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ダンジョンコア 魔宮 日向 Lv.1 Last

遅くなりました

最後のダンジョン防衛、開始です

スキルもステータス補正も何もない自力の頭で思考を回す。

一瞬で導き出されたのは、あまりにも余裕をぶっこいていたここ数時間の俺への失望と後悔だ。


俺が召喚できる魔物は『スライム』『ゴブリン』『ファンガス』『キラーバット』の基本4体とそいつらの進化種のみ。

それは俺がこの世界で見たことのある魔物が、初期から召喚できる魔物を除くとキラーバットだけだからという理由だが……ナズナは違う。

聞いた限りでも鶏モドキのクックだかコックだかを呼び出せる。おおよそ他にも魔物を呼び出すことができるはずだから、一度1体ずつ召喚してもらえばよかった。


それを思い付いていても『二階層の改築に取っておくんだ』なんて思考放棄をした結果がこれだ。

二階層作るとしても1万DPもあんなら少しは戦力強化しておけばよかった。


「森エリアにいるゴブリンへ『命令』する。侵入者を殺せ、時間がかかってもいいからできる限り攻撃を受けるな」


前回の経験を生かして、森エリアで侵入者足止めのために待機していたゴブリンの数は5体。

5対4……数ではこちらが勝っているが、単体の戦力も総合戦力も大きくこちらが劣っているだろう。問題は相手がどこまで強いかだが──。


「ファンガスを10体『召喚』……『命令』する。5体で1チームとなりエリアを防衛しろ」


場所の指定もする。5体1チームを死体放置所へ送り、もう5体は針山エリアへと送る。

ペコちゃんは相変わらず針山エリアで待機しているが、男どもを倒せば奴隷女たちを無力化できるかどうか。

……一応、保険として一個の対策を作っとくか。

10ptで機械音声さんに通話。


「牢屋エリアに声を届ける方法を教えてくれ。ないなら作ってくれ」

『作ります。……スピーカーというアイテムを牢屋に設置してください』

「ありがとう。仕事が速くて助かる」


設置は……20DPか。必要経費だ、支払って設置。




『ゴブリンか、さっさと終わらせるぞ』

『……』『……チッ』


侵入者と足止め用ゴブリンが接触した。

先頭を歩いていた軽装の男が短弓を取りだし、構えた。風切り音と共に射出された矢は真っ直ぐに飛び……ゴブリンの頭数個分隣を通過した。


と、いうのも二番目にいる重装備の女奴隷の腰にはカンテラがくくりつけられているが、火は灯っていない。

女奴隷はゴブリンの攻撃をされた際、故意か否か、カンテラで受け止めた。ゴブリンの攻撃といえど、カンテラのような道具が耐えきれるはずもなく、壊れた。

つまりここは今、入り口から差し込む光しか存在しないわけだ。


「ナイスだ重い方の奴隷ッ」


小さくガッツポーズしながらも観戦を続ける。

最後尾にいるもう一人の、中装の女奴隷は剣を構えたものの攻撃に参加しない。入り口の警戒をしているし、挟撃を警戒してるのか?


『仕事しろカーヤ──ブレード購入』

「なっ!?」


中装の男は、どこからともなく両刃の剣を取りだした。いや、作り出したと言った方がいいかもしれない。

アイテムボックスみたいなのから取り出したのか? いや、アイツは『購入』と言った。つまり買ったのか? 今、ここで?


──ザンッ!


中装の男──武器をその場で買うスキルがあるらしいし男商人と呼ぼう──が鋭い踏み込みからブレードを振るう。

ゴブリン2体が反応することすら許されず、両断された。……一気に2体はキツいな。


軽装の弓使いは暗さとゴブリンのバタバタと走り回る動きに翻弄され、接近を許した。

ゴブリンの渾身の一撃を避けたかと思ったら、背後から迫るゴブリンのもう一撃。痛みで弓を手離した瞬間に『命令』し、短弓を壊させた。


『すまんガレア、弓くれ』

『短弓購入──暗いからって焦るな、お前なら余裕だろ?』

『おう、任せろ』


しかし、その奮闘虚しく男商人から新たに短弓を渡され、2射2殺を披露してくれた。

……って、重い方の奴隷女もちゃっかりゴブリン切り殺してんじゃん。


『……ごめんなさい、カンテラを壊されました』

『使えねえグズがァ!』

『………………ごめんなさい』


男商人が拳を握りしめ、殴りつけた。口元が切れたらしく、出血した重い方の奴隷は、倒れたまま五点投地で謝罪を続ける。

男商人はいまだにイラついているようだが、ダンジョンの中ということもあってか、一度彼女を蹴りつけただけでそれ以上の追撃をすることはなかった。


『……大丈夫?』

『普段に比べたら優しい方でしょ』

『……そう、だけど』


軽い方と重い方が身を寄せあって慰めあっている。

よく見ると、軽い方の腕や首元には青い痣ができている。男主人2人からの虐待は頻繁に行われているらしい。

……この分だと、おそらく性奴隷としても扱われてるんだろうな。ナズナが寝ていてよかった。



さて、彼らが針山エリアに進むか迂回するか決める前に、得た情報を纏めよう。

敵の数は4人。内訳は男2人、女2人だが……その女2人はどちらも奴隷のようだ。戦闘もできる性奴隷か、最悪の場合盾にすることもできると考えると……奴隷を装備した男2人のパーティだと考えても問題はない気がするな。


軽装の男弓使いは、短弓を使うくせに前線に立っている辺り、まだ何かしら力を隠している可能性があるな。

特に指示を出すわけでもないが、指示を受けるわけでもなく動くため、前回みたいに司令塔を倒せば共倒れ……なんてことは狙えそうにない。狙えて男2人を倒して女奴隷を逃がす、くらいか?


中装の両刃剣使いの男……男商人が、一番厄介だ。

おそらく、魔力かお金を消費して武器を作る、もしくは買うスキルを持っているらしい。しかもそれは、剣や弓といった武器だけではなく、カンテラのような便利用品も買うことができるみたいだな。

相手の資金がどのくらいあるのかはわからないが……武器を壊して消耗戦に持ち込むのは、やめておいた方が良さそうだな。

男商人の技量も高ければ、ここで勝っても次からが勝てなくなる。

前回の男戦士が『全力で殴るけど当たらない』だとすれば男商人は『必要な力で的確に当てる』と行ったところだ。

ゴブリンでは歯が立たないらしいので、ペコちゃんかハウルかオオバコのどれかに頼るしかないな。



さて、男たちを無力化すれば和平交渉ができるかもしれない可能性から、装備品として数えることもできる奴隷たちの戦力についてもまとめておこう。


重装の女だが、武器は電柱のような金棒を背負い、腰には普通の剣も吊り下げている。

重装でもあり、金棒も相当な重さなのか、動きは遅い。しかしながら剣での攻撃は中々に鋭く、ゴブリンでは攻撃を当てることは難しいだろうな。浪漫砲を抱えた剣士……って、主人達の趣味が見え隠れしてないか?

彼女は、ややキツく見えるつり目で主人だろう男2人の背中を睨み付けている。主従関係は劣悪らしいな、なんとか利用できないものか。


最後、中装の女奴隷だが、剣を構えるところは見たものの、一度も攻撃することなく、背後の警戒に当たっていた。指示されることなく、そういった対応をしているあたり、連携は取れている。このパーティになって長いのだろう。

……重い方の奴隷と同様に。胸当てや、インナーから覗く素肌には痣がいくつか見てとることができ、虐待もしくは暴行されていることを伺わせる。重い方の奴隷女を心配していて、困ったように主人の背中を見ている。




「進むのは──正面の針山エリアか。キラーバットは前回と同じように撹乱をメインに動いてくれ、タイミングは追って指示を出す、それまでは待機だ。ペコちゃんも準備してくれ」


前回と同じような戦法で対処する。

しかし、前回のイケメン司令塔は僅かにペコちゃんの投石に反応してみせた。

……こいつらなら、防ぎきるかもしれない。ペコちゃんも男性特攻があるとはいえ、万能ではない。

頼りすぎるなよ、魔宮 日向。


『まーた嫌なところに出たなァ』

『……どうする、ローラー、引き返すか?』

『──いや、カーヤに行かせようぜ。さっき仕事しなかったし、良い罰だろァ?』


話題に挙げられた重装の女奴隷──カーヤと言うらしい──は嫌そうな顔をしたものの、特に何を言うでもなく先頭へと移動し、剣を片手に細い道を進み始めた。


「まずいな、ペコちゃんが使えない……」


ナズナが言っていたペコちゃんの説明を思い出す。

たしか、『男には股間必中、女には絶対当たらない』……だったか。いま射出させて後ろに控えてる男どもに当てるのは、リスクがでかいか?


「キラーバットはそのまま待機。ペコちゃんもまだ待機だ、見つからないように隠れていてくれ」


重い方の奴隷が細い道を進んでいく。

彼女の顔は、落ちたら死ぬという恐怖だけではない。いつどこで罠が作動するかもわからず、魔物が現れた場合細い足場で戦うことになり、踏み込みも撤退も、満足にすることはできない。


今回はペコちゃんが使えない。

だが、奴隷娘は主人たちにあまり良い印象を持っていないようだ。ならば、こういう手で行こうと思う。


「全眷族、待機」




俺は一切手を出すことなく、奴隷を渡らせてやる。

罠も魔物もいない細い道を渡り終えた奴隷娘は拍子抜けした表情で後ろを振り返ると、今まで通ってきた道と主人たちを見比べた。


『何も、ない……?』

『そっち側を詳しく調べろァ。俺らも今向かう』


軽装の弓使いが細道へと足を踏み入れた。

こうなるとペコちゃんが見つかるより先に撃つべきか? いや、できるだけ引き付けた方が……


『これ、投石器……? でも、明後日の方向を向いてるし前に来た人が解除したのかな』


くそ。重い方の女奴隷がペコちゃんを発見したようだ。

彼女が、ペコちゃんにセットされた手のひらサイズの石へと手を伸ばしたので、慌てて発射の命令をする。


『あっ!?』

『どうしたカーヤァ──はぁッ!?』


投石器のペコちゃんは、女奴隷が言ったように壁の方向を向いていて、射出された石が当たるとは思えなかった。……普通なら。

ペコちゃんより射出された石は、壁に当たるとそのまま跳ね返るでも、落下するのでもなく──加速した。


円錐型の衝撃波を出しながら細道を渡る弓使い──ではなく、さらにその後ろで細道へと足を踏み入れようとしていた男商人へと吸い込まれた。

股間へのクリティカルヒット確認。


「キラーバット出撃。ファンガスアルファ部隊とブラボー部隊は挟撃する形で出撃。ゴブリン総員でファンガスの援護に回れ」


ファンガス5体が死体放置所から重い方の奴隷側に、もう5体が森エリアから軽い方の奴隷へと殺到する。

当然、接敵して最初にすることは──


「きゅもぅぅ」「きゅもっ」「きゅっもぉぉ」「きゅぅぅぅぅっも」


なんでお前ら鳴き声全員違うの……?

ファンガスたちは一斉に胞子を噴射した。ダンジョン内最大の大きさを誇る針山エリア全体が黄色に染まるほどの胞子量だが、これ味方も麻痺するんじゃねえの……?


「キラーバットは麻痺して飛べなくなったらエリアを移動して逃げろ。落下は避けろよ」

「キィ」「キィィ?」

「ギリギリを責める必要はな、い──?」


ピピピ、と電子音が響き、顔がひきつるのがわかった。



──残り時間10秒。



設定していたアラームが鳴った音だ。四分以内に殺すことはできなかった。


……本当に大丈夫か? レベルアップで気絶とか、侵入者がいるとレベルアップできないとか。そういうことがあれば俺は死ぬ。そうならこの時点で詰んでいる。

だが、このまま待っていても死ぬ。


「やるしか、ない……!」


残り5秒。

やることはボタンを1つ押すだけ。人殺しを命令するよりよっぽど簡単だ。


「ハウルに『命令』する。2分間俺からの指示がなければ、どんな手を使ってでも侵入者を殺せ」

「……ギャァァ」


もしも俺が動けなくなったときのために指示をしておく。いつもはうるさいだけの咆哮が、今はとても安心できる。

……頼んだぞ、ハウル。

ふぅ、と息を吐いて。震える指先でダンジョンコアへと100ptを注ぐ。



俺はレベルアップした。






特に何が起きたわけではない。

気絶も昏倒もしない。残り時間は2日に巻き戻り、レベルが2になっている。

無駄な心配ばかりさせてくれるものだ。レベル1でわからないことだらけで、手探りとはいえ……早く平穏が欲しいものだ。


「ハウルに『命令』する。死体放置所で待機、追って指示する」

『ギャアアア!!』

「うるせぇ ……ありがとな」


ハウルはこれでいい。俺は急いで針山エリアへと視点を戻す。

戦況はこちらが若干だが、優勢だった。


ざっと見た感じ、3つの戦況に分かれているらしい。

重い方の奴隷VSファンガスアルファ、ゴブリン10体

弓使いon細道VSキラーバット

軽い方の奴隷VSファンガスブラボー、ゴブリン10体



軽い方の奴隷だが、こっちは悲惨だ。

主人である商人が気絶し、倒れた。それを軽い方の奴隷女は見て確認したあとに、守るでも逃げるでもなく、ただ武器を構えた。

主人を見捨ててまで自衛しただけあって、ファンガスの胞子も対して吸い込むことなく、口元を袖口で抑えた。

……この世界でも、火災起きたらハンカチで鼻を抑えて落ち着いて逃げろとか言われんのかな。


「ベスを先頭にしたスライム部隊はファンガスブラボーとゴブリンを援護しろ。『転移』」


何気に初のダンジョン転移機能を使う。スライムたち4体が1DPずつ、ベスだけ5DPで9DP支払う。

森エリアへ飛ばすことはできないが、森エリアから脇に少し入った通路へは飛ばすことができる。

侵入者がそこに足を踏み入れてないから、まだ侵攻されたとカウントされてないんだろう。


『メイサはガレアを守れァ! カーヤを回収してすぐ行くからよ!』


男商人が気絶しているためか、弓使いの指示が飛ぶ。


そこでようやく軽い方の奴隷──メイサ?──は商人を守るように立ち位置を変えた。

……主人が事故死してくれれば万々歳、命令されたから仕方なく守りますって感じか?


ファンガスブラボー部隊に再び胞子を吐かせてから森エリアへと撤退させる。逃げ道を塞ぐ意味でもあり、無駄な死亡者を出させないために。

ゴブリン10体とスライムたちでどこまで攻められるかだが……一つ賭けてみるか。


「ゴブリン総員、攻撃するな。入り口を固めたまま待機、ただし攻撃された場合は殺せ」

『……ギャア?』『ギャア……ギャアア……?』『ギャア!?』


すまん。困惑するのはわかるが、もしかしたら。


『どういうこと。出口を塞ぐのが目的……? ゴブリンにそんな知性が……いや、でも……』


ほら、こちらから攻撃しなければ商人を守る命令を優先して攻撃してこない。

つまりは互いににらみ合いを行い、拮抗する。胞子が舞っている以上、お互いに活動限界は訪れるが、手を出すと死を早めることになる。

軽い方の奴隷としては、このまま互いににらみ合い、弓使いたちと合流してから脱出を狙っているんだろう。



膠着した状態を動かしたのは、やっぱり弓使いだった。

彼は、矢を速射しながら、少しずつ前へと進んでいく。キラーバットが撹乱をメインにしているだけあって、そのすべての射撃は当たっていない。

キラーバットは真正面から突撃して、直前で避ける。真横から突撃して、目の前を横切る……など、おちょくってるとしか思えない動きをしている。

たまらず弓使いも立ち止まることが多い。細道を渡り終えるまであと十歩といったところか……。



重い方の奴隷へと視点を移す。

ペコちゃんを見つけた瞬間に、謎軌道の射撃を見せつけられ、その困惑も抜けきらないうちにファンガスアルファ部隊の強襲を受けた。

武器を構えるのが大きく遅れただけではなく、胞子を吸い込んでしまったのも仕方ないというものだ。


『ッ……しまった……』


短期決戦を選んだらしく、剣を咥えて金棒を大きく振りかぶる……が、その瞬間にはファンガスたちは下がり、ゴブリン3体が目の前へと躍り出た。

ファンガス5体に比べると、ゴブリン3体が被弾した方が……とは思ったものの、一撃で3体が殺されると、どうにもやるせなさが残る。


「ファンガスアルファ部隊へ。再び胞子を出して死体放置所へ撤退せよ。ハウルは死体放置所を守れ」

『きゅもっ』『ギャアアァァ!』


重い方の奴隷へと1体のゴブリンが襲い掛かるが、空中で頭を射抜かれて死んだ。

弓使いが合流したみたいだ。

これでようやく脱出の目処が立ったように見えたが、カンカンカラカラ……と金属音が響いた。


『う、ぐ……ごめ、なさい……』

『……説教は後だァ。黙ってろ』


重い方の奴隷に麻痺の症状が出てきたらしい。相変わらずの即効性だ。

彼女は咥えていた剣を離してしまい、片膝をついた。弓使いが無理矢理立たせようとしたものの、ろくに歩けない重い方がよろめく。

背負って細道を渡ればキラーバットの餌食。だからといって走って渡るのはリスクがでかい。諦めそうになるものだが、そこにはゴブリンたちも逃げていった脇道があり、森エリアへと続いている。

彼らには行き先がわからないだろうが、細道を通るよりはこっちを選ぶだろ?


『メイサ、そっちは大丈夫そうかァ』

『……微妙。なんなら私もそっちに行きたいくらい』

『……もう少し耐えててくれや、回り道してそっちに戻ってみらァ』


会話の内容的にもこいつらはもう撤退するつもりらしい。

……逃がしていいものか、仕留めるべきか。


入った奴が全員死ぬダンジョンは、寄り付かないだろうが……内部の情報を持って帰られるのも困る。

特にこいつらは針山エリアとペコちゃんを見ているからな……いや、だけど牢屋とボス部屋はまだ見られてない。それに2階層も作る。

コイツらは逃がしてやるか。


メイサと呼ばれた軽い方の奴隷とはいまだ膠着中。動きがあるまでは横目でちらちら確認する程度にする。



『……チッ。門番が目的で攻撃はしてこないってかァ?』

『ゴブリンが、そんな知性を……?』

『おそらく、さっきの通路の先はボス……ゴブリンキングだなァ……』


違います、ダンジョンマスターは日向君です。


死体放置所へと進んだ弓使いは、牢屋エリアへと続く通路を守るハウルとゴブリン4体を見て、体を強ばらせたものの……待機を『命令』された彼らが動かなかったので安心したようだ。

……重い方の奴隷女に肩を貸しているのはいいが、さりげなく胸を揉むんじゃない。奴隷女が嫌そうな顔をしてるじゃないか。


『方向的には、こっちか……空間がねじ曲がってるタイプのダンジョンじゃないことを願うばかりだなァ……』


ほう、そういったダンジョンもあるのか。

それはいいことを聞いた。できそうならやってみよう。




弓使いたちは次のエリアへと進む。そこは特に何があるわけでもないただの部屋で、撤退したファンガスたちがたむろしている。

ゴブリンたちと同じように待機の『命令』をされているため、部屋の端に寄っている。


『くそ……気持ちわりィ……』


弓使いは愚痴りながらも道を進む。

ミニマップが灰色に染められていく気持ち悪さはあるものの、向こうは向こうで魔物に見逃されるという気持ち悪さがあるわけか。



次のエリア。森エリアに隣接するだけのエリアで、先程スライムたちを『転移』させた場所でもある。

……完全に『転移』分のDP無駄にしたよな


『ここは……ここもゴブリンがいるのかァ……』

『距離て、きに……さ……ぃご……?』

『かもなァ』


重い方の奴隷は、喉にも麻痺の症状が出てるらしく、話すのもつらいみたいだな。


『──ぐッ』

「えぇー……まじか……」


弓使いが足をもつれさせてて片膝をついた。そして、そのまま立とうとして失敗した。

……ここにきて麻痺の症状が出たらしい。


「どーすっかなぁ……」


このまま殺すのもあり、逃がすのもあり。

ただ、完全に逃がす気でいたから心の準備ができてない。かといって捕虜を捕まえるための牢屋の空きもない。

凍心で心の準備をしてもいいが、あれあんまり使いたくないんだよなぁ……。

それに軽い方の奴隷と戦うと、被害が出そうだしなぁ。


「ファンガスに『命令』する。麻痺させてやれ」

『きゅぅぅぅぅぅぅぅぅっも』

「元気だなぁ」


隣の部屋にいたファンガスたちが殺到し、胞子を吐き出す。

再び部屋が黄色く染まる。


『……くそがァ。動けないとわかるとこれかよ』

『ごぇ……な、ぃ……』

『黙ってろ』


麻痺しきってる奴と麻痺し始めた奴は、胞子を吸い込んで、重なるように倒れた。


「ハウルに『命令』する。運んでやれ」

『ギャアアアアア!!』

「うるせぇ」


ハウルは倒れた二人の首根っこを掴んで引きずる。

その運び方だと、運ばれる方は痛いと思うんだが……死ななければ安いで我慢してもらうか。



ハウルが彼らを運んで森エリア、針山エリアへと移動する。

相変わらずの千日手だったゴブリンたちが道を開けると、ハウルがそこへ現れる。

投げ捨てるようにドサリと弓使いと重い方の奴隷を捨てると、ハウルはゴブリンたちを引き連れて森エリアへと移動する。


『……見逃された?』


ああそうだよ、俺たちは君を見逃す。だから大人しく帰ってくれないか。

一人で三人を抱えるのはキツいだろうけど我慢してくれ。

手伝ってやってもいいが、そこまでする義理はないし、そもそもこっちのことも信用してないだろう?



重い方を背負って、男2人を引きずりながら外へと帰っていく彼女の背中を見送る。

今回もなんとか防衛に成功したらしい。




収入。

冒険者撃退+4856DP


死亡

ゴブリン9体

レベル1最後のダンジョン防衛でした。

日向君はまだまだアマちゃんですね。あとしかたないのかもしれないけど警戒心が強すぎ。レベルアップで気絶するかも、とかいうからダイス振ることになるんだよ。

結果的に大丈夫だったけど。

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