが、作らないとな……
最後の理由、それはSPのためだ。
スキルポイント、つまりは新規スキルを獲得することができる。
真っ先に思い付くスキルとしたら剣術や、弓術のような戦闘系のスキルだ。けれどさっきも言ったように俺は後衛系……それも司令塔という戦闘に参加してはいけない役職だ。
支援魔法をとって眷族を強化する。
言語魔法をとって眷族とコミュニケーションを深める。
生産スキルで武器・防具を作って眷族を支援する。
はたまたダンジョンを改造するためのスキルをとるのもありだ、例えば土魔法でDP使わずに埋め立てをするとか。
色々のできることは多い。
けれどまずは言語系を見てみよう。
『言語』……5SP
5SP溜めて取れば、ゴブリンだろうがスライムだろうが全ての言葉が理解できるらしい。
けれど曲者なのがスキルレベル1を獲得するだけで、それのレベル上げはひたすら使い込むか、SPをさらに注ぎ込むしかないわけだ。
『凍心』を三度、四度使用したが、レベル2になる気配すらない。
英語ができない日本人だった俺が、すぐさま魔物語を扱いこなせるとは思わないが……あれば色々と変わってくるんだよなぁ。
『言語』は全ての言語の詰め合わせとなっているが、もちろん『ゴブリン語』『スライム語』のようなばら売りもしている。そっちはそれぞれが1SPなのでゴブリン語のみ取得するという選択肢もある。
だが、そうするとパラサイト・パーティの『アーミ』と会話することができなくなる。
『強化魔法』……5SP
『錬金術』……5SP
『鍛冶』……5SP
ざっくりと見ていくが、やはりどれも高い。
『攻撃力強化』『防御力強化』『敏捷強化』などの細分化されたスキルならそれぞれ1SPだが、それらがまとまっている『強化魔法』は5SPというわけか。
くそ、異世界でも抱き合わせ商法してるんじゃねえよ……
お?
スキルを検索していたらひとつの項目が目に留まった。
『妨害魔法』……1SP
『攻撃妨害』……1SP
『敏捷妨害』……1SP
などなど
なぜか妨害系だけ抱き合わせパックが1SPだ、確認してみても細分化されたスキルが複数入っているらしい。レベルアップしていき、最大レベルになると全部の妨害系スキルがしようできる……
これだ! 安い! そして多い!
スキルを獲得する。妨害スキル1では『敏捷妨害』のみだったが、確かに獲得できている。
問題は……
ハウル……はまだ1階層でロナ相手に盛ってるのか。
ベスは……ナズナの抱き枕になってる。
んじゃあ、ヌリカベにちょっと手伝ってもらおう。
コアルームにいるヌリカベに一声かけてから場所を移動した。マイルームだと近すぎる気がしたので2階層まで来てみた。
そしてウィンドウを開いて――
「スピードバインド!」
MPを5支払い魔法が発動する。ウィンドウの中の机に半透明な縄のようなものが絡みつく。
効果の確認だ。ぬりかべのステータスをオープン。
────────────
名前:ぬりかべ
種族:デスク
進化率:13%
体力:200/200
魔力:0/0
攻撃力:50
防御力:100
敏捷:0(敏捷妨害-0)
精神力:0
幸運:0
固有スキル
清潔
────────────
俺が解除と念じると縄は解れて消えていった。
そういえばぬりかべの敏捷は元から0だから減少率さえわからねえじゃん……。そんぐらい記載しといてくれよな。
──でも。
「ウィンドウ越しにも妨害魔法は当てられる……ッ」
俺はコアルームから安全に魔法を撃つことができるということがわかった。
ただ、俺のMPの都合上、最下級と思われる敏捷妨害でさえ3発しか撃てない。多少のズルだが、うっとうしいくらいで致命的ではないだろう。
あとのSPは魔物語用にとっておこう。
MPがないんじゃ魔法を取っても意味ないからな
さて、今まで散々放置してきたが……
いい加減、新階層を作成するか。
アーミをボスとして階層を作ろうかと考えているんだが、そのためには少し検証をしないといけないだろう。
アーミの中身が寄生虫であることはわかってる。その効果がどこまでなのかはわからない、眷族のゴブリンに寄生する程度ならまあまだ許容範囲なんだが……俺とかナズナに寄生するのだけは避けてもらいたい。
だからって一回自壊してもらう、ってわけにもいかない。それで全滅とか流石に笑えないからな。
ということは、だ。アーミに言葉は通じない以上、別の方法で対策を取る必要がある。
2階層のボスに設定していたファンガス・ドラッグのオオバコを覗き見る。何気このボス部屋を見るの久しぶりだ。
この部屋にはオオバコの他に、一匹のゴブリンと一匹のスライムがいる。
オオバコはいるだけで周りに有害な胞子を出しているが、その胞子に適正を持てるかどうかの実験だったはずだ。うん、忘れてない。
スライムは大丈夫だろうが、ゴブリンは色々と厳しいだろうから口元にタオルを着けさせている。胞子を完全に吸わないとまではいかなくても、効果を抑えられてゆっくり適応できてるだろう、たぶん。
ちなみにこいつらの進化率はスライムが29%。ゴブリンが48%だ。結構進んでるのな、ゴブリンの方はずっと素振りとかしていたみたいだから、それで経験値が溜まってるんだろうけど。
「オオバコ、これは命令じゃないんだが……お前ってその部屋の外に出られたりするのか?」
まず実験その1。ボスモンスターはボス部屋の外に出られるのか。
オオバコが麻薬で人生をボロボロにしたような顔をしながらボス部屋の外へとてちてち歩いていく。
……が、ドア付近で透明な壁のようなものにぶつかっていた。どうやら不可能らしい。
「じゃあオオバコに『命令』する。その部屋の外に出ろ」
実験その2。『命令』すれば部屋の外に出られるのか。
結果は変わらずに透明な壁に阻まれる、だった。
オオバコは壁にぶつかりながらも無理矢理外に出ようとしていたものだから、慌てて命令を取り消した。
できないことでも無理矢理にやろうとする、もしくはやりたくなくても無理矢理やらされるってのは、ナズナで実験済みだったな……もし止めてなければ潰れるまで進もうとしていたのだろうか?
実験その3。『転移』すれば部屋の外に出られるのか。
オオバコを部屋の外に転移させようとするが、それも不可能だった。オオバコを選択するまではできるが、転移先に選ぶことができる場所がコアルームしかなかった。
……いや、コアルームには移動させられるのか。つまり何かの手違いで寄生虫をコアルームに転移させたら俺とナズナに危険が及ぶ訳か。
「ありがとうオオバコ。今度何かお礼するよ」
アーミをボスモンスターにするのは却下だな、対策が立てれない以上ダンジョンごと共倒れする危険がある。
今まで通りそこらに放置という名の封印だな。いつか進化して無害化するのを期待しよう。




