ダンジョンコア 魔宮 日向 Lv.3⑤
クリスマスが終わったのでクリスマスプレゼントです。
胸糞注意かも?
1階層の手直しはこれくらいでいいだろう。
ゴブリンを食べるような強い魔物ができたら、また手直しするとしても、それまでは何もできることはないはずだ。
次にするのは新階層の構築だ。
このダンジョンは俺のレベルと連動しており、階層の上限数は俺のレベルと同値だ。つまりレベル3の今だと3階層までできるわけだ。
階層が増えるだけで防衛戦力が跳ね上がるのだから、作らない理由はない。
まず、テーマを決めよう。
1階層は自然繁殖による数の暴力。
2階層は迷路の罠だった。
被らないようにしたいという気持ちはあるものの、将来的に100階層にまで増える階層全てで被りなし、なんて俺の頭が持たないので早々に諦めておこう。
「レベルアップで、召喚できる魔物って増えてるか?」
「……うんう、しないみたい。あ、でも召喚できる物は少し増えたよ?」
主に飯のメニューが増えただけで、有用そうではない。特に俺は食事を必要としないからなぁ。
ナズナが喜んでいるからいいか……
新しく召喚した魔物のフィールドにしようかと思ったんだが……いないのか。それなら今召喚できる魔物を使うしかないだろう。
召喚できる魔物を確認しよう。
スライム、ゴブリン、ファンガス、キラーバット、コックの基本的な5種類。
それからスライム・レッド、ホブゴブリン、ファンガス・ドラッグ、パラサイト・パーティの上位種4種類。
だけ……?
いや、それはおかしい。俺は蟲毒をやったとき、20種類くらいの魔物を見たはずだ。ナズナに1種類ずつ召喚してもらった、それは間違いない。
「ナズナ、召喚できる魔物は何種類だ……?」
「え? えっと、いちにーさんしー……25種類みたい。血統種もそれぞれ作れるよっ」
「俺の方だと9種類しか召喚できないんだが、なにか、心当たりってあるか……?」
この世界で見た魔物を召喚できるって訳ではないのか? いや、そうとしか考えられない。
上位種が増えていたことからこの世界で見た魔物を召喚できるまのだとばかり思って確認を怠っていた。
それなら、どうやって召喚できる魔物を増やしていけばいいんだ……?
「日向くん?」
「え……あ、ああ、大丈夫だ、驚いたが大丈夫だよ」
まっすぐに目を見てくるナズナ。焦っているのがバレてしまったみたいだ。
それでも、ナズナの目を見ていたら焦っていた気持ちは少しだけ落ち着き、整理するだけの余裕を取り戻すことができた。
現状、俺が召喚できなくても、ナズナが召喚できれば問題はない。解決は後回しにして、時間ができたら機械音声さんに聞いてみよう。
「やることは変わらない」
「新階層を作るんだよねっ?」
「ああ、そうするつもりだ」
案としては、ナズナに手伝ってもらってリザードマンやウルフといった種族を多めに配置する階層。
もしくは2階層と同じように迷路形式にしてしまうのもいい。
あるいは中ボスを設定して、そいつのフロアにしてしまうという案だろうか。
中ボスになりうるとするならば、ハウルかパラサイト・パーティだろうか。
ただ、後者はとてつもなく嫌な予感がするんだよな。
こう……授業で課題を出されていた気がするような不安感や、ババ抜きで触れているカードがジョーカーな気がする程度の勘。
そんな科学的根拠もないような直感が、こいつはヤバイと警戒している。裏切られるわけでもなく、ただ悪魔の契約のような、破滅へのスイッチのような……
「……ナズナは、あの箱をどう思う?」
隣でスライム・レッドをもちもちしていたナズナへと、ウィンドウを表示して見せる。
スライム・レッドはウィンドウを見て、怯えたように震えると、地面を這って逃げていく。
心なしか、机……ヌリカベも震えているような気がする。
そしてナズナは。
「え? うーん、ミミックの強化版、みたい?」
……特に何も思ってないのか? 少なくとも、不快感を露にしているわけではなかった。
全くもって原因不明の警鐘に首をかしげる他ない。眷族たちも嫌がっているようで、事実、迷路エリアのパラサイト・パーティがいる小部屋だけ眷族が寄り付いていない。
なら、あいつらにも聞いてみるか。
パラサイト・パーティは持ってみると、意外と軽かった。
しかし、肌を蟲が這うようなおぞましい感触がすることや箱の中身が脈動するように蠢いているため、捨てたくなる衝動をぐっっっっっと抑える。
というよりこいつ、呼びづらいな。ネームドモンスターにしているわけではないから、種族名で呼んでいるわけだが、それにしても長い。
名前。名付けるか……俺が産み出してしまった負の遺産であり、これからも一緒にダンジョンを守るための仲間になるのだから。
箱、か。ゴミ箱とか? ……いや、できれば前向きな名前をつけてやりたい。
前向きな箱……?
フロントだと前面か? ぜんめん、安全面? 安全な箱、セーフティボックス。だめだ、文字数が減ってないし、皮肉っぽいな。
安全、だと皮肉っぽいなら助ける、とか。
助ける……救う、とか助言する、とか。おぞましい箱から助言が貰えるとか、ミミック以上に厄介な箱の気がするな。面白いしそれでいくか。
『アーミ』それがこの箱の名前だ。
まあ、由来はとあるゲームの助言する者ってキャラの名前なんだが、まあ、彼のように俺を導いてほしい。
──どうか、その道標が悪魔の囁きでありませんように。
改めて。アーミを抱えて牢屋へと訪れた。
一応の警戒のために、ハウルを後ろに控えさせているが、今回は特に何があるわけでもなく終わるはずだ。
俺はそう信じているし、実際何が起きるとは思えなかった。
薄暗い牢屋の目の前にくると、壁際に座り込んだままの彼が声をかけてくる。
「なんだよ、飯にしては早いんじゃねえか?」
「やあダニィ。今回はご飯じゃないんだ。見せたいものがあってね」
「は、タバネの首でも持ってきたのか?」
タバネ? あー……俺が殺したあの女の子、タバネって名前なのか。たぶん、彼女のことだと思う。
そっか、タバネちゃんか。優しい子だったな
「──おぞましい奴が、おぞましいものを持ってるとはな。人間よりそんな箱の方が仲間ですってか?」
ダニィと呼ばれている彼は、おどけた様子で喋ってはいるものの、それ以上近づいたら殺すと言わんばかりの殺意をもって、アーミを見ていた。すごいな、全身傷だらけで、腕なんか折れているというのに全くと言っていいほどに心は折れていない。
にしても。なるほど、ダニィのような、普通の人間からしてもおぞましいものとして見えるのか。つまりナズナ以外が嫌悪感を抱く眷族、か。
「俺とどっちの方がおぞましいかな?」
「は、決まってんだろ。その箱はおぞましい。お前は、疑いようもない外道だ」
あまり答えになっていない気がする。ベクトルは違うけれど、同じようなものと言いたいのだろうか?
まあ、今回はアーミをどう思うかを聞きたいだけだったし、一応目的は達したかな。
一応女魔法使いの方にも聞いてみようかな。一緒にいる気の強そうな女剣士ちゃんは、苛めがいがありそうだったし。
「これ実はさ、拾ったんだよね。どうしようかと扱いに困ったけど、いる?」
「てめえが開ければいいだろ。共倒れしてくれれば俺は逃げられて悪は滅びて万々歳だぜ」
「…………追加の罰でも考えておくよ。それじゃあね」
最近、監禁に慣れてきたのか、ダニィの軽口が心に刺さる。
まあ、それはいい。タイムアタックのゲームで多少のストーリーをスキップすると開発者への罪悪感は湧く。これはそういった類いのもののはず、だし。
アーミを抱えたまま、次の牢屋へと赴く。
持っているだけで鳥肌がたってしまうアーミなのだけど、きちんと意思疏通が計れるようで、指先でとんとんしてあげると中からコンコンと同じリズムの反応が帰ってくる。
モールス信号のような感じで、会話ができないものだろうか? 俺がそういった類いに疎いから絶望的な気がするが。
いや、そんな暗号じみたことをしなくても、真っ先に行える意思疏通の確認があるじゃないか。
「俺が質問することに、『はい』か『いいえ』で答えてくれ。『はい』の場合は2回叩いて、『いいえ』の場合は3回叩いてくれ。わかったか?」
アーミへと声をかけ、指をコンと一度だけ叩いた。
これで1回叩けば意思疏通ができていないということで、2回叩けば理解できているということ。3回叩けば、こいつはお茶目さんだと言うことがわかる。
──コン。
振動は、一回だけだった。
「……本当に、わからないのか?」
コンと一度叩きながら質問する。
──コン。
俺の真似をしているらしく、一回だけのノックが返ってくる。
「2回でも、3回でもいいんだ。返事をしてくれ」
おぞましいと思ったはずだった。できるなら捨てたいと思ったほどだった。
それなのに、ただ会話ができないというだけで。俺の言葉が伝わっていないというだけで、泣きそうになってしまう。実はからかっているだけなんじゃないかと、すがってしまう。
──コン。
返事は、『理解できていない』だった。
「アーミは外に出たいかい?」
──コン。
「アーミは、何か欲しいものとかあるか?」
──コン。
「俺に、俺たちに何か言いたいこととかあるかな?」
──コン。
何度聞いても、答えは変わらない。だから、最後に、本当の最後の質問として、ひとつだけ。
「……アーミって名前、さ。気に入ってくれたか?」
──コン。
返事は、変わらなかった。
二階層の牢屋は、いつも通り酷い臭いをしていた。
ハウルが遊んだあとに、誰も片付けることをしないせいでむわりとした性臭が漂っている。
といっても換気しようにも洞窟内だと不可能だし、生活魔法を持っているナズナをここに呼ぶわけにもいかない。
こんなところで飯を食わされるだけでも、十分に罰だと思うんだ。毎度毎度こんなところにご飯を持ってくる俺も罰を受けてるようなものだけどさ。
「──ひっ」
「あ、反応してくれた。珍しい」
シズクと呼ばれていた少女は、最初のような活発さが無くなってしまっていた。
毎時間のようにハウルに犯され。食べ物も喉に通らないだろうに無理矢理食べさせられ、延命させられて。
最初こそは俺への憎悪がかいま見えた。無口無表情な仮面の奥で、ギラギラとして殺意がくすぶっていた。けれど、それもいつしかなくなっていた。
心が壊れた、という訳ではないらしい。
ただ、壊れる寸前で、耐えきるために感情も思考も、全てを殺して時が過ぎるのを待っているようだった。
その瞳に、俺が映るのは何日ぶりだろう?
きっと、一日か、二日か。そのくらいだ。人の心ってものは、存外に脆い。
「……なに、しに……きたの」
「ん? これ拾ったんだけど、見せようかと思って。君にはどう見える?」
「…………………………帰って」
彼女の目には涙が浮かんでいた。
見ない振りをしてきた感情を塞き止めることができなくなってしまったようだ。ダムの決壊を思わせるその、小さな呟きを聞いて。……やっぱり俺は悲しくなってしまった。
「帰って! 貴方の顔なんか見たくないッ! 外道ッ畜生ッ人間の敵ィィ!! 死ねッ! あんたみたいなクソ野郎は死ね!」
「……うるさいよ」
アーミが震えている。ハウルが何を思ったのか一歩前に出て鉄格子を掴んだ。
ガシャンと金属音。ハウルが近づいただけで、シズクは悲鳴をあげた。……相当まいっているみたいだった。
「あー……君、女剣士さん。君にはこの子、どう見える?」
「…………シズクを、解放してあげてください……お願いします……」
斜め向かいの牢屋に入れていた女剣士さんにも同じ質問をしてみる。シズクの悲鳴で聞き取りづらいけれど、それでも薄暗い牢屋の奥で、必死に頭を地面に擦り付けていることはわかった。
「質問に答えないのに要望に答えてほしいってのは、おかしくないかなぁ」
「──っ わ、たし、には……化物に見えます。見るだけで不快になって……、そして……あの…………」
「あー、うん。まあそんな感想でいいや」
聞きたいことは聞けた。
アーミは、ナズナ以外に嫌悪感を抱かせる。それは俺の眷族も例外ではない。
……つまり、ナズナは俺の眷族というよりも、神に作られた存在と言えるのかもしれないが……検証は後回しだ。今はこの場を収めるとしよう。
アーミを床に置き、女剣士さんの牢屋へと近づく。
「で、シズクを解放することはできないけど、ハウルと引き離してあげることはしてあげてもいいよ」
「おねがい、します……っ」
「うんじゃあ──代わりに君は何ができる?」
等価交換という原理がある。
物々交換がそれに近いもので、同価値の物同士を交換するというものだ。この場合は、要望を通すために、その代わりとなる生け贄を差し出せと言うものだ。
……正直、女剣士が俺に出せるものは何もない。例えば『自分が代わりに犠牲になる』という案が出たとしても、そんなのこいつが決めることではない。ただ俺が、ゴブリンに命令すればできることを、『してもいい』と許可をもらう必要はどこにもない。
じゃあなんで聞いたのかというと。
……仲間思いの発言をしたなら、少し位見逃してやろうという考えがないわけではない。
もし今後も何かを犠牲に優遇されるような仕組みを作っていけたのだとしたら、向こうから進んで俺たちの手伝いをさせることができる。それは、裏切られる可能性が高いとしても、自らの意思で行うことならば制御はしやすいと判断したからだ。
「ぅ……あ……」
目線が泳いでいる。
彼女を救うために同じ目に会う選択肢と、このまま見捨てる選択肢。それぞれを天秤にかけ、天秤が静止するまでの迷いの時間。
少し焦れったいその時間に、俺は少しだけ重りを足してあげることにした。
「タバネは解放した。順番に解放していくとしても、このままだとシズクは耐えられないだろうなぁ」
「う、ぅぅ……!」
「君が彼女を見捨てるっていうのなら、次に解放するのはダニィじゃなくて君にしてあげる。のこのこと街に帰って、心が壊れたシズクが来るのを待ってると良い。それは君のせいじゃあないんだよ」
「っ ──っ!」
まだ迷っているようだ。
彼女自身、シズクと交換で差し出せるのが自分の身しかないと思っているのだろう。だからこそ代案を出すのではなく、自己犠牲をするかどうかで悩んでいる。
実際は自分に決定権が無いのに悩んでいるあたり、滑稽だ。けれど、その美しい友情の光景を、もう少し見ていたくなった。
「はぁ、わかった。それなら最後のチャンス……最後に一回だけ選ぶ権利を与えるよ」
名も知らぬ女剣士がじぃ、と俺を見つめてきた。まるで慈悲を乞うような、救いがあると信じているような瞳。
そんなもの、ここには無いなんて俺が一番知っていることじゃないか。
「一つ目は今すぐに君を解放する選択肢。けれどその場合シズクは死ぬまでこのままだ、君が助けを求めるまで、耐えられるかは知らないけどね」
「いま、すぐ……?」
「二つ目」
目前の餌に食いつきそうだったので、代案を提示することにする。
「シズクからハウルを引き離す。けれど君もシズクも解放は後回しだ。ダニィに罰を与えきって解放してから、君たちを順番に解放する」
「っ! ふ、ふたつめ──」
「──駄目ッ!」
つんざくような声で、制止がかけられた。
声の主は発狂していたはずのシズクだった。いまだに鉄格子を揺すって音をたてているハウルに恐怖しながらも、女剣士へと声を投げ掛けていた。
「ソイツを信用しないで! 私のことは放っておいて今すぐ逃げて! ダニィが解放されるかどうかは私たちからはわからない! タバネも! 実際に逃げられたのかわからないじゃない!」
嗚呼、本当に頭の回る子だ。
こんな提案をしておいてなんだが、そもそも俺は三人を逃がすつもりはなかった。貴重なDP補充用の電池を、使えるのに捨てるはずがない。
一つ目の案ならば武器も防具も無い状況でダンジョン内に投げ捨て、それを解放したと言い張るつもりだった。
運が良ければ逃げられるかもしれないが、武器もなければゴブリンにでも捕まるだろうという思惑があった。
そして二つ目の案なら、ダニィの罰を与えずに、先伸ばしにして順番的に解放できないなんて言い張るつもりだった。
ある程度ぼかしたつもりだったんだけど、こうも簡単に見破られるとはなぁ
「……もし」
女剣士が、ぽつりと言葉を漏らした。
「もし、二つ目の、ダニィの後に解放される方を選んだら、シズクにあのゴブリンをあてがうのをやめてくれるんですか……?」
「うん、約束だからね」
「──なら、私はここに残ります。シズクを助けてください……」
彼女は、結局二つ目の案を選んだ。
これでハウルの玩具がなくなってしまうわけだが、まあそれは新たな冒険者でも与えればいい。
俺は交換条件を呑み、ハウルに「シズクに手を出すな」と命令する。ハウルは不満げだが、従った。
さて、用件は全部済ませたか。
アーミを抱え直して、牢屋を立ち去ることにする。三階層を作るはずが、大幅に脱線してしまったなぁ。
「あ、そうだシズク」
シズクは悔しげに唇を噛み、女剣士は満足げな笑みを浮かべていたその牢屋へと、俺は言葉を投げかける。
さっきミニマップ見てて気づいたんだけどさ。
「ゴブリンの子供、妊娠おめでとさん」
「 」
シズクの腹の中には、俺の眷族がいるらしい。
ゴブリンと人間のハーフは、どんな奴になるんだろうな?




