壁の中に何かがいるの?
「コンコン、コン」と、まるで誰かが内側からノックしているかのような低い音。
気味悪さに背筋を凍らせながらも近づくと、壁越しに微かな息遣いまで聞こえる気がした。
夫には気のせいだと笑われたが、その音は夜を迎えるたび、確実に大きく、そして近く鳴り響くのだった
「このマンションに引っ越してきて、数日経った頃のことだった。ここは、都内23区内に位置する高層マンションの一室だ。
夫の一翔と2人で生活をしていた。わたしは憧れの専業主婦になることに運よく成功し、幸せいっぱいに時を過ごしていた。一翔のこともとても愛している。何一つ不自由しない生活だ。これで、幸せだと言わなかったら罰が当たるだろう。
ところが、そんな生活が3ヶ月も続いた頃━━。
あの音が聞こえ始めたのだった、
それは、リビングの東南側にある柱の中からに思えた。
「コン、コン」と、壁の中から固いもので叩くような音が響く。
最初は気のせいだと思おうとした。しかし音は毎晩、一翔が仕事へ出かけた直後にだけ鳴り始める。
耐えかねたわたしは、柱にそっと耳を当てた。
「……けて……だして……」
かすかな掠れ声。柱の中に、誰かが閉じ込められている?
恐怖に震えながら、わたしはカッターナイフで柱の壁紙を剥がし、石膏ボードに小さな穴を開けた。
隙間から暗闇を覗き込む。
そこには、赤く血走った目がじっとこちらを見返していた。
「やっと気づいてくれた?」
その声は、完璧に「わたし」と同じ声だった。
背後から、冷たい手で肩を掴まれる。
振り返ると、いつもの優しい笑みを浮かべた一翔が立っていた。
「今回の君は3ヶ月も持ったね。さあ、次の君を用意するから、早く中に入りなよ」
柱の中から無数の手が伸び、わたしを暗闇の隙間へと引きずり込んだ。
【了】
読者の皆様、最後までお読みいただきありがとうございました!
日常の隙間に潜む違和感から、逃げ場のない恐怖へ落ちていく恐怖を描いたショートショートです。優しかった一翔の本当の目的、そして壁の中にいた「自分」たちの意味……ゾッとしていただけたなら幸いです。
またゾクッとするような物語をお届けできればと思います。感想やご意見もぜひお待ちしております!




