第66話 敗走
剣士は先手必勝と言わんばかりに
こちらへ真っ直ぐ突っ込んできた。
初撃をかわし、少し距離をとる。
…やはり面倒だな。
そう思い、逃げることにした。
背を向け、全力で駆ける。
「ちょ、待てや!こら!」
後ろから怒号がこだました。
飛び道具を警戒して少しだけ後ろを向く。
剣士は、こちらを追ってきていた。
彼は戦う為に鍛えた肉体を持っているだろう。
だが、こちらは数ヶ月間、
走る逃げるを繰り返してきたのだ。
戦うために鍛えた彼と、
逃げるために鍛えた僕、
追いかけっこはこちらに分があるようだ。
距離が大きく開く。
このまま余裕で逃げ切れる。
そう確信した。
…本当に、これでいいのだろうか。
そう思った時、
僕の足は既に止まっていた。
「ハァ、ハァ、何だ。やんのか。」
息が上がった彼を見て、
手を掲げ、魔法を放つ。
〈エンソウ〉
炎を槍の形に形成。敵へ飛ばす魔法。
…何も起こらない。
「何だ?魔法じゃないのか?」
「くそっ、ここまで落ちているのか。」
最早攻撃と呼べる魔法は〈コウキュウ〉くらいしかない。
しかも有効射程距離は落ちている。
「どうしたんだ?魔法使い。やっぱり噓だったんだな。」
「…まあ、そうかもしれませんね。」
返す言葉も無かった。
「…何だよ、そのしけた面は。」
「…。」
…最早僕は魔法使いと呼べるのだろうか。




