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格ゲーはとかく、ジャンキーになるとコイン残量の摩耗が半端じゃない。
強くなりたい、そんな電子音ジャンキー。
そのブースとはまた別の一角。
ここは、アーケード格闘ゲームブースだった。
ある意味では最もゲームセンターらしい区域。それがここ、格ゲーブースだ。
北島右京は、自他共に認める格ゲーマニアである。
「さて、今日はストレンジャー・ファイターズでもやるか。たしかツーの復刻版が……」
財布の中に秘蔵しているバイトの給料のうち、二人の野口さんを投入して二十枚の百円玉を入手、財布とは別の、制服の右ポケットに入れてある小銭入れへと滑り込ませる。
小銭の弾むジャラジャラという音が、どうにも、彼の汚染された感性を沸き立てる。
手近な復刻版ストツーに目をつけ、嬉々として百円玉を投入するのだった。
(あとで行路のヤツも誘うかな。どうせ今はあのアニメのプライズに忙しいだろうし)
そんなことを考える片手間で、愛用のキャラクターを選択する。
復刻版になった際に、システムとの兼ね合いの都合などでこのキャラクターは少し弱化したのだが、それがまた、右京のゲーマー精神には心地よかった。
本人はマゾヒストというわけではないのだが。このあたりは、ゲーマー個人の嗜好の領域だ。
「さて、軽くウォームアップしますかね」
そんな彼の画面に、ある表記が、安っぽいエフェクトと共に踊った。
「挑戦者か」
挑戦者システムとは言わずもがな、同じ種類のゲームをやっている他人と対戦できるという、この種のゲームのある種の醍醐味ともいえるシステムのことだ。
彼の画面に、挑戦を受けるか受けないかの選択肢が揺れている。
彼に言わせればこの瞬間の、体中に廻っていく闘志と高揚感がこの手のゲームを止められない理由なのだそうだ。
迷わずに、受けるを選択していた。