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ダンジョンコア 魔宮 日向 Lv.2⑧

『マリア様がおっしゃっていたダンジョンって、ここのことだよね……?』

『書いてもらった地図的にはそうみたい。注意して進むわよ』


 侵入者があったのは聖女が出ていってから30分もしない頃。

 入り口付近でペラ紙……おそらく地図だろうものを覗き込みながら入ってきたのは、二人。

 どちらも腰に剣を吊り下げ、防具を身に付けている女だ。



 マリア、という聖女の名前を出しながら周りを警戒しているのは小動物のような、可愛い系のちんまい女。


 しかし見た目や声色とは正反対に、赤を貴重とした全身を覆うようなフルプレートメイルを着こみ、クレイモアと呼ばれる両刃の両手剣を片手で持っている。


 予備だろう、腰のロングソードがちんまく見える。


 それに両手武器を片手で扱うだけじゃなく、四角形でしゃがめば身をすっぽりと隠せそうな大盾をこれまた片手で持っている。

 命名、怪力ロリ。



 そして怪力ロリの相棒の女は、どちらかというと美人系の、高身長スレンダーウーマン。

 軽装で、胸当てと鉄のブーツみたいな……脚甲? をしている程度。動きやすそうなズボンから覗く足がドギマギさせる。


 得物は腰のショートソードに、背中に長弓、腰のポーチからはピッキングツールのような小物が詰まっているようだ。

 地図を折り畳むと小物入れに仕舞う。そのあとそこからカンテラを取りだした……が、明らかにカンテラを収納できるサイズじゃない。

 マジックバッグみたいなもの、やっぱりあるのか?


 こいつは尻拭いウーマンと呼ぼう。長い、お前は今日から尻拭いだ、いいね?



 ……まずいな。どう乗りきるか。ふざけてる場合じゃない。


 相手は二人とは言え、明らかに装備が整っている。つまりあの聖女並……少なくとも聖女と一緒にいた騎士並の実力はあるだろう。

 しかも迷い、偶然にここに来たというわけではなく、聖女から場所を聞いて準備をした上で来たらしいな。


 つまり一階層の大体の構造、出現モンスターは把握され、ボス部屋の位置もおそらく新種だろうコメのことも割れていると考えて対処しよう。



 そして性別。

 今のところダンジョン最高戦力で、男に対しては無敗のペコちゃん……『男性絶対殺す投石器』が使えない。

 対女性の眷族でも作るか、虫系の眷族で蠱毒とかして。うまくできたら侵入者の性別で使い分ければ良いわけだし。



 最後の問題。1階層は血統種しかいないフロアだ。

 2階層のように迷路状でもなければ、眷族の数も多いわけではない。むしろ少ない。少なすぎる。


 ……じゃあ2階層と入れ換えておけよって何度も自分に突っ込んだ。

 だが少し考えてみる。迷路フロアを突破され意図的なモンスターハウスを引き起こすとして。

 それが突破された後に控えているのが、眷族の数が少ないフロアと、戦闘力未知数のコメってのは……純粋に怖い。



『それにしても、マリア様もわかってるよね』

『なんたって幼馴染みだもの。聖女に選ばれたとは言え、私たちのこと覚えてるのかも知れないわ』



開始スタート』『転移』「ゴブリン5体、ファンガス2体」『命令』「侵入者を排除しろ」


 聖女撃退時のDPを使い、小手調べの眷族を送り込む。といっても7体を転移させるくらいなら20DP程度の端数だ。


『待って、敵が来てるわ!』

『了解、支援お願いね』

『任されたわ』


 先手を取ったのは向こうか。

 木々の影になっていて、多少見えづらいはずなのに近づかれる前に発見し、迷わず長弓を構える尻拭い。

 怪力ロリも盾を構え、迎撃の姿勢だ。


「日向くんっ」

「どした、ナズナ」

「血統種のゴブリンが侵入者に近づいてるよ。どうしよう……」

「いや、いい。そのままにしておこう。逃げるも戦うも任せてみよう」


 俺の隣でウィンドウを眺めていたナズナが声をあげた。

 ミニマップは開いていたものの、見逃していた。俺はナズナにお礼を言いながら、敵の戦闘を見学する。

 正面に5体と2体、背後から2体。……さあ、どう乗りきる?




 ──ヒュガッ

 長弓から放たれた矢が、盾を構えてヘイトを集める怪力ロリの真横を通過し、ゴブリンの眉間に突き刺さる。


 ──ヒュガッ

 さらにもう一射。同じく眉間に突き刺さるところを見ると、相当弓の扱いに長けているらしい。

 嫌だね、弓の名手。飛び道具ってだけでも厄介なのに。


「怪力ロリは後回しにして先に弓兵を倒せ。ファンガスは胞子で支援だ、味方を巻き込むなよ」


 指示を飛ばすと、ゴブリンたちの動きが変わった。

 怪力ロリの盾へと攻撃を仕掛けようとした瞬間の命令だったため、奇跡的にフェイントを入れたみたいになったらしい。

 タイミングをずらされた怪力ロリの横をすり抜け、2体のゴブリンが尻拭いへと肉薄する。


『くっ……!?』

『ギャアア』


 怪力ロリの振るうクレイモアの餌食になったゴブリンは、死の間際に得物のこん棒を投げた。……いや、たんにすっぽ抜けただけなのかもしれないが。


 至近距離で2体から振るわれるこん棒。尻拭いはタンッタンッとステップを踏んで避ける。

 だが避けた先に飛来するこん棒。腰の剣を居合いのように振るい叩き落とす。

 だがまだ止まらない。背後から迫る血統ゴブリンの一撃。体勢は崩れている、体は動かせず、両手も使えない。


 完全なる詰み。

 ボゴォと鈍い音がしたものの、対して痛そうにもせず、ゴブリンへとヤクザキック。


 ……むしろここまで連携させてようやく一撃を入れられるほど、実力差がある。

 そしてようやく一撃を与えても、攻撃力が低くて対したダメージにはならない、か。


『フィナ、お願いっ』

『は~い! ──え、うそっ!?』


 怪力ロリ……フィナと呼ばれた女が盾を捨て、クレイモアを横凪ぎに振るう。

 ゴブリンからしたら背後からの一閃だろうが、第三者の俺が見ているから避けるように指示を出すことができる。

 しゃがませるだけで避けられたのは、たんにクレイモアの重さで急な軌道修正が難しかったからだろうか。


『ギャアギャ──アッ』

『ギャアア──ギャッ』


 尻拭いが前転のように地面を転がり、長弓を構えた。

 転がりながら矢をつがえたらしく、座射の体制で即座に2連射。その全てがゴブリンの眉間に突き刺さる。


 ……さすが、自分の尻拭いもできるとは。

 名付けた俺が言うのもなんだが、ぴったりの名前なんじゃないか?


『さっすがローズ』


 怪力ロリがそう言いながらファンガスを仕留める。袈裟斬りからの投擲。

 武器を捨てるな、と言いたい。だがこいつの精度も洒落にならない。


 たった2人でダンジョンに来るだけのことはあるな。


「ナズナ、どう見る?」

「え、えっとね…… 確かに攻守のバランスは取れてるけど、少し経験不足なところがある、かな?」


 戦略家スキルのおかげだろうか。期待はしてなかったが、予想以上にまともな評価がきた。

 すごーい! つよーい! くらいの評価で和むところまで予想してたんだが。まあいいか。


 経験不足、か。

 もしかしたら村の近くでしか狩りをしたことがなく、行動パターンが決まっていた、とか?

 それならゴブリンのフェイントに対応できなかったのも頷ける。


「経験不足、それと若干の油断があるな…… そこを突くか」

「覚悟は、できてる……?」

「ああ、できてる」


 人を殺す覚悟。

 一人殺そうが、二人殺そうが、いまさらな話だ。




『なんか、ドッと疲れた……』

『そうね、あの統制のとれた動き……上位種がいるかもしれないわ』

『ゴブリンキングとか?』

『かもしれないわ。どうしましょう……』


 うちにはホブゴブリンが2体いるけど、その上位種なんていないぞ。

 強いて言うならダンジョンマスターがいるぞ。


『マリア様は一階層のボス部屋まで行けたらしいけど……』

『空飛ぶ魔物の群れ、だったかしら?』

『マリア様って絵心ないよね』


 やはりボスの情報は伝わっているらしい、が……空飛ぶ魔物の群れって伝えかたはどうなんだ?

 あとなんで急に絵心の話に? コメの絵を書いて説明した、とか?

 どっちにしろ、正確に情報が伝わっているわけではないらしい。


『転移』ゴブリン5体『命令』「侵入者をボス部屋まで誘導しろ」


 むき出しになった木の根を椅子代わりにしていた彼女たちは、ゴブリンが近づいてきたことを悟ると立ち上がった。

 俺はゴブリンたちを停止させた。近づいた後に逃げようとしても矢が飛んできて殺されるだろう、なら、最初から付かず離れずの距離で追ってきてもらおう。

 ミニマップを見ながら木で射線が通りにくいルートを考える。そしてそのままゴブリンたちを移動させる。


『……帰っていった?』

『まずい、上位種のところへ行ったのかもしれないわ。追いかけて叩く……それとも今回は引くべきかしら』

『本当に上位種がいるなら、村にまで攻められる可能性があるよね?』

『そうね。でも今は聖女様がいるわ、準備する時間はあるはずよ』


 聖女と崇められる存在であろうと、村の防衛戦力として酷使する予定らしい。鬼か。

 そして、このまま帰るならいいが追いかけてくる気配もなかったため、誘導用のゴブリンたちを再び停止させた。

 食いつくか……?


『監視されてるのかしら。それとも、誘われてる……?』

『どっちにしても厄介だね』

『そうね。……追いかけましょうか、捕まってる人がいないとも限らないのだし』

『私たちまで捕まらないようにしないとね』


 捕まってる人いるけど見逃してくれませんかね。


 会話を盗み聞きしてる限りでは、相手の目的がはっきりしない。

 聖女に場所を聞いて、飛んできたわりには攻略を急ぐ気はないらしい。だが、そしたらなぜ来た? なぜすぐ戻らない?


 考えられるのはダンジョン攻略をして、コアを破壊する気だが死に急ぐ気は無い。もしくはダンジョンの危険度を測りに来た?

 それとも何か求めてるものがあって、それがどこかのダンジョンにあるからダンジョンを片っ端から攻略してる……。


 ダメだな。すべて推察の域を出ない。

 だがもしも、ダンジョンの脅威度を測りに来ていて、安全かつ有益と判断されれば。よく小説で見るようなダンジョンを中心に街ができるってパターンか。

 よし、それを目指そう。冒険者が頻繁に訪れ、なおかつ攻略の手を緩めてくれれば……!


 即座にゴブリンへ命令を出す。誘導をやめてただひたすら逃げるように指示を出す。

 知性が高くて上位種がいるってかんぐられるのは避けたい。そのためには多少のDPは支払おう、血統種たちは補充できるが、俺たちはできない。


『付かず離れず……ってあれ、一気に離れてく?』

『罠の可能性があるわ。少し引き返して様子を見るわよ』

『あ~い』


 彼女達もそんな必死にゴブリンを追っていたというわけでもないので簡単にまくことができたようだ。そうでなかったとしてもミニマップで監視してる俺らがナビゲートするゴブリンに追いつくのは難しかっただろうけどな。

 こんな考えだから上位種を疑われるのでは……?


 近くの木を盾にするように身を隠している彼女達だが、罠でもなんでもないのにただただ警戒している人を見ると、馬鹿にしたいような、慎重さを褒めるべきかよくわからない気持ちになる。

 およそ1分後に出てきたが、彼女達も釈然としない顔をしている。


『ほんとに逃げただけみたいね……』

『最初は立ち止まりながら距離を測っていた気がするんだけど、気のせいだったのかな?』

『ゴブリンがあの距離で感知できるとは思わないのよね。でも、なんかいやな予感がしたのよ……』

『うん……』


 さて、改めて。彼女達の目的はなんだ?

 さっきの罠かもしれないから様子を見ようってのは、ダンジョンの脅威度を測っているように思う。聖女が遭遇したのはスライム、ゴブリン、ファンガス。そしてオコメだ。つまりボス部屋に行かなければ彼女達なら余裕で生還できる戦力ということだろう。

 ボス部屋に入るか、入らないか。それが目下の問題か。


『……フィナ、来た道覚えてる?』

『えっ そういうのっていつもローズがしてたよね……?』

『ゴブリンに警戒していたし、同じような地形でわかりにくいのよ』

『それは私も同じだよ~……』

『『……迷った!?』』


 あほかな?

 確かに、森エリアだから見える範囲には木しかない。ミニマップのように、木の幹だけが点で表示されているわけではなく、現実では枝や葉が視線を遮る。

 獣道もない現状なら迷っても仕方ない、か。

 彼女達はとりあえず向いていたのとは逆方向へと向かっていった。ボス部屋を目指しているのか出口を目指しているのかはわからない。




『左前方、2体かしら』

『切る? 逃げる?』

『とりあえず敵の様子見かしらね』


 彼女達があっちへふらふらこっちへふらふらすることおよそ5分。ヒヤヒヤしながら見守る俺らの気持ちになってくれと言いたいがまあそれはいい。

 彼女達の……正確にはローズと呼ばれる尻拭いウーマンの索敵範囲を大体予測し、血統種たちを逃がしていたんだが、ファンガスたちが見つかってしまったようだ。

 ふむ。大体5マスくらいか。つまりボス部屋に入る時に牢屋に気づくかは微妙なラインだな。


『いた。ファンガスが1体ね』

『一体……それに移動中ってことは、はぐれ?』


 数が少ないからそもそも群れもはぐれもないんだが。


『確かに聖女様が言っていた構成みたいね。できたてらしいわ』

『ボス部屋も見たかったけど、一旦帰る?』

『そうね、時間稼ぎにも限界はあるでしょうし』


 会話しながら武器を構えだしたので、ファンガスに警戒を促す。

 露骨に視線を向けたりせずに、移動速度を速めることもせずに。ただいつでも反撃できるようにしている……のかもしれない。何が変わったのかわからん。


 ──ヒュッ

 風切り音。しかしギリギリのところでファンガスは避けることに成功した!

 そして即座に胞子を噴出する。スモークを炊いたように黄色に染まった視界では、ファンガスを狙撃することはできないだろう。


『外した……?』

『腐ってもダンジョンってことなんじゃない?』

『練習不足よ……』


 なんでファンガスに避けられただけでこの世の終わりみたいな顔してんだこの尻拭い。

 てか腐ってもダンジョンってなんだよ。できたてほやほやだよ、くさってねーよ!


『せいっ』

『きゅもぉぉ……!』


 怪力ロリが盾を背負ってクレイモアを一閃。胞子の中を突っ切ったため、ファンガスの反応が遅れ、致命傷を負った。

 悲しそうな顔が悲痛に歪む。


 そのまま耐性を崩したところに尻拭いの二射目。今度はファンガスの真芯を捉えていた。

 ……なにが狙撃することはできない、だよ。できてんじゃん。


『やったわ……! ──なっ!?』

『あっ』


 ファンガスが死に絶える瞬間。最期の攻撃、胞子を再び放った。

 彼女達は倒したと油断していたのか、思いっきり胞子を吸い込んだのが見えた。


 さっきから迷ってて出口はわかってない状況で、即効性に定評のあるファンガスの胞子を吸うとは……運がないなあ。捕虜の仲間入りかな?


『はい、解毒薬よ。やっぱり経験不足かしら』

『素振りや模擬戦だけだとわからないことって多いみたいだね~』


 尻拭いがポーチからビンを取り出して飲み始めた。

 彼女が言ったとおり、解毒薬だろう。装備が整っているとは思っていたが、解毒薬持ってるとはなぁ。

 今度からは数回にわけて麻痺させるか、遅効性の麻痺を作り出すかしないと、攻略されてもおかしくない気がするな。


『……帰りたいわ』

『出口どっちぃ……』


 もう少し彼女たちにはうろついてもらって、ダンジョンの改良点を見つけてもらおうかな。

 血統種ファンガスを3体召喚して1階層に転移させながら、監視を続けることにした


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