第67話 大人
「…ハァ、興ざめだな。」
そう言って剣士は剣を鞘に納めた。
もはや彼にとって僕は脅威でもないようだ。
「じゃあ、もういいですね。失礼します。」
面倒事が回避出来たと喜ぶべきなのだろうが、
…苛立ちが募る。
少々口調が荒くなることを実感しながら、
逃げるように去ろうとする。
「まあ待てよ。」
何故か引き留められてしまった。
「…何ですか。」
「何だ、その、よくよく考えたら、盗みの現場を見たわけじゃねえし、
孤児院出身の魔法使いはいることはいるしな。」
ばつが悪そうに頭を搔きながら、
自身の行動を反省するかのような発言をする。
「……悪かったな。」
ぼそりと呟く。
「虫の居所が悪かったんだ。」
…直情的なタイプなようだが、
それだけじゃないらしい。
「…いえ、分かっていただければ幸いです。僕も口が過ぎました。」
僕も自身の行動を振り返ってみると
決して誉められた態度ではなかった。
過ちを認め、
自分から謝ることができる彼は、随分と大人に見えた。
強いことよりも、そっちの方がずっと難しい。
…ジーナに対してもそうすべきだったんだろう。
「…何でそんなにしょぼくれてるんだ。
まあ、孤児院出身なら苦労も多いだろうが。」
先ほどとは打って変わって、優しい声色で話しかけてくる。
「大丈夫ですよ、大したことじゃありません。」
「おいおい、そこまで邪険にしなくてもいいだろ?
俺たちの仲なんだし。」
…どんな仲だ。
もう早くどっか行ってくれないかな。
「お詫びと言っちゃあなんだが、飯でもおごるよ、ついてきな。」
こちらの返事も聞かずに剣士は歩き出してしまう。
罠という感じでもないし、
断る理由も見つからなかった。
…それ以上に、ここにいても出来ることは無いし、
少しくらい、付き合ってもいいだろう。
大人にはなれなかったが、
大人しくついていくことにした。なんてね。




