第73話 先生として
ユーリ先生の笑ったところなんて初めて見た。
「笑うとこですか?ユーリさん、最悪殺されてたかも。」
ニールスさんがユーリ先生に話す。
…言われれば確かに、
財布が無事なのも不思議なくらいだ。
「いやぁ、最高じゃないか。
その年齢でここまで豪胆なやつは久しぶりに見たよ。
こういう奴が世界を変えるんだよ。」
急にスケールが大きくなったな。
よく分からないが、
どうやら先生はお気に召したようだ。
「流されただけじゃないんですか?ザイードは飲んだくれで有名ですし。」
「まあまあ、とりあえず酔い覚ましに水でも飲みなさい。」
ユーリ先生は、店の人を呼び止め、
水を注文していた。
「…あの、水はお腹を壊すと言われたのですが。」
「…それは飲んだくれの常套句だよ。
確かにミトレス国よりは品質は良くないが、
店で出てる分には問題ないよ。」
…ザイードのクソ野郎め。
「やっぱり…、知らない人の言うことを安易に信用しちゃダメだよ。」
「フフッ、まあ無事だったんだから、良いじゃないか。」
ユーリ先生はニールスさんを抑えた。
先生として庇ってくれているのだろうか。
「それに、死んでいたら、それまでだっただけだよ。」
…そうでもないらしい。
まあ、怒られるよりましか。
そんなことを考えていると、
店の人が水を持って来てくれた。
気恥ずかしさ、後悔、
全てを飲み込むように水を飲み干した。
「ユーリさん、流石に先生として何か言った方がいいんじゃないですか?」
ニールスさんに言われて
ユーリ先生は考える素振りをする。
少しの間の後、
「次は、ちゃんとね。」
はっきりとした視界の中で、
ユーリ先生はこちらを見て答えた。
ただ、その視界に僕は映っていないように思えた。




