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ダンジョンコア 魔宮 日向 Lv.3③

「それで、優しい優しい日向君は次に何からするのかなっ?」


 俺がナズナの膝枕から立ち上がると、いまだに座ったままで、彼女はそう聞いてきた。

 その表情は、不安の混じった純粋な笑顔とは言えないものだったが、それでもきちんと俺を見て微笑んでいた。

 俺は片膝をついて、ナズナに視線を合わせながら話す。


「まずはサポートキャラを、ナズナの知識を共有する」

「私の、知識?」

「ああ、ステータス見せてもらうぞ?」


 ナズナはこくんと頷く。お礼を言ってからナズナにも見えるように設定したウィンドウで俺と、ナズナのステータスを表示する。

 同時に、俺にだけ見えるようにダンジョンのミニマップ、ダンジョンの一階層入り口付近の様子を表示しておく。……侵入者は、いないようだ。

 あとは、牢屋も監視しておくか。一瞬だけ音声を拾ってみたが、耳に痛いほどの無音だったので音声は切っておく。脱走の様子はない。どころか、今は彼らは寝ているようだ。

 壁に座った状態で、腕に鎖ついてんのに良く寝れるなぁ……



────────────

 名前:魔宮 日向

 年齢:0歳(外見:17歳)

 性別:男型

 種族:ダンジョンコア

 職業:ダンジョンマスター

 レベル:3/99

 EXP:58/240


 体力:17/17

 魔力:17/17

 攻撃力:12

 防御力:12

 敏捷:12

 精神力:14

 幸運:13


 身体:学ラン(防1)


 スキル(SP:1)

 凍心1

────────────


────────────

 名前:ナズナ

 年齢:0歳(外見:18歳)

 性別:女

 種族:フェアリー(眷族化)

 職業:サポーター

 レベル:1/10

 EXP:0/16302


 体力:100/100

 魔力:100/100

 攻撃力:50

 防御力:50

 敏捷:50

 精神力:50

 幸運:50


 装備

 右腕:レイピア(攻50)

 身体:ドレス(防50)


 スキル(SP:0)

 戦略家1

 水魔法1

 生活魔法


 特殊スキル

 特殊罠作製1

 バベル知識1

────────────



 多少項目が増えている点がある。

 色々と気になる点があるが、とりあえず増えたところから見ていこう。

 ナズナもステータスは気になるのか、俺の隣に来てウィンドウを覗き込んできている。ふわりといい香りがする。


「もう一個ウィンドウ出すか?」

「んー……んうん、このままでいい」

「そうか。なら場所を変えよう、いつまでも床に座ってる必要はない、よな?」


 立ち上がり、ナズナへと手を差し伸べる。まるでお嬢様と執事のようだ。


「ベッドとヌリカベ、どっちがいい?」

「ん、んー……ヌリカベちゃんかなぁ」


 眠くないよ、と付け足したナズナだが、生憎俺には眠気はないし性欲もない。

 そんなに警戒しなくてもベッドは横になるか、椅子にするかのどっちかしか用途を見出せないが……まあいいか。コアルームへと移動する。


 まずは俺のステータスからだ。

 隣に座るナズナにも見え易いようにと二人の間にウィンドウを置いて覗き込む。ああ、学校で授業中に教科書忘れたらこんな感じで見せてもらったっけ?


「まずはレベルが3になってステータスが全体的に上がっている」

「うん、ファンファーレは聞こえたよ」

「ほう……他にファンファーレを聞いた眷族は?」

「うーん? ヌリカベちゃんは聞こえたみたいだけど。ねー?」


 ナズナがヌリカベの天板部分を撫でながら微笑む。

 ファンファーレ、か……おそらく、名も知らぬ少女を絞殺した時だ。

 ナズナがなんで俺のレベルアップを知っているんだと思ったが、おそらく俺のレベルアップは眷族に通知されるんだろう。知性のある眷族か、全く無い獣畜生にも通知されるのかはわからんが。

 机♀に、知性があるのか……?



 話を戻そう。

 俺のステータスの上がり幅は、微々たる物だ。それでも元が低いから1.5倍くらいになっているが……なんでレベル1のナズナの半分にもなっていないんだろうか?


「後はEXPが表示されてるね?」

「ああ、次までのレベルがここでも見れるのは楽だな」


 ダンジョン操作の『侵食』で対象に選んで、いくらまでDPを注ぐかの上限を調べれば、わかる。だが、そんなん手間がかかりすぎる。

 そして俺のステータスで一番の変化はこれだろう。


「SPが1だが、増えている」

「新しいスキルが取れるねっ 何をとるのかなぁ?」

「決めてない。何がいいだろうか」


 取れるスキル欄を眺めながら俺のステータスで活躍できそうなものを探してみる。

 凍心なんて外れスキルに1SPも消費したんだよなぁ。すごく、惜しいことをした。ナズナの『戦略家』のように1SPでは取ることのできないスキルも存在するみたいだしな。

 …………ま、いいか。とりあえず放置で。




「それより本題の、ナズナのステータスについてだ。わからないことを聞くから、答えられる範囲でいい、答えてほしい」

「う、うん。頑張ります……」

「気負うな。まず、なんでお前はレベル1なのにこんなにステータスが高いんだ?」


 参考までに名前もつけていない召喚したばかりのゴブリンのステータスと比べてみよう。


────────────

 種族:ゴブリン

 レベル1/5


 体力:30/30

 魔力:5/5

 攻撃力:15

 防御力:20

 敏捷:15

 精神力:20

 幸運:1


 スキル

 棒術2

 回避1

────────────


 ゴブリンのステータスを見てると俺って低くないのでは?って気分になってくるなぁ。

 まあ、人間のステータスはこれと似たようなものと言う訳ではないだろう?

 そうすると、ナズナは十分すぎるほど強いと言うことになる。


「あ、これは私がちょっと特殊なの」

「特殊……?」

「私はね、ほら、サポートキャラだから」


 答えになっていないが、俺が目で促すと続きを話し始めた。


「私はね、レベル上限が10の代わりに、1レベル上がるごとに10レベル分のステータスを獲得できるの」

「つまりこの異様に多い経験値は……」

「うんっ、10レベル分」


 レベル上限は1/10で、1レベル上がると10レベル分の成長。そして経験値は1レベル上げるので10レベル分。

 …………それ、レベル100となんの変わりがあるんだ?


 い、良い所を探そう。


 例えば相手が鑑定系のスキルを持っていて、相手の能力値はわからずともレベルがわかるものとしよう。

 初見殺しになる。相手はナズナをレベル1と見くびってかかるものの、実質10レベルの強さなのだから。



 ああ、あとはあれか? レベル1でもレベル10くらいまでの魔物の相手ができるから経験値の獲得がしやすいか?

 まぁ、ダンジョンでは意味が無いんですけどね、はっはっは。


 はぁ。


「……この特殊スキルはどうやってあげるんだ?」


 使用すれば勝手に上がるのか、SPを使って手動であげるのか、もしくは別の何かなのか。


「ん、これはね、私のレベルに連動してるの。だから私がレベル2になるとスキルのレベルも2になるの」


 なるほど、だからレベルが10までなのか。つまり特殊罠と異世界知識を活用したければナズナのレベルを上げろと……?

 便利、というよりは、そのくらいの得がないとやってられないんだが。まあ、それも置いといて。




「じゃあ、次はステータスから離れた質問をするぞ?」

「……うん」

「ナズナは、この世界の人間だな?」

「────」


 少しだけ、驚いた顔をしたナズナは、口でこそ肯定も否定しないが、きちんと答えてくれた。

 神々からの口封じの、抜け穴。


「答えられないならそれでもいい、わかった。記憶はあるのか?」


 ナズナの目をしっかりと見て話す。

 視線のさ迷い、頬の動き、そういった細かな表情まで見逃さないようにする。

 ナズナは、先程までの驚いて見開いていた目を、少しだけ右左みぎひだりへとさ迷わせた。けれどそれは一瞬のことで、いつも通りの表情に戻った。

 ……記憶はない、のか? いや、それはおかしいか。記憶が全くないのならば、この世界の人間かという質問には驚いたりしないはずだ。


 つまりナズナは、大部分の記憶を失っている? それこそ、10分の1程度しか記憶を持っていないのではないか。

 きちんと返答がもらえない以上、確定情報ではない。表情を読むのは難しいな……


「ご、ごめんなさい……」

「謝る必要は無いだろ? 意図的に黙ってたわけではなく、言えなかったんだろ?」

「う、裏切るつもりはなかったの……っ」


 ナズナは顔を伏せてしまった。だが直前まで見えていた表情や動揺、その声の震えは演技だとは思えなかった。

 俺はナズナの頭を撫でてやる。触れることで震えていることがわかった。ヌリカベに雫が落ちたことで泣いていることに気づいた。


「別に裏切られたなんて思ってないよ。ナズナだって俺の過去を知らないだろ?」

「ぅ……で、でも……っ」

「それともナズナの過去は俺に言えないようなものなのか?」


 不安気な顔でもするべきなのかもしれない。でも、あいにく俺は演技が上手い方では無いからさ。ただただまっすぐ、ナズナの目を見て答えを待つことしかできない。


「────。……ひゅうがくん、少し変わったね」


 まるで答えになっていなかった。

 それでもナズナを信じるって決めたんだ。ナズナを疑うって誓ったんだ。

 俺は答えを聞くのを諦めて、ナズナを撫で続けた。


「それとも。こっちが本当の日向君なのかな?」

「さあ、どうなんだろう。それとも、前の方がよかったか?」

「んうん、どっちも好き」


 ふわり、と花が咲いたように微笑むナズナ。頬に光る涙が、まるで朝梅雨のようでナズナの儚さを助長させた。

 その笑顔に、少し見惚れてしまった。

 何度かナズナの笑顔は見たことがあった。元々美人で、可愛い子だなと思ったことはあった。

 それでも、やっと、ナズナが本当の意味で笑ってくれた気がして。目が離せなくなって、泣きそうになってしまった。


「……どうかした?」

「あ、ああ、すまん。少し見惚れてた」


 俺はこの道を進む。照れるナズナが茶化すように俺の胸をぺしりと叩いた。

 自分の感情も、相手の好意も。全てを踏み台にして、俺は生き残る。

 ……このやり方で正しいんだよな? 俺は、もう間違えてないんだよな?

 こんな道が、本当に正しいんだよな……?

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