ダンジョンコア 魔宮 日向 Lv.2 Last
いい機会だと思った。散々な人生だった。
俺はハウルを連れて、一階層の牢屋を訪れていた。
「……飯の時間にしては、早すぎるんじゃないか?」
男戦士……もう名前も思い出せない彼が、生意気な口を叩いた。
今の俺は、どんな顔をしているんだろう?
「こいつは牢屋から出す。死なれても困る」
「……へぇ、なら俺も」
「ダメだ」
俺は捕まえてから数日、ろくに動きもしない女を牢屋から出すことにした。牢屋から出したときに、抵抗されることを想定して、腰にショートソードをくくりつけている。
今は亡き冒険者から貰い受けたその柄に触れ、少しばかりの安心感を得る。
女の子はハウルに連れていかせることも考えたけれど、俺が持っていくことにした。レベル2の体では、たった一人の女の子を引きずることさえ重く感じる。
力を入れすぎているんだろうか。
手が、震える。
「酷い顔してるぜ」
ああ、そうか。俺は酷い顔をしているのか。
「怒られたいんだ」
「……」
彼は何も答えなかった。いや、答えが見つからなかったのだろう。鳩が豆鉄砲を喰らった、そんな顔だ。
ずり、ずり。
地面に引きずって進むも、彼女は何の反応もない。
それが、俺を不安にさせる。
「ナズナの権限を剥奪する」
まさかナズナが覗き見しているとは思わない。
けれどこうして権限を剥奪するのは、俺がナズナを信じていないからだろう。ははは、酷い話だ。
「ああ、酷い話だ……」
ハウルが俺の三歩後ろを付き従う。
彼にも命令をしている。『俺の行動を見届けること』そして『何があっても手を出さないこと』
引きずってきた彼女を離す。
どさりと地面に倒れたそいつは、小さく呻いたものの、何も反応を返すことはない。
仰向けに寝るその女に、馬乗りになる。
腹の上に乗られようと、彼女は反応しない。ただ、小さく胸が上下していることで生きているとかろうじてわかる。
「……っ、っ」
だから俺は彼女の首に手をかけた。
ギチギチと首を絞める。
さすがに首を絞められるのは苦しいのか、彼女が僅かばかりの反応を見せた。
それでも反応は僅かだ。俺の手にそっと手を重ねる程度。
振りほどこうとはしない。
ただ、何をされているのか再確認して、その上で受け入れたような反応。それが俺を苛立たせる。
「抵抗……して、くれ……っ」
「ぁ……ぅ、ぁ……!」
絞める。
喉全体を締め上げ、空気の通り道を全て押し潰す。
彼女の体が痙攣する。本人の意思とは無関係の反射的な抵抗。
そうじゃない、これじゃない。
ぎち、ぎち……手に伝わる肉の捻れる感覚が、気持ち悪い。
涙が溢れてくる。
「ぅ……ぅぅ……っ」
「 」
俺が呻き、彼女はまったく反応を返さない。
しかし呼吸ができないせいか、胸が不規則な痙攣をする。生きている。まだ大丈夫なはずだ。
その顔を見る。
目はきゅっと閉じられ、唇の端から唾液が頬へと流れ落ちている。
痙攣さえなければ、寝ていると言われても信じられるほど綺麗な彼女の唇を、無遠慮に奪った。
ちゅ、ちゅ……と数度の接触をする。涙を溜めた目がこちらを睨むように見た。
怒られると思った。怒ってもらえると思った。
だから俺は調子に乗った。
唇を合わせたまま、舌で口内を蹂躙する。
上唇も、下唇も。ぷるぷるとした柔らかい感触を舐め、舌をさらに伸ばす。
抵抗するように閉じられた歯を、ノックするように叩くと、首を絞められ続けていることもあって苦しいのか、ゆっくりと開かれた。
さらに舌を伸ばす。
上顎も、下顎も、内頬も……その小さな舌も。
触れたことのない場所がなくなるように、未踏破のマップを埋めるように、すべて蹂躙する。
彼女は……名も忘れたその少女はただ俺を睨む。もう力も入らないその腕で俺を退かそうとして、失敗する。
その手が少しばかりさ迷う。俺の腰のショートソードに触れる。
彼女は、ふっと気の抜けたような笑みを浮かべ──
なで……なで……
なぜか、俺の頭を撫でてきた。
「……ろ、ぃ……ぉ……」
幾ばくかの時間が過ぎ。彼女の手が地面を叩いた。
ぺちん、と手の甲が力なく地面を叩く。
体の痙攣がなくなっている。
力を入れすぎて自由の効かなかった手から、ようやく力が抜けた。
俺の手形がくっきりと残った首。せっかくの白い肌に、赤い手形。
服を押し上げるなだらかな胸は、もう動くことはない。
俺が腹に座っているからか、そうでないのか、ちょろちょろと僅かな水音と共にアンモニア臭が漂う。
そっと、彼女の背中に腕を回して抱きしめる。
ぐったりと上体を反らす彼女を、恋人のように抱きしめることしかできなかった。
頭のなかで、祝福するようにファンファーレが鳴り響いた。
レベルアップおめでとう日向君!!(ゲス顔)




