ダンジョンコア 魔宮 日向 Lv.2③
胸糞注意
聞いたことのないアラートが鳴り響いた。
ビープー、ビープーとなるアラートなんて、俺は設定してないぞ!?
牢屋の図々しい捕虜連中にご飯を運び終え、えっちらおっちら歩いて戻ってきた矢先の出来事で、俺は慌てて住居エリアへと走る。
「ナズナ、何事だ!」
「わ、わかんないっ」
涙目のナズナは、あたふたしているものの、必死にダンジョンのミニマップから異変を探し出そうとしている。
半ば無理矢理にナズナを椅子に座らせ、深呼吸を促す。落ち着け、俺もナズナも、まずは落ち着け。
ウィンドウを表示する。
侵入者のアラートではなかった。
考えろ。ダンジョン防衛において、元々設定されるようなアラートはなんだ。
DPやptが0になり、徴収できないパターン。
「ptとDPは正常値だ」
「侵入者が来てる訳じゃないみたい」
他ダンジョンからの侵略か? いや、でもそれなら侵入者と同じ扱いになってもおかしくはない。別の可能性だ。
なら……仲間割れ。もしくは眷族の寝返りの可能性。
時間がもったいないが……一階層からしらみ潰しで状況を探りつつ、眷族たちも見ていくか。
「ナズナはダンジョンコア、住居付近を優先して異変を調べてくれ」
「わ、わかった」
ナズナが言っていた通り、侵入者が来たというわけではない。
血統……つまりは生殖ゴブリンたちを見てみるが、何匹かの腹が膨らんでいるだけで異変はない。……いや、これが異変か?
アラートを鳴らすようなことか? 他に見落としがあったら?
くそ、一応全部見ておくか。てかゴブリンの繁殖力ぱねぇ。
「……一階層、問題ない」
「ダンジョンコア付近問題ないよっ」
ほんとに何のアラートなんだよ……。
今度はナズナに数値を監視してもらう。もしかして、外部の介入によってDPが吸われる可能性もある。
介入を受けたアラート、俺が見たときにはまだ吸っていないが、その後に吸い始めた……なんてパターンなら笑えない。
二階層のミニマップをざっと眺めたとき……見つけた。見つけてしまった。
牢屋エリア、捕虜を現す紫色の数は元々4つあった。しかし今では1つが、赤く変わっている。
脱走。
俺の脳内にその二文字が浮かび、それでも、まだ位置的に牢屋のなかにいることから何かの勘違いだと思い込む。
いや、勘違いであってほしい。
俺は牢屋エリアの詳細を別ウィンドウで表示する。
『──選べよ。動くか、死ぬか』
『………………逃げますわ』
開いた瞬間に聞こえてきた音声がそれだ。
これを聞いてまで勘違いだと思い込めるほど、頭の中が湧いているわけではない。
見ると、女魔法使いの手枷が砕け散っている。
捕虜から侵入者へと戻ったら理由は、手枷が壊されたため『ただ牢屋の中にいる侵入者』というくくりになったかららしい。
「……日向、くん」
ナズナの声。
咄嗟に表示したウィンドウは、ナズナにも見えるようになっていたらしい。
「冒険者ってのを、舐めてたのかもしれないな」
たった一回の拷問で安心しきっていた。
話してみて意外といい奴らで、地球で会えてたら友達になれてたんだろうな、なんて、考えて。
俺がダンジョンマスターじゃなかったら、外に出られるんだったら。なんて一人で思い上がってさ。
俺は前回の防衛時に設置したものの、使わなかったスピーカーを起動させる。
「牢屋エリアへ伝達。……『脱走行為が見られたため、罰を与える』」
『ッ!?』
そう、罰だ。罰を与えなければいけない。
友達? 仲間になれる?
そんなバカみたいな考えはもう捨てよう。
この世界に捨てられたときから、俺はもうダンジョンマスターで。人類の敵になったのだから。
「ナズナ、見ないでいてくれるか?」
「……えぇと」
「俺はきっと、君が嫌うような酷いことをする。君のトラウマをほじくりかえすことになる。軽蔑してもいい、愛想尽かしてもいい……でも、見ないでほしいんだ……」
「泣かないで、日向く──」
「……『凍心』、『転移』」
泣いてない。俺には感情を凍らせるスキルがある。
泣きそうになっても、一定以上に感情は揺れ動かない。
だから。
……だから、どんなひどいことだってできる。
転移先は牢屋エリアだ。ハウルも俺のとなりへと強制転移させる。
「……どうして、見てなかったはず」
「──油断させるためさ」
思ってもないことを口にした。こいつらは、なんらかの方法で俺が見ていないと理解していたらしい。
シズクとかいう女魔法使いの髪を掴みあげると、檻から引き剥がした。男剣士ダニィの殺意のこもった視線と、女剣士シャーレイの絶望に染まった視線を感じる。
「どうやって鎖を壊した?」
「……知らない。勝手に壊れた」
強制転移。女剣士のレイピア。
ごくわずかなDPが消え、代わりに右手に握らされた柄の感覚。
得物を確認することもなく、シズクの太ももへと突き刺した。
……肉を抉る感覚ってのは、こんな感じなのか。
「……ぃ、ぅああっ」
「どうやったんだ?」
「……ど、して……あなたは、やさしいのに──ぃっっっ」
レイピアを抜くと、まるで噴水のように血が溢れ出した。
俺の服と、地面を赤く汚していく。
それがムカついて、俺は膝蹴りをシズクな顔面へと叩き込んだ。
「お前が。お前らが。逃げようとしなければ──」
ひどい責任転嫁だ。
他人事のように心のどこかが呟いた。それと同時に、不思議な感覚を覚えた。
空中に浮いているような視点で、俺は俺自身の背中を見ていた。
俺の体は勝手に動く。再びレイピアを振りかぶると、次は足ではなく手のひらへと突き刺した。
「……ご、めん……なさぃ……っ」
「お前が今言うべきなのは謝罪じゃない。どうやって鎖を壊したか、どうやって鍵を外すつもりだったのか。その二つだけだ」
──まるで、俺ではないみたいだ。
……そうか。あれは俺ではないのか。
そうか。そうか。よく考えなくてもわかることじゃないか。
俺はあんなことしない。血を見るのも苦手、剣なんて握ったことはなく、包丁でさえ自分の指を切りかける。
人を蹴ることなんて、友人の脛を、痛くないように加減してするくらい。膝蹴りを、しかも女の子の、顔面に、だなんて。
俺ではない。あれは明らかに俺ではない。
「……くさ、りは……水まほ、ぅ……っ」
「鍵は?」
「……土魔法、で」
「ふーん、そっかそっか」
彼……間宮 日向は返り血を浴びた顔で、口元を楽しげに歪めていた。涙を流しながら、彼女の首筋に剣をそえた。
「──選べよ。生きるか、死ぬか」
男剣士の真似をした台詞。
シズクは、痛みに喘ぎながら、謝罪と涙を溢しながら……『生きたい』と、そう口にした。
彼女は、まだ俺の優しさに漬け込もうとしていた。
……ごめんな、そこにいるのは、俺じゃないんだ。
だから、助けられなくて、ごめんな。
日向はシズクの服を裂くと、その布切れを使って止血を始めた。
乱暴で、ただ出血死しなければ問題ないといわんばかりの適当な応急処置だが……彼女は何も言わない。
そのまま彼女を壁際に座らせ、新しく召喚した鎖で繋ぎ直した。
「ハウル、これあげる。好きにしていいよ」
「……え」
「……ギャアア?」
まるで飴あげる、とでも言うかのような雰囲気でそう言った。
味方のはずのハウルでさえ、困惑しているようで、日向はさらに涙の量を増やしながら続けた。
「前にいったでしょ、ご褒美あげるって。人間の雌をあげるって。ほら、シズクってそこそこ綺麗でしょ?」
「──ギャアアア!!」
「うるせえ」
ハウルが飛びかかる。
シズクも抵抗しようと腕を振るおうとして……短く巻き取られた鎖がそれを許さない。
僅かに残っていた服が破り捨てられる。シズクは羞恥か絶望か、悲鳴をあげた。しかし日向は止めることはしない。
「……や、やめ、たす、けて」
「──あは。ごめん、無理」
「ひ──ぃっっ!? いた、いたいっ! やめて、いたいっやめてぇぇぇぇ!!!!!」
数分、数十分に渡るハウルとシズクの性行を、日向は泣きながら見続けていた
要望があればもっと詳しく描写するよ(小声)




