第93話 明日のこと
「お、来たね。」
宿の扉を開けると、
ニールスさんが居た。
テーブルにはコーヒーカップと、本が置いてあり、
長時間待っていたように思えた。
「すみません。遅くなりました。」
ジーナが謝った。
つられて僕も少し頭を下げる。
「全然!勝手に待ってただけだし、僕は仕事だからね。」
ニールスさんは慌てて手を振り、
気を使わないように促す。
「ありがとうございます。それで、なんでしょうか?
僕らを待っていたようですが。」
向かいの席に座りながらニールスさんに尋ねる。
隣にジーナが座った。
「ああ、明日のことを伝えるためにね。」
なるほど、
それで待ってくれていたのか。
「明日の集合は9時、宿の前で集合ね。
それと一応、地図を渡しておく。
闘技場とか、宿、大使館の場所に印つけておいたから。」
そう言いながら、
僕とジーナにそれぞれ冊子を渡す。
「ありがとうございます。」
「お安い御用さ。これで僕からは以上かな、そっちからは質問ある?」
「いえ、私は大丈夫です。」
ジーナに続いて、
僕も大丈夫と言おうとしたが、
ふと、気になったことを聞いてみる。
「あの、親善試合とは関係ないんですけど…。」
「良いよ、全然。」
ニールスさんはそう言いながら、
コーヒーカップを手に取った。
「ザイード…さんとは知り合いなんですか?
少なくとも、ザイードの方は
ニールスさんを知っていたようでしたが。」
ニールスさんの手が止まる。
「あー、うん。昔少しね。」
いつものニールスさんとは裏腹に、
少し歯切れが悪い。
「良ければ、聞かせてもらえませんか?」
「…えーと…。」
ニールスさんは悩むように顔を上に向けた。
「…私はいいわ。じゃあ、後でね。」
そう言って、
ジーナは階段を上がって行った。
コツ、コツ、と
木の階段を踏む音が遠ざかっていく。
…気をつかわせてしまったか。
「まあ、話せないわけじゃないんだけど。
聞き様によっては、ザイードの名誉に関わる話だから…。」
絞り出したように、ニールスさんが続ける。
「ザイードさんには感謝しているので、知りたいんです。」
「でもなぁ、フェアじゃないっていうか…。」
「…気になりすぎて、明日の親善試合に影響が出るかもですねー。」
ニールスさんが話しやすいように、
少し意地悪な言い方をしてみた。
ニールスさんは少し驚いた顔をしていた。
「…はぁ、ユーリさんから要らないところまで学んでしまった様だね。
分かったよ。」
そう言って、ニールスさんは
少しコーヒーを飲んだ。
そして、
ゆっくりとカップを置いた。




