第53話 力のありか
「お疲れ様です。滞りなかったですか?」
役所の扉を開けると、
ニールスさんが出迎えてくれた。
…いつから居なかったんだ?
ニールスさんの姿に、今さら気づく。
緊張していて、周りが見えていなかったらしい。
「お疲れ様、ああ、大方予想通りといったところだ。そっちも問題なかったか?」
「はい、平和なもんでしたよ。次は何処へ?」
「エーテル・コロッセオへ下見だね。後は事前にソラリス国へ挨拶くらいかなー。こっちは前日の方がいいだろうけど。」
ユーリ先生とニールスさんが言葉を交わしていた。
だが、先ほどまでの現実離れした光景にまだ影響されているのか、
実感が湧かない。
「それじゃあ、リオ君、ジーナさん、一旦宿に行こうか。」
「え、あ、はい。」
ジーナも同じようで、
変な声を上げる。
「…どうしたんだい?」
「いえ、その現実感が無くて…、すみません。」
「あー、分かるよ。外交モードのユーリさんは怖いからね。」
ニールスさんが僕らの気持ちを代弁してくれた。
「そうなの?」
「そうですよ。有無を言わせない感じがプンプンしています。」
「利益にならない事を断っているだけなんだが。」
「今回だって、2名だけの参加でゴリ押ししたんですよね?もう1人くらい用意出来るでしょうに。」
「人を用意するのもタダじゃないんだぞ。
なんでヴァレンス連邦の利益の為だけに、ソラリス国がコストをかけなきゃいけないんだ。
向こうがこっちの利益を用意出来ないのが悪い。しかも今更言ってくるなんて論外だ。」
ユーリ先生は自身の考えを話す。
言われればそうかもしれない。
「厩舎でも迎えを待たずに来ちゃうし、わかってたんじゃないですか?」
「ま、向こうからしたら、よくわからない生徒2名と先生1人、
対応を後回しにする気持ちもわかる。カインズ市長じゃないって言われて納得した。」
「道理で。」
ニールスさんは納得といった表情を浮かべた。
「その、カインズ市長というのはどんな人だったんですか?」
ジーナがユーリ先生に質問する。
先ほどよりは落ち着きを取り戻した様子だ。
「一言でいうと、交渉の達人だね。特に、利益に関しての嗅覚は凄まじいものがあった。」
ユーリ先生はどこか懐かしむように答えた。
「今回でいうと、ジーナさんの好物くらいは用意していたんじゃないかな?」
「え、冗談ですよね?」
ジーナの顔に恐怖の色が濃くなる。
「確かに、カインズ市長ならやりかねない。」
ニールスさんが同調するおかげで、現実感が増していた。
「ああ、気楽に話せる人間だった。」
「それはユーリさんだけです。普通の人はビビって何も言えないですよ。」
ニールスさんがツッコミを入れた。
なるほど、似た者同士という事らしい。
「個人的な用事もあったし、彼なら話が早かったんだが、退任したなら仕方ない。」
そう言ってユーリ先生は歩き出す。
魔法使いというには、あまりにも強い膂力。
研究者というには、あまりにも強い外交力。
この人は一体何を見てきたのだろうか。




