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ダンジョンコア 魔宮 日向 Lv.2⑦

 嵐のような聖女はあのままダンジョンの外へと走り去った。

 一階層に残ったのは蹴り殺された無惨なゴブリンの死体と、心なしか呆けているように見えるコメたちだった。


「……なんだったんだ」

「聖女様、なはず……」




 数値で今回の被害を確認しよう。

 10pt使って機械音声さんに追加してもらった表計算ウィンドウにデータを入れていく。

 念じるだけで計算式を入れることができ、即座に答えを導き出してくれる。しかも頭で思い浮かべた図形を表示することもできるので、お絵描きソフトにもできそうだな。

 問題としては10分ごとのオートセーブ時に10pt、それとは別でセーブ1回ごとに10pt消費すること。また、出力する方法がウィンドウしかないため、紙とかのオフライン媒体にするには手間と紙代とかの手数料がかかることか……。

 お絵描きとかしたところでウィンドウ開けば金がかかり、オフライン媒体に転写するには手書きなので精度が落ちる上に時間がかかる。

 というかそもそも。


「ナズナって紙とペンの召喚ってできるか?」

「うーんと……あ、できるみたいっ。する?」

「一個ずつ頼む」


 ペラ紙一枚10DP……これも質が悪い。地球のものと比べるのがおかしいんだが。……まあ、使えりゃいいか。

 そしてペン。カートリッジのインク詰め替え式なのは別にいいんだ、初回特典なのか本体特典なのか、一回分のカートリッジが入っていることはありがたいんだ。200DP、か……

 詰め替えのカートリッジは1本10DPらしい。今回は召喚してもらわなかったが、必要になればしてもらうことにしよう。


 俺はただ収入額をそれぞれ思い浮かべ、その全てを足すように要求するだけで、結果が出る。

 あ、このソフトの問題見つけた。

 念じるだけで打てるから、キーボード入力よりぜんぜん早いんだが……少しでも雑念──例えば計算結果とか──が混じるとそれごと出力されてしまう。

 だから俺は計算式を思い浮かべ、その結果を見ることなく次の計算式を思い浮かべなければならない。


「計算ソフトって、便利だなぁ」

「うんっ こういう魔道具増えてほしいねっ」


 俺は手元の紙に計算結果を書き写していく。

 ついでに今日の日付……はわからないので自分のレベルを書いておく。あとでファイリングしておけば、何かの役に立つかもしれないからな。



 ──────────────

 レベル2-1

 ○収入

 聖女撃退1000DP

 近衛騎士撃退800DP

 捕虜収容4800DP

 ・合計6600DP


 ○被害

 血統ゴブリン1体

 血統スライム4体

 血統ファンガス1体

 ゴブリン18体

 ・DP換算1060


 ○支出

 紙1枚10DP

 ペン1本200DP

 機械音声さん通話10pt

 表計算ソフト20pt


 ○残額

 151pt

 5514DP

 ──────────────


 っと、こんなものだろうか。

 召喚陣の分があるから、一応プラスにはなっているものの。討伐していないためptが手に入っていない。

 最悪はDP用の電池……捕虜の4人を殺せばptを得ることはできるが、手にかけたくないと思うのは俺が甘いのだろうか。

 甘いんだろうなぁ……そんなんだから逃げられそうになったのだし。


 うん、ルールを決めよう。

 自分が甘くなりすぎないように、ナズナを生かすためにこの手を汚し、外道の道に落ちないように。

 1、捕虜は基本的に全員殺す。時間制限が迫ってきていたから仕方なく、なんて言い訳がましいことは言わず、俺が生きるために殺す。

 2、捕虜にするものや殺すものはダンジョンに攻めてきた者を優先する。斥候隊に指示を出して近くの村から人間を拐ってくる、などということはしない。

 3、ナズナやネームドモンスターを見捨てるようなことはしない。それがどんなにつらい状況であっても、家族は助け合わないといけない。


 くらいだろうか。

 うん、正直1番と2番だけでいいんだが、3番を努力目標として設定する。

 もはや放置できない放置ゲー、稿難易度のマゾゲーだが、さらに縛りプレイをする。結構じゃないか、それでこそゲーマーってもんだろ?

 紙をさらに1枚召喚し、ルールを書き出す。


「ナズナ、何か付け足したり消した方がいい部分はあるか?」

「うん? ……日向くん、これ……っ」

「状況での最善手だから仕方ない、なんて言い訳はしたくないんだ。俺は俺の意思で殺る」

「……ひとつだけ。1番をね、『日向くんと私が生きるために』って変えてほしいの」


 戦略家のスキルだろうか。いや、そんなものがなくても、ナズナに罪の意識を持たないでほしいと意図的に書いた文章を見破られたのかもしれない。

 俺一人に背負わせることなく、自分も共犯者になる。なんて……前世があって巻き込まれたナズナが気負う必要なんてないのにさ。


「……お前は、優しいやつだよ。だから俺が厳しいやつになる」

「無理だよ。だって、日向くんはすごーく優しいもんっ」

「そうだといいな」


 ナズナの頭へと手を伸ばす。なでりなでりと数回髪を弄んだあと、手を離しウィンドウを召喚する。

 ダンジョンのことを考えよう。ダンジョンのことだけを考えよう。

 俺が本当に優しいのかとか。本当に人を殺せるのかとか。ルールを決めてやっていけるのかとか。……ナズナが撫でられる瞬間を微かに顔を強張らせたこととか。

 そういうことはいったん考えるのをやめよう。



 血統種の眷族は死んだ分補充をして、再び1階層に送り込む。繁殖できるらしいから召喚してフィールドを与えたわけだが……いまだに数は増えていない。ゴブリンは繁殖力が高いと思っていたんだが、さすがに1日もせずに増えるということはないらしい。

 もう少し様子を見るか。


 普通のゴブリンについては補充はしなくていいだろう。ただでさえ召喚陣からぽこぽこ産まれてるわけだし、DPがもったいないからな。






 ついでにダンジョンの様子を見ていこう。

 特殊進化の条件を探るために、名前を付けた進化待ちの魔物がたくさんいるわけだし、たまにはどうなってるのか見ておきたい。進化の兆候を発見できれば、今後の参考にできるかもしれない。手探りでしか進められないゲームで、プレイヤーは俺一人だから、検証もデバッグも俺一人でやらないといけない。

 ……ナズナはほら、サポートフェアリーだし?


 まずは2階層のボス部屋から見ていこう。

 一番ダンジョンコアに近い位置にあるため、ここを突破されると死を覚悟しないといけないラインだ。

 いるのは3体。ファンガス・ドラッグの『オオバコ』と口元をタオルで隠し手にはナイフを持つゴブリン、そしてそのゴブリンの頭に乗っているスライム。

 オオバコは進化しないとして、ゴブリンとスライムはファンガスの胞子に適応するのかの実験だ。

 パッと見、変化はない。手足に痺れが出ているのか、素振りをしづらそうな様子を見せる程度か……


 そして同じく2階層。パラサイト・パーティだけが鎮座する部屋。

 進化するなんて欠片も思ってないが、一応確認しておこう。

 機械音声さんに表計算ソフトを追加してもらうときに『眷族改造』を追加してもらおうと思ったんだが、不可能と言われてしまった。

 せめて箱状ではなく腕か足があれば戦力になりそうなんだが、うん、無理なら仕方ないか。進化させるとさらに凶悪になりそうで手が出せない。

 今はもて余すが、いつか活用してやりたいものだ。


 2階層の牢屋……は、後回しにしよう。うん。



 次は1階層を眺める。

 血統種と呼ばれる、繁殖能力も食事能力も持つ、普通の生き物のような眷族が集まるフロアだ。

 14×22の長方形をぶち抜いて、森林エリアとしたここは外の世界を再現したような場所だ。……外を見たことがないから、俺が思う異世界を再現した場所、というのが正しいのだろうか。


 スライムが水や草を食べ、細胞分裂みたいに増える。目の前でスライムの分裂を見たナズナがはしゃいでいるが、どうしてもウィンドウの端に見切れる交尾中のゴブリンが邪魔で喜べない。

 スライムが増えるが、ゴブリンに捕まり捕食される。ゴブリンは草もスライムも仲間の肉も、何でも食べる。

 そして聖女に蹴り殺されたゴブリンの死体はゴブリンに食われ、スライムに舐められ、ファンガスの苗床になる。



 3体だけだが……上手く食物連鎖ができてるんじゃないか?

 どこかに偏っても食糧難でいいバランスに戻るだろう、戻らなければ俺が手を加えて戻せばいい。

 DPがに余裕ができたらちょこちょこ拡張していこう、広ければ広いほど規模がでかくなる。


 そして別ウィンドウで見ていて気づいたのだが、1階層のボス部屋。俺とナズナの伝言ゲームにより産まれたコメだが、こいつらも独自の食物連鎖を持っているみたいだ。

 コメたちは100体の群生だ。1つ1つが10センチとでかいことを除けばそんなに違和感はない。

 コメも血統種と同じように、食糧を必要とするらしい。つまりは食糧がないと餓死してしまう。

 そこで約3割のコメが浮かぶことをやめ、地面に横たわる。

 その横たわった──死んだ?──コメ1体に対し、2体~3体が集まり食事を始める。所謂共食いというやつだ、止めようかと思ったがやめといた。

 そうして共食いを終えたコメたちは、その下半身──コメの胚芽という欠けた部分がある方──を地面に差し込み、卵を産んだ。

 基本は1個みたいだが、2個産む奴もいれば1個も産まなかった奴もいる。


「共食いして、新しい仲間を産んでいくのか……」


 食われた個体になにかしら共通点があるのかもしれないが、そもそも個体の判別がつかないやつらだし、一生わからないままなんだろう。

 だが、年老いた個体が食われ、養分となり、新しい個体が産まれるというと……木の生まれ変わりを早送りに見ている印象を受ける。

 コメは木だった……? 植物というカテゴリーでは一緒だし、似通ってるのかもしれないな。



 ダンジョンの監視に戻ろう。1階層の牢屋だ。

 ここには男戦士と女弓使いが収監されている。男戦士のダニィは四肢を折っているため、地面を寝転がったまま動けないようだ。

 一応森エリアから取ってきた枝で添え木をしたものの、俺自身骨折したことがないので正しい処置ができたのかわからない。

 ……できるだけ飼い殺しにして、ptが足りなくなったら殺す予定なので骨が変にくっつくとか別にどうでもいいんだけどさ。


 問題はダニィの中身だ。

 最初にゴブリンに命令して切り刻んだ際、俺は止血のためにスライムをダニィの胎内へとぶちこんだ。

 スライムの体液を内側から傷口に押し当てることで血が出るスペースを無くすという、ある意味包帯みたいな使い方をしたんだが、特殊進化しないかと期待した部分もある。

 ……ふーむ、見た感じ。変化はしていないかな? まあ、ご飯与えに行くときにでも取り出して確認してみよう。



 さて、あとは二階層の牢屋だけか。……といっても、あそこに特殊進化しそうな眷族はいない。

 強いていうならハウルがよく通っているのでそれの監視、だろうか。召喚した眷族とは言え、あいつも男、いや雄というべきか。そして番として与えたのはあの(・・)女魔法使いだ。

 篭絡されないとは言い切れない。


 女魔法使い……シズクとは、本気で仲良くなれると思っていたんだけどな、なんで裏切られたんだろうか。

 あいつのしっかり目を見て話すところ、わりと好きだったんだが、演技だったのだろうか。

 仲良くなってから外の世界の情報を聞き出そうと思っていたが、今度は尋問して聞き出すことにしよう。

 ハウルの番をやめさせる。ダンジョンから解放する。なんて交渉材料が手元にあるわけだし、ハウルと俺で飴と鞭をすれば寝返るかもしれないしな。


 ……自分で取り上げたものを返すから情報を寄越せとか、それなんてマッチポンプ。

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