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少しした頃、俺はとある建物の前に立っていた。
少し古ぼけたその建物は、この世界の雰囲気とあっていて、
でも、その真っ赤な外装は、この世界でも特に目立っている。
そして、入り口には、真っ赤な文字でただ一言、
「REAL FREEDOM」
と、書かれていた。
そして、ドアにかかっているのは、
「CLOSE」
の文字。
ただ、俺はそれに構わずドアを開け中へと入った。
建物の中はそれほど狭くはなく、リビングとダイニングとキッチン、さらにバスルームまであり、二階や地下室もある。
いつ見てもここは無駄に広いと思う。
とりあえず荷物を部屋に持って行くため、俺は二階へと向かう。
「おはようございます、名無。
いえ、こんばんわのほうがいいですね」
俺が、階段を登り始めた瞬間、後ろから声をかけられた。
誰かいたのだろう、振り返ると、一人の男。
俺が175㎝くらいだから、この男はもう少し高く、180㎝はあるだろう。
そして、金髪でピアスを開けているくせに、白衣を着ている。
医者のくせにこんなかっこをしていて、患者さんは怖くないのだろうか。
さらに、彼の首には、"8501"と書かれている。
この数字は、この世界では、月ではすべての人類に書かれていて、名前と同じように、コードネームとして使っている。
つまり、この男"8501"は、逸人と呼ばれている。
「あぁ、逸人か。
こんな時間にどうしたんだ?
今日は夜勤だったんだろ?」
「そうですね。
少し話をしたいことがあったので来たんですが、眠いですし、明日の朝にさせていただきましょう」
逸人はそういうと、二階へと向かって行った。
逸人が働いてる、月の表の病院からここまでくるのは、どれほど急いでも、3時間はかかるはずだ。
やはり何かがあったにちがいないが、逸人が寝てしまったからには、明日聞くしかない。
そう思い、俺も眠りについた。
翌朝、いや、朝というにはまだ早い時間だが、俺は人の気配で起きていた。
時計を見れば、時刻は午前3時。
朝起きるのには早すぎる時間だが、俺の目の前にいるこの男、次期大統領と噂されるくらいだからか、こんな時間から仕事に行くようだ。
「あ、ごめん。
起こしちゃった?
俺、もうすぐ仕事にいかなきゃいけないんだけどさ、師匠来てたよね?」
「師匠、あぁ、逸人のことか。
なんか話があるみたいだったから、なるべく早く帰ってきた方がいい」
俺が今話してる男、"15271"、不人。
俺は座ってるからよくわからないが、たしか170㎝ほどのはずだ。
政治家であり、次期大統領候補であるというのに、染めたような茶髪は、地毛であり、不人の悩みらしい。
「あ、やばい。
もう時間だから出るね。
じゃあ、師匠によろしく」
不人はそういうと急いで出て行った。
いつもならもう少し寝てるのだが、今から寝るには時間が短い。
早起きは三文の徳とも言うし、仕方なく俺は準備を始めた。
俺が起きてから1時間ほどたった頃、"19638"、夢駆が起きてきた。
いつもは上げている前髪も、起きたばかりだからかすべておろしてある。
夢駆の長い前髪は、いつものような幼さを見せない。
「あ、名無さん、おはよう。
今日はいつもより早いんだね。
あ、僕も準備しなきゃ」
そう言いながらご飯を食べている夢駆は15歳とは思えない。
俺よりも10㎝ほど低く、年齢の割に子供っぽく見える。
ただ、本人はそれほど気にしてはいないらしいが。
そんなことより、
「おい、急がなくていいのか?
早くしないと置いてくぞ」
「えっ、もうそんな時間?
もうすぐだからちょっと待って。
多分あと5分くらいで準備終わるから」
そう言いながら夢駆は急いで制服に着替え始めた。
俺が働いてる学校は、月にある唯一の学校で、俺と夢駆は同じ学校に行っている。
15歳までは義務教育であるため、月に住んでる6歳から15歳までのすべての子供が通っている。