前夜
今度は広いキャンプ場のようなところだった。
コテージがいくつも建てられていて調理場などの設備も充実していた。
俺たちはどのコテージに入っていけばわからずウロウロしていると一人の男が近づいてきた。
「ここにはまだ俺ともう一人しかいないからほとんど自由に使っていいぞ。使用中のコテージにはちゃんと書いてあるからよく見て間違えるなよ。」
「は、はあ。」
「ありがとうございます。」
困惑気味にも俺たちは親切そうな男にお礼を言う。
この親切そうな男は力が強そうで尚且つ優しそうなおっさんだった。
この人は敵ではないという直感を信じこのおっさんに話しかける。
「俺はシキだ。おっさんもゼロから手紙をもらったのか?」
「おお、お前もか。それよりおっさんはやめてくれ。ギリギリそんな年じゃない。俺はガンスだ。よろしく。」
男同士で固い握手を交わす。
「私はエリスです。私はまだ開花してないので戦闘には参加できませんがよろしくお願いします。」
エリーが手を差出し握手を求めるがガンスが握ろうとしない。
「あ、え、あ、その、ガ、ガンスと言います。エ、エリスさん、その、よろしくお願いします。」
舌足らずな口調で遠くを見ながらガンスは答える。
「え、あ、はい。」
エリーは握手は無理だと思ったのか手をひっこめた。
「おい、ガンスどうしたんだよ?」
俺はそっと訊ねる。
「いや、女性と話そうとするとどうも緊張してうまくしゃべれないんだよ。」
恥ずかしそうにガンスは返す。
「それならゆっくり慣れろよ。エリーいいやつだから。」
「わかった。ありがとうシキ。」
「二人で何話してるの?」
エリーが不思議そうな顔で訊ねる。
「いや、ちょっと男同士の話だよ。なあ、ガンス。」
「お、おう。ちょっとしたね。」
あきらかに怪しい会話だったが察してくれたのかエリーはそれ以上聞いてこなかった。
その後はそれぞれコテージに戻り夕飯まで自由行動ということになった。
コンコンとドアを叩く音がする。
俺はドアを開けるとエリーが笑顔で立っていた。
「入っていい?」
「いいぞ。」
俺はベッドにエリーはソファに腰かける。
「なんかこんなゆったりできるのって久しぶりだね。」
「そうだな。最初っから災難続きだったからな。」
「ほんとシキ君ってついてないよね。」
エリーは笑いながらバカにする。
「うるせえ。」
拗ねたように一言返す。
「えーと、最初は爆発の能力者と開花してない状態で戦って、次にお金ほとんど盗まれて、寄った店の店員が悪いやつでまた盗まれて、そしてライト君と一緒に戦って、辛い修行こなして、って短い間にけっこうあったね。」
「そうだな。そしてそれらは全部俺の力となってる。今回も大丈夫だ。必ず俺がぶん殴る。」
「うん。私信じてるから。」
俺たちは目線でしっかり決意する。
その時俺のお腹からぐーっという音が響く。
「こんなときに緊張感がないな。」
「わるいわるい。でも腹減って。」
「それじゃ作ってくるね。」
「俺もそっちで待つよ。」
俺たちは調理場へと向かった。
そのときちょうどガンスと会い一緒に食べることにした。
「うまそー」
「さあ、召し上がれ。」
今日のメニューはカレーだった。
「ガンスさんもどうぞ。」
「あ、はい。いただきます。」
ガンスは一口食べると目を見開いた。
「うまい。」
「よかった。」
「エリーの料理はやっぱりうまいな。」
俺たちはもくもくと食った。
わずか数分で完食した。
片づけをしながら団らんすることにした。
「ガンスさん、今更だけどもう一人の人はいいの?」
「あいつは一人が好きみたいだからいいんだよ。最初の街から一緒に来てるが話してるところを見たことが無い。」
「それはちょっと悲しいですね。」
「まあそのうち話してくれるだろう。」
ガンスはエリーではなく俺の顔を見ながら真剣な顔で話す。
「そいつは開花してるのか?」
「ああ。あいつはなかなか強いぞ。」
「へー。戦ってみてえな。」
「あいつは弾を作る能力なんだ。」
「弾を作ってどうすんだよ。弾だけじゃ戦えないだろ。」
「それがあいつのカバンの中には銃が2丁入っていて、それを使ってんだよ。」
「それって偶然なのか、それともゼロはわかってて・・・・」
俺は疑問を投げかける。
「さあな。俺にはわからん。なあシキよ、お前の能力はなんなんだ?」
「俺のは人の力を借りる力だ。」
「なんだそれは?」
「言葉の通り、だれか能力を借りるんだよ。」
「それって強いのか?」
「シキ君は強いんですよ。爆発使いとか何人もの盗賊とかやっつけてるんですから。」
「え、あ、そうなんですか。シキは強いんですか。」
あいかわらずエリーに対しては変な話し方である。
「ガンスの力はなんなんだよ?」
「俺か?俺のはすげーぞ。俺は岩の能力者だ。」
「岩か。強そうだな。ちょっと俺と戦わないか?」
「シキ君ダメだよ。そんなことで消耗したらどうするの?」
「そ、そうだぞ。エリスさんの言うとおりだぞ。」
「二人して。わかったよ。」
その時伝書鳩が俺たちのもとへ来た。
「今度はなんだ?」
「開けてみるね。」
エリーが手紙をおそるおそる開ける。
お集まりの皆さんへ
僕の下僕は明日そちらに向かいます。
精々死なないよう頑張ってください。
会える日を楽しみにしています。
ゼロ
「明日か・・・・」
「二人とも大丈夫?」
「ああ。ぶん殴ってやる。」
「は、はい。大丈夫です。」
こちらは少し大丈夫ではないように見えるが。
「それじゃまた明日。」
「シキ君もう行くの?」
「ああ。明日のためにな。」
「それなら俺も行くか。そ、それじゃエリスさん。」
「はい。さよなら。シキ君待って私もいく。」
それぞれが死を覚悟しながら明日を待つ。
そこにあるのは恐怖でもなければ不安でもない。
希望である。
ゴールへのヒントをつかむために必ず勝つ。