第60話 無敗という悪
「お、もうすぐ始まりそうだ。」
半刻ほど時が経ち、司会が顔を出した。
「お集まりの皆々様、お待たせいたしました!
エーテル・コロッセオ午後の部、開始いたします!!!」
先程までの静寂を切り裂き、
客席から割れんばかりの歓声が上がる。
「さあああ本日の第三試合ッ!!
まずは赤の入場門より――
コロッセオの代名詞!!通算45戦38勝!!
そのほとんどが一撃決着!!
剣が閃いた瞬間、勝負は終わるッ!!
――瞬殺の処刑人!!ザイード・クレストォォォ!!」
司会に口上に合わせて、太鼓の音が鳴り響き、観客たちも色めき立つ。
「うおおおおお!!!ザイード!ザイード!」
赤い入場門が開き、仮面を付け、鎧に身を包んだ剣士が入場してきた。
剣士は歓声に応えず、ただまっすぐ中央に向かって歩いていた。
「目玉の選手みたいだね、オッズを見ても、かなり人気みたいだ。」
ユーリ先生の解説が入る。
と言っても、解説が不要なほど周りの歓声が答えだった。
「対するは!青の門より――
古式魔法の継承者!通算16戦16勝。無敗の男!
玄人泣かせの制圧術!
――魔法使い!ロドリック・ヴァルト!!」
「ブーー!!ブーー!!引っ込め!!帰れ!!」
先ほどとは打って変わって、ブーイングが走る。
青い入場門が開き、ローブに身を包んだ男が入場してきた。
ロドリックはブーイングを気にする様子もなく、
ゆっくりと中央へ歩いた。
「どうして不人気なのでしょうか。」
ユーリ先生に聞いてみる。
無敗――それは強さの証のはずなのに、
どうしてこんなにも嫌われるのだろう。
「んー、魔法使いは戦っても基本遠距離で、一方的になる。
無敗でも、見てて面白くないんだよね。」
試合に勝てても興行としては不正解ということか、
そう思い、魔法使いを改めて見る。
ローブの隙間から、金属の光が一瞬覗いた。
首輪だ。
「あ、あの、ユーリ先生。あの魔法使い、首輪が…。」
「ああ、彼は囚人のようだね。」
「え、ということは…負けたら…?」
「さっきと一緒だよ。」
ユーリ先生に冷静に返される。
言葉に詰まっていると、
「言っておくけど、この国のルールだから、干渉はしないでね。
囚人は囚人だ。」
ユーリ先生に釘を刺される。
確かに彼は囚人で、何をしたのかも知らない。
でも、知らないからこそ、普通の人と同じに見えてしまい、
死んでほしくないと思ってしまう。
……もし知れば、
僕は、死んでほしいと思うのだろうか。




