1α 1/2
ライトノベルの定番、異世界バトルもの。
電撃文庫大賞、第二十回応募予定作です。
見ていただければ幸い。
一人の少女が佇んでいる。
彼女の周り、足元へと広がる世界は、現実離れした灰色。どこにも、色彩がない。
だが、彼女にはそれがある。
背中まで流れる銀色の髪や、世界を見る紫色の瞳、見に纏うゴシックロリータ調の服、生を強く感じさせる肌には色があるのだ。どうしてかその腰にはレイピアが挿されていて、それが服装と相まってどこか前時代的な雰囲気を醸し出している。
だが、それ以外には全くと言っていいほどに色がなく、それゆえに灰色の世界だった。
まるで鉛筆一本で描かれた写実的な風景画のように、それはそれは無機的だ。
少女は、雑踏の中にいた。
その姿には色があるのに、その様子はどこか、周りの世界と変わらない灰色で。
音のない雑踏へと群れる人々はやはり、灰色で。
とある灰色のビルの屋上から、消えた色が横たわる雑踏を見下ろしていた。
「また……また、こんな世界……」
どこか投げやりで、どこか苛立った、そんな声が喉からこぼれていた。
なぜ『世界』はこんな事実も知らずに流れているのだろう?
視界の奥の方には、たくさんの人がいる。いや、ある。
動いていないのだから、あるだけだ。
「哀歌さま」
そんな彼女の後ろ、数歩のところに一人の男が現れた。
屋上へと出る階段を昇ってきたのかすら定かでない、無音で唐突に、彼はそこに表出した。
「……うん」
哀歌。そう呼ばれた少女は、振り返る。
そこには彼女と同じように、色を持った男がいた。
痩身の長身を黒のスーツで包み、壮年の浮かぶ顔に眼鏡をかけている。
シルバーブロンドのオールバック。
まるで中世のバトラーとでも形容できそうな立ち姿の男だ。
「……外を、見ていたのですか」
男は穏やかな声で、哀歌に問うた。