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業やねぇ。
えてして真性とは自覚のないものである。
「うげ……また人垣ができてるよ……」
行路が辿り着いた時、そこにはある筐体を中心にして人だかりができていた。
その筐体の前で、疑似の銃を二つも抱え、特徴あるフライトゴーグルをかけている小柄な少年は、和馬だ。
彼の、無茶苦茶な技術力に任せたプレイングは、毎度のことながら人垣を作り上げてしまうのだ。
相変わらずその圧倒的な技術は衰えていないらしかった。
周りの傍観者は、圧倒的なプレイングで次々と敵を屠っていく和馬を、まるで常識から逸した物ででもあるかのように見ている。すくなくとも、行路にはそう見える。
実際のところは、同じフィギュアの箱を四つも抱えている行路もかなり変な目で見られているのだが、行路本人はそれには気付いていなかった。
そうこうしているうちに、
「ふぃー、終わった終わったー!」
ついに和馬が、最終面の隠しボスであったはずの、近未来的な装飾の施された巨像を屠り終えた。
それと同時に人垣が歓声に包まれる。
もちろんその先にいるのは和馬だ。
歓声が上がるまで自分が人垣を集めているとは気付いていなかったらしい和馬は目を白黒させているのだった。
拍手と歓声に思い切り照れて頭を掻いている。ゴーグルを首に垂らしているのが、どこか不思議と愛らしかった。
そんな和馬が行路を見つけ、走り寄ってくる。
その行路の腕の中の獲物を見て、こんな感想を漏らした。
「同じの四つって気持悪っ! どしたんそれ!?」
「千円で取れるだけ取ってみた」
そんな会話を聞いていた外野達がまた少しざわめいた。
「業やねぇ」
奇しくも、和馬もそんな感想を残すのだった。
「和馬それ、ノーコンクリア?」
ノーコンクリアとは、一度もコンテニューせず、つまり一度もゲームオーバーにならずにクリアすることである。
一般に、一つのプレイヤーでプレイしてでもそれは難しいと言われているのだが、
「ん、そうやよ。いやぁ、思てたより腕落ちてなくてよかったわぁ」
相変わらずの腕前のようである。
「右京のところ、行くかな」
「そやね」
二人は人垣を残して颯爽とその場を後にするのだった。