第50話 向かう先
…気がつくと、馬車が止まっていた。
外に目を向けると、同じような馬車がいくつも並び、国ごとの紋章が入り乱れている。
「あら、起きた?」
声のする方を向くと、
そこにはジーナがいた。
「ああ、もう着いたのか?」
「ええ、ヴァレンス連邦よ。」
見た感じ、ここは郊外らしい。
街の中心へ入る馬車は、ここまでのようだ。
「…そういえば、検問とか通った覚えがないんだけど。」
「ユーリ先生が少し話したら、パスされたわ。」
いいのか、それで。
強さに目が行きがちだったが、顔もかなり広いらしい。
「凄いな、うちの担任は。」
「ええ、そうね。」
「それで、そのユーリ先生はどこ行ったんだ?」
「外でニールスさんと荷卸しを手伝っているわ。」
「んじゃ、手伝いに行くか。」
立ち上がろうと膝に手を添えると、
ジーナに制される。
「私たちはここで待機してなさいって。
荷卸しと言っても、商業的なルールがあるみたいだから。」
知識のない僕らでは、
仕事の邪魔になるかもしれないということか。
「なるほど、ありがとう。」
ジーナにお礼を言い、外を覗く。
汗一つかいていないユーリ先生と、
必死な様相のニールスさんが忙しく走り回っていた。
先ほどまでとは打って変わって…、
いや、いつも通りいやになるほど冷静なその態度に何とも言えない感情になる。
「実はユーリ先生って、結構どうでもいいのかも知れないな。」
ジーナに目を向けて、
自分の思うところをぶつけてみた。
隠し事は無い。
それは素敵なことのようだが、
誰にでも言えるということは、
誰でもいいのではないか――そんな考えが、頭をよぎった。
ユーリ先生は、少なくとも僕らを選んではいない。
その事実が、どうしても引っかかっていた。
しかし、ジーナからは意外な言葉が返ってきた。
「そうかしら?私はさっき話で、ある程度納得できたけど。」
「僕には、どこかやけになっているように見えたんだけど。」
「どうしてもどうにかしたいから、無謀だと分かっていても対策しているんじゃないのかしら。
本当にどうでもいいなら、何もしないわ。」
ジーナは続ける。
「それに、ニールスさんも言ってたでしょ?
力を示せればいいのよ。今までとやることは変わらないわ。
私たちが有用であれば、ユーリ先生も少しは態度を変えるでしょ。」
「…なるほど、確かにそうだ。ありがとう。」
そういう見方もあるのかと納得はしたが、
胸の奥に残ったざらつきまでは消えてくれなかった。
「…良い生徒だね、君たちは。」
ジーナと会話を重ねていると、
後ろからニールスさんに声をかけられる。
「僕も仕事上、他の冒険者に教える事はあるけど、
正直、君たちには及ばないね。冷静に分析している。さすが魔法学校の生徒だ。」
「まあ、裏口入学みたいなもんですけど。痛っ。」
そんなことを言ったら、ジーナに叩かれてしまった、
なんでだよ。
「こういう時はありがとうございます。でいいのよ。」
「…ありがとうございます。」
「ハハッ。いいコンビだね。」
「おーい、それじゃあ出発するぞー。」
少し気恥ずかしくなり、そっぽを向いていると、
ユーリ先生からの号令がかかる。
遠征は始まったばかりだ。気を引き締めていこう。




