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まほろばホテルには神々が住まふ  作者: かこ


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3/5

おしゃべり清掃係と忘れん坊料理長

 まほろばホテルの支配人は、宿泊客が一人もいなくてもお気楽だ。


「そういう日もないと休めないからね。こういう時も必要必要」


 従業員が少ないのは、給金が少ないからではないか。柚葉の脳裏に不安がよぎるが、仕事を選べない立場なので何も言わないでおいた。

 柚葉くん、と呼ばれて顔を向ければ、半纏の袖に両手をもぐりこませた千早がへらりと笑う。


「料理長に味噌は忘れてもいいけど、南瓜は忘れずに、って伝えといてくれる?」

「わかりました。あの、台所の場所は」

九十九(つくも)くんが案内してくれるよ」


 頼んだ本人は欠伸をしながら、扉の奥へと消える。

 影井は隠れっぱなしで助けにはなりそうにない。あたりを探していると、従業員用の扉が開く。

 現れたのは、溢れんばかりに布が詰められた籠だ。わずかに浮いていると思えば、二本の足がはえていた。色とりどりの布の奥から顔を出した少年は、大きな目をくりりとさせる。


「お? 用事け?」

「……台所に用事があるのですが」

「そうけ、おらが案内しちゃる。お前が噂の新入り?」


 柚葉です、と頭を下げると、ついてこいと顎をしゃくった。


「おら、九十九。べるあてんだんと、と。はうすきぃぱぁを任せられとるけど、この訛りやろ? いろんな所つれられて、わやくそになっとるが、どうもならんくてな。しゃーないから、部屋の掃除ばぁっかりしとる。ま。気ぃ使わんでええから(たの)しゅうやっとるんよ。お前は、何処から来たん?」

「伊予からです」

「そげん遠くから! 伊予もなぁ、ええよなぁ。海も山も近いし、何よりあったかい。寒いんはこたえるよなぁ。昨日今日で寒くなったやろ? もぉ、手がちぎれそうでかなわん。いくら手当てしても、ちぃーともよくならん。冬の洗濯もん、大変よなぁ? 泡が散って中でするわけにもいかんし――」


 調理場へたどり着くまで、柚葉は聞き役に徹した。


◇ ◇ ◇


「まあ、いけない。味噌汁にお味噌忘れてたわ」


 それでは、ただの出汁では、と言いかけた口をきゅっと柚葉は結んだ。

 白い割烹着姿の妙齢の女はおっとりとしているが、そこはかとなく色気をかもし出す。格式ある料亭の女将の方がよほど似合っているように見えるが、忘れっぽい所を見ると仕事を任せるのはいささか心配だ。

 付いてきた九十九は頭の後ろで手を組み、けらけらと笑っている。


「料理長の忘れん坊は相変わらずじゃなぁ」


 笑い事ではないと顔がひきつった柚葉は、頬に手をあてた料理長に念を押す。


「支配人が、かぼちゃは忘れないようにって言われてました。準備されているでしょうか」

「それは大丈夫。夏に収穫したものを納屋に入れてるもの」

「……ねずみに噛られたりしていませんか」

「それも大丈夫。ねずみなんて来るわけないもの」


 のんびりとした口調のわりに、きっぱりと返されたことに柚葉は面食らった。

 九十九も口を挟まないことから、よっぽど隙のない納屋か、秀逸な罠が仕掛けられているのだろう。にわかに信じがたいが、新人が口出しすることもない。

 柚葉は余計なことは言うまいと口を引き締めた。

 会話が途切れたことを見計らって九十九が訊ねる。


「なぁなぁ。今日の昼飯は何作ると?」

「今日はおうどんを……あら、麺を用意するの忘れてたわ。すいとんにしましょうか」


 腹をすかせた柚葉は何も聞かなかったことにした。

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