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まほろばホテルには神々が住まふ  作者: かこ


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だんまり案内係

 柚葉はもう一度、注意深く二人を観察した。

 視線に気付いた料理長は流し目で意味ありげに笑い、延々と料理長に南で見た大きな魚について話していた九十九が振り返る。


「柚葉んとこは、どげな魚が獲れとった?」


 虚を突かれ、息を止めてしまった。寸の間、何を聞かれたのかわからなかったが、伊予は魚がおらんけ?と丸い目に問いを重ねられる。


「鯛やアジ、ネブトとか……ですかね。大きいものならブリはよく並んでました」

「ねぶとって聞いたことなかよ」

「瀬戸内でよく食べますよ。何処でもよく上がりますけど、帝都では珍しいみたいですね」

「どげな魚なん?」


 羽子板のように返ってくる言葉は聞き慣れないはずなのに、何となく意味がわかるから不思議だ。

 人らしい会話を何も気兼ねなく話せる嬉しさに、柚葉は心の奥で強ばっていた何かが緩むのを感じた。


「銀色にしまが入った小さい魚です。素揚げにして塩をふったり、酢漬けにして食べます」

「へぇ、おもろいなぁ」


 九十九の細められた瞳に笑う自分が見えた柚葉は目を見開いて固まってしまった。

 やはり、このホテルの人たちは何処かおかしい。あんまりな醜女だと話しすら、まともにできなかったというのに。

 首を傾げる九十九にぎこちない笑みを返す柚葉の前に丼が置かれた。

 にんじん、大根、牛蒡が入った具沢山のすいとんだ。ネギが散らされた器から湯気がのぼる。


「ほら、あたたかいうちに食べなさいな」


 料理長の何気ない一言で柚葉は涙をこぼしそうになる。

 同じ部屋で食べたら不味くなると冷めた残りかすばかり食べた日々は決して忘れることはできない。

 恐々と様子を伺っても、誰も顔をしかめない。あつあつの汁に息を吹きかけて頬張ると、火傷しそうになり、料理長にも九十九にも笑われた。久しぶりに食事をしたような感覚に頭がくらくらとする。


「あんれ、(れい)、何しとん」


 顔を上げた九十九が突然、声を上げた。

 視線の先を追った柚葉は危うく、すいとんを詰まらせそうになる。椅子ごと後退り、鼻と鼻がくっつきそうだった少女と距離を取った。

 猫のように目を細めた少女はほんのりと笑みを浮かべて、九十九の背に駆け寄るようにして隠れる。後ろに一つに結ばれた髪と大きなリボンが羽ばたく蝶だ。


「いくら新入りが気になっちょるいうても、驚かせたらあかんよ」


 たしなめた九十九に対して、零は反省した様子はない。下唇に人差し指を当て、甘え顔をする。

 渋面の九十九は開いた口を一旦閉じ、へいへいと肩をすくめた。柚葉に視線を寄越した後、へぇいと至極面倒くさそうに応えて頬杖をつく。


「これは零。案内係しとるやっちゃ。おらと一緒に柚葉の面倒見ることなったき、よろしゅうな」

「あの、もしかして、零さんは話せないんですか」


 零をちらりと見た柚葉は遠慮がちに確認した。

 九十九はあどけない顔に不釣り合いな皮肉のこもった笑みを浮かべる。


「零は話せるもんが限られとんよ」


 柚葉は慎重に頷いた。どう応えるべきか悩んでしまう。

 深刻そうな顔に、九十九と零が顔を見合わせる。二人は何回か瞬きで示しあった後、小首を傾げた。

 音のない会話が交わされることを固唾を飲んで見守っていた柚葉に九十九は眉尻を下げ、言い聞かせる。


「わからんかったら、わからん言うたらええけぇ。てげてげに気張りぃ」

「……てげてげ?」


 困惑した柚葉を見た九十九が零を振り返る。

 けらけらと笑う少女をひと睨みした少年はほどほどやと付け足した。

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