第57話 陰謀
大通りから入り組んだ路地裏を抜けて、
街の一角にその店はあった。
看板は擦り切れ、
店名すら判別しづらい。
煙草の煙と酒の匂いが混じり合い、
卓を囲む者たちは笑っているのか、
怒っているのか曖昧な声が響いていた。
そんな中、カウンターで一人の男が酔い潰れていた。
そこに、フードを被った一人の男が話しかける。
「ここにいたんですね。カインズ市長。」
「なんだ、おまえ。」
「お久しぶりです。」
フードを外し、顔を見せる。
その刹那、カインズ市長と呼ばれた男は目を見開いた。
が、すぐに興味を失ったように視線を外した。
「ユーリか、生きてたんだな。」
「はい。でも、カインズ市長は死んでるようですね。」
そう言ってユーリはフードをかぶり直し、
隣の席に座った。
「そうだな、もうただの厄介者だ。だから市長ってのはやめてくれ。」
「…なんで市長辞めたんですか?」
「お前がいないからだよ。つまんなくてな。みんな俺が言った通りにするんだ。」
そう言ってカインズは酒を煽った。
「気晴らしにここに来たはいいものの、強すぎて誰も戦ってくれなくてな。」
後ろに目を向けると、
そこでは国際的に有名なカードゲーム
『ライフライン』が行われていた。
心理戦に特化しているこのゲームは、運の要素がほとんどない。
カインズ市長なら一方的に勝利を収めるだろう。
「それは、そうですね。相手が可哀想だ。」
「はあ、可哀想なのは俺だよ。普通に生まれてたら、どんなに楽しかったか。」
そう言ってカインズはカウンターに突っ伏す。
「それで、今更何しに来たんだ。先に言っておくが、俺は今、不機嫌だ。
長らく鎬を削り、ある意味親友だと思っていたやつから
十年近くも放置されていたと言う事実に打ちひしがれている。」
「…世界を変える気はないですか?」
「なるほど、ついにイカれたか。鍛えすぎて脳みそ逝っちまったようだな。残念だよ。」
ユーリは何も答えなかった。
「一応聞くが、一体どうやってやるんだ?」
「今は教えることができません。」
「フザけてるのか、そんなんで俺が乗るとでも……」
カインズが改めてユーリを見た。
そのとき、カインズは思い出していた。
初めて会った日のことを。
魔物の巣窟、ムキール山へ単身で赴き、『ギョウセキ』を取ってくると言っていた。
あの時と同じ目をしていた。
「フッ、アッハッハ!」
彼は堪えきれないといった様子で肩を揺らし、
腹を抱えて笑った。
周囲が静まり返るほどに。
「イイね、最高だ。やはり君は良い。聞かせてくれ、私は何をしたら良い?」
ユーリは穏やかに、そして静かに笑った。




