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お盆の夜の夢

掲載日:2026/05/01

 これは私の見た夢の話である。


 そう、正気の沙汰ではない。

 なにが興味ないって、他人の見た夢の話ほど、どうでもいいものはこの世にない。

 夏目漱石の『夢十夜』があるが、あれは書いてるのが夏目漱石だからだし、面白くなるように、かなり手を加えているらしい。


 だがそれでも、書くのだ。

 どうせ消そうと思えば、すぐに消せる。




 学生時代に住んでいたアパートに、親友が訪ねてきた。

 私の知らない若い男性を一人、ともなっている。

 その人については特に紹介もされなかった。

 私と友人はしばらく話していたが、私はやがて用事があって席を立った。


 しかし突然、ここで時代劇になる。


 私が腰かけていると、背後にピッタリと、私と同年代くらいの男性が座った。姿は同心のようだ。


「振り向かないでいただきたい」

「何用か?」


 私も、なぜか時代劇口調だ。


「伯母上のお加減はいかがか?」

「……残念ながら、もう長くは」

「……さようか。ではこれを進ぜる」


 渡されたのは、ちょっとお高めの彫刻刀セットのような木箱。


 蓋を開ける。二段重ねになっている。

 一段目。

 筆ペンが一本と、名詞サイズのペラ紙が数枚。

 紙にはこう印刷されている。


『( )月( )日、私は自らの意志で旅立ちます。 氏名(      )』


「これは!?」

「……そなたの伯母上には、とても世話になった」

「世話になった。それだけか?」

「拙者のことはどうでもいい。いざとなれば、苦しまれぬよう、下段の薬を」

「そういうことか……」


 遺書ならもうちょっとちゃんとした紙のほうがいいのではないか。

 しかも無造作にクリップで止めやがる。

 と思いつつ、私は下段を開ける。


「でかっっっ!!!」


 思わず叫ぶ。

 確かに錠剤が数個、入っていた。しかし大きい。

 長さ8㎝くらい、太さも1㎝くらいある。


 こんなもの、常人でも飲み込めまい。

 いや頑張ったらギリいける? うーんどうだろう?

 とにかく、身体の弱っている病人が飲み込めるものではない。


 同心は、笑って言った。


「そういうことだ。簡単にこっちに来られては困る。君も、伯母上も。なるべくゆっくりおいで」


 振り返ると、同心はもう、いなかった。

 夏の夕空に、大きく親友の笑顔が浮かんでいた。

 お前だったのか。



 目が覚めてから、その親友が、もうずっと前、若い頃に亡くなっていたことを思い出した。

 シニカルだが、周囲を笑わせるのが得意な男だった。

 なお伯母も、数年前に亡くなっている。私は事情があって葬儀にも参列できなかった。


 ……連れていたもう一人は、結局、心当たりがなかったが、一体誰だったんだろう?

 若い男性だったのは分かったが、それ以外、どんな外見でどんな顔立ちだったか、まったく記憶にないことに、そのとき思い当たった。

 

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