開花
門をくぐった俺の眼前に広がったものは荒れ果てた土地でもなく、
鉄臭い廃墟でもなく、にぎわった町だった。
そこにはさっきの空間で見なかった年寄りや小さい子も見える。
そして俺は知らぬ間にリュックを背負っていた。
中身は1万ゼニーと地図だけだった。
地図は小さくそこにはゴールは記されていなかった。
「すみません。この地図ってどこを表してるんですか?」
俺は近くにいた優しそうなおばあさんに話しかけた。
「何言ってるの。この地図はこの町のじゃないか。」
「え、あ、そうなんですか。よそものでして、すみません。ありがとうございます。」
どうやら地図はこの町を表してるようだ。
とにかく気疲れなのか体が重い。一晩泊まれるような宿を探そう。
地図を見る限りそう遠くはないしすぐに着くだろう。
宿に行く間この町を観察したが明るくにぎわっていて楽しそうだった。
ほんとにここで死と隣り合わせのゲームが行われているのだろうか。
いろんな思考が飛び交ううちに宿に着きチェックインした。
部屋は寂しく無を感じるが少しの間滞在するだけなら十分だろう。
「すみません。入ります。」
「どうぞ。」
「実はここの宿食事はないので自分で調達してもらってもよろしいでしょうか?」
「ああ。わかりました。」
何も食べないというのはさすがにキツいので俺は少しのお金を持って外に出た。
市場のようなものがあり祭のようににぎわっていた。
俺は店で買ったパンを食べながら散歩していた。
俺に力というものはあるのだろうか。
右手・左手の順に力を入れてみるが何もおこらなかった。
実際そんな力など使わずにゴールにたどり着ければいいのだが。
30分ぐらい歩いていたその時遠くからなにか爆発のような建物が崩れるような音がした。
「さっそく下僕がきたのか。」
俺は情報を得るために走って爆発音のしたところに向かった。
少なくとも何人かはこの町にいるはず。
そのなかにもう力を開花させたやつがいるかもしれない。
みんなで協力すればきっと勝てる。
俺はこのとき絶望ではなく希望を持って走っていた。
「な、なんだよこれ。」
俺が目にした光景は崩れた建物、散らばった食べ物、倒れている人間、笑う大男、泣き叫ぶ人々だった。
「は、はやく逃げな。あいつに逆らってはいけない。」
倒れている女性が俺に告げる。
「おい、大丈夫か。おい。」
強く呼びかけるが返事は来なかった。
「やめなさい。」
ひとりの女の子が大男の前に立ちふさがった。
おそらくこの大男が暴れている張本人なんだろう。
「これ以上はやめなさい。さもないと・・・・」
「さもないとなんだよ。俺に逆らおうって言うのか。」
そういうと大男は掌を広げた。そして
「爆砲」
そう叫ぶと爆発がおこった。そう爆発が。
そして女の子は吹っ飛んだ。
「おい。大丈夫か。おまえなにしやがる。」
「なんだお前。お前もやられたいのか。」
「俺はシキ。やられるのはお前のほうだ。」
「ほう。威勢だけはいいな。俺はグル―だ。死ぬ前に教えといてやるよ。」
「なんのためにこんなことを。」
「食べ物や金を奪うために決まってんだろ。」
「なんでだ?あいつらは俺たちの邪魔をするのが目的なんじゃないのか。」
「おいおい、俺はあんなやつの下僕と一緒にするな。俺はおまえらと同じ人間だ。選ばれた人間だよ。」
「なんだと。それならこんなことしないで一緒に協力すればいいじゃないか。目的は一緒だろ。」
「なんでお前らを助けなくちゃいけないんだよ。生還するのは俺一人で十分だ。それに俺はもう力を開花させた。おまえらみたいなヒヨっ子とはちがうんだよ。」
俺は気づいた。
敵はあいつだけじゃない。
元の世界でもそうだったんだ。
人間同士だって立派な敵なんだ。
「そうかよ。なら、お前は俺がぶん殴る。」
「無理よ。逃げて。」
「おいおい、女に止められてるじゃないか。大丈夫かよ。」
「うるせえ。黙ってろデカ物。」
「なんだと・・・・」
「おい、おまえ離れてろ。街のみんなも避難させとけ。俺が何とかする。」
「何とかって・・・・どうするの?」
「わからない。けど、やるしかないだろ。」
「・・・・わかった。死なないでね。」
「ああ。」
俺は小さくうなずき大男に向かって突進した。
「そんなのが効くと思ってるのか。このバカが。くたばれ。」
そういうと掌を広げた。
くる。
「爆砲」
さっき見ていたため俺はなんとか避けられた。
「ちっ、うぜえ。爆砲、爆砲、爆砲」
かわす。かわす。かわす。
「ちょこまかとうざったいな。」
「おまえのその攻撃一定範囲しか爆発しないみたいだな。避けるのなんて簡単だぜ。」
「それならこいつはどうだ。」
大男は地面に手をついた。
「爆震」
地面が大きく揺れはじめた。
バランスを崩し地面に倒れる。
立ち上がろうとするも揺れがひどいため立ち上がることができない。
「無様だな。これで終わりだ。爆砲」
俺に爆発が襲い掛かる。何メートルも吹っ飛び壁に体を打ち付ける。
「ぐはっ」
「まだ生きてるとは頑丈だな。こんどこそ。爆砲、爆砲、爆砲」
「うわあああ」
やばい体が動かない。
俺はもうゲームオーバなのか。くそっ。
「もう終わりのようだな。口だけでたいしたことなかったな。今のうちに家族にお別れでも言っておけ。それぐらいは許してやろう。」
家族か。
そうだ、俺を待ってる人はいる。
こんなところでは死ねない。
力を振り絞れ、出し切れ、限界を超えろ、立てシキ。
「おおおおおおおおお」
「なんだと。あんなに攻撃を受けておいて。」
動悸は激しいが歩ける、動ける。
そして殴れる。
「何者だお前。」
「さきも言っただろ。俺はシキだ。しっかり覚えておけよ。」
「最大限の力で行くぞ。くたばれ。爆砲」
あいつの動きがゆっくりに見える。
止まって見える。
この先何をしたらいいかがはっきりわかる。
俺は右の拳を爆発に向かって突きつける。
そして爆発が消えた。
「なにがおこった。おまえ何をしたんだ。」
「ただちょっとお前の力を借りただけだ。」
「借りただと。何を言ってるんだ。」
俺は話しに耳を傾けることなく掌を広げる。
「爆砲」
「うわあああ」
大男が吹っ飛んだ。
「なにしやがった。それは俺の力だぞ。」
「だから借りたと言ってるだろ。何回言わせるんだ。」
「そんなバカなことがあってたまるか。爆砲」
また見える。
感じる。
拳を握り爆発を殴る。
「その力ちょっと借りるぜ。」
爆発が右手に吸い込まれ赤く静かに煌めく。
「おい、やめろ。わかった。俺が悪かった。なんでもするから。すみません。」
「爆砕拳」
「うわああああああ」
大男の隣にあった木を殴ったのだが恐怖で気絶してしまったようだ。
次悪事を見たら殴るというメッセージを残し俺は去った。
少し歩くとさっきの女の子がいた。
「君強いんだね。あ、私はエリス。エリーって呼んでね。」
「あ、ああ。それより見てたのかよ。」
「うん。いざとなったら私も戦おうかなって思ったけど大丈夫みたいだね。」
「戦おうって開花してるのか。」
「いや、してないよ。」
「それなら戦っても無理だろ。死ぬだけだぞ。」
「そんなこと言って君だって最初開花してないのに挑んだじゃん。」
「まあ、そうだけど・・・・それより君って呼ぶのはやめてくれ。」
「そうだね。ごめんねシキ君。」
「・・・・ああ。それより町の人は?」
「みんな大丈夫なみたいだよ。直接くらわなければ大丈夫みたい。私もかすり傷ぐらいだし大丈夫。というより何発も直撃してたシキ君のほうが心配なんだけど。」
「俺は大・・・・」
いつのまに寝ていたのだろうか。
昨日は爆発男と戦って・・・・そのあとの記憶がない。
「ここはどこだ?」
あたりを見回すとどうやら家の中らしい。
もしかして昨日のやつに拉致されたのか。
一瞬そう思ったがどうやら違うらしい。
ベッドの上で丁寧に寝かされたし、拘束されてもされた痕もない。
いったいどこなのだろうか。
「シキ君起きたんだ。おはよう。」
「お、おはよう。ってなんでエリーがここに。」
「なんでってここは私が泊まってる宿だからだよ。それより大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫だ。エリーが看病してくれたのか?」
「そうだよ。感謝して。丸2日も起きないから死んじゃったのかと思ったよ。よかった。」
彼女は元気そうに笑顔で言うがよく見ると目の下にくまがある。
ほんとに看病してくれてたのか。
「エリーありがとな。」
「いいって恥ずかしいな。あ、そういえば町長さんが呼んでたよ。なんか歓迎してくれるみたい。」
「そうなのか。それは嬉しいな。どこにあるんだ?」
「この通りをまっすぐ行ったところだよ。」
「ありがと。それじゃ行くか。」
俺は扉を出ようとするがエリーが来ようとしない。
「どうしたエリー、行かないのか?」
「え?私も?」
「そうじゃないのか。」
「いやいや私は何もしてないからいいよ。」
「なんでだよ。怪我人を運んだりしてくれただろ。エリーだって立派な功労者だろ。」
「そうかな。シキ君が言うなら私も行こう。」
「おう。そんじゃ行くか。」
「うん。」
俺たちは二人は町長のもとへ向かった。
美味そうなご馳走などを想像すると今すぐにでも町長のところに行きたかった。
「ねえシキ君。」
「なんだ?」
「シキ君の力って結局なんだったの?」
「なんだろうな・・・・力を借りる力かな。」
「それってなんか微妙?」
「うるせえ。絶対強いからな。見てろよ。」
「うん。楽しみにしてる。」
「ところでエリーはどんな力が欲しい?」
「私はあたり一面に花を咲かせる力かな。」
「それ戦闘に役立たないと思うんだけど。」
「相手を癒せるかもしれない。まあ冗談だけど。実際戦わないのが一番だからね。」
「そうだな。俺も同じ考えだよ。」
話してるうちに町長の待つ大きな家に着いた。
「すみません。お邪魔します。」
「おうおう。君がシキ様ですか。私は町長のカポラと申します。エリス様も来ていただきありがとうございました。」
「いえいえ。とんでもないです。」
「よろしく町長。町長って言うからてっきりおじいさんみたいなのかと思ってたよ。」
「シキ君失礼だよ。」
「かまいませんよ。この町を救っていただきありがとうございます。」
「いいよいいよ。あいつを殴りたかったからやっただけだし。」
「いやいや。本当に感謝いたします。」
「まあ、気持ちだけでも。」
「シキ君ニヤニヤしてる。」
「うるさい。してないよ。」
その後は予想以上の美味い料理を食べ談笑していた。
「最近各地に人が増えたって噂なんですけどわかりますかね?」
「その話詳しく聞かせてください町長さん。」
エリーが興味津々に体を前のめりにしている。
「いや、実はなぜか人が急に増えたらしくて宿や食べ物が足りなくなってきているって噂で。」
「この町は大丈夫なのか?」
「この町はシキ様のおかげで大丈夫です。」
「そうなのか。ならよかった。」
「ええ。でもこの先この町もこういうことになりかねないと思って。そこでよそからきたと言っていたエリス様とそのご友人のシキ様なら事情を知っているのではないかと思いまして。」
「ごめんなさい。私たちもよくわからないんです。情報が入り次第お互い連絡しあいましょう。」
「そうですね。それならばこれを差し上げます。」
「なんだこれ?笛か?」
「はい。この笛を吹くと伝書鳩が来ますのでその鳩に手紙と行先を言えば2,3日後に届きます。」
「へー、便利なものがあるんだな。」
「申し訳ないんですが2個は持っておらずどちらかにしかお渡しできないんですが。」
「エリーにあげる。持ってても使い道なさそうだし。」
「いいの?それなら私がもらうね。」
「ああ。」
「話を戻しますがここ数年間でこういうできたごとはあったのですか?」
「ここ数年間で1,2回起こったんですが原因がわからなくて。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「ところで町長っていくつなんだ?」
「私ですか?えーと、あれ?いくつだろう?ははは、私も年を取ったもんだ。」
「まだ若そうなのに。町長疲れてるんじゃないか。」
「そうかもしれませんね。」
町長は見た目は40歳ぐらい。
物忘れなんてする年じゃないと思うんだが。
「それではこの後も楽しんでください。」
そして俺たちは夜遅くまでそこで騒いでいた。