第46話 必要
「無生物…ですか?」
「ああ。」
「その、人体構造の研究とかではないんですか?」
少し、いやかなり意外だった。
人体の魔力構造の解析とかならまだわかる。
その研究の結果があの強さなんだ…と。
無機物が本来のテーマとなると、
僕らへ訓練や指導は、研究によるものではないのだろうか。
「んー、人体構造は難しいからね、個人の才能の関与が多くて再現性もそんなにないし、
僕としてはそこまで興味をそそられないかな。」
「じゃあ、なんでそんなに強いんですか?」
ジーナが食い気味に聞く。
「僕の力は研究の結果じゃないよ。入学する前から使えたし。」
「え、どうしてですか?」
「どうして…か、必要だったからとしか言いようがないんだけど。」
「その、どうして必要だったのでしょうか。そこまでの強さが。」
どこまで踏み込んでいいのか分からず、
恐る恐る聞いてみる。
狂気にも近い魔法運用。
圧倒的な強さ。
そんなものが必要になる状況はすぐには思い浮かばなかった。
その答えとして、
ユーリ先生から明かされた過去は、
「昔、奴隷だったんだ。その時の領主を殺すために習得した。」
僕の想像などを軽く凌駕する。
圧倒的な強さが必要になるにふさわしい、
いや――それ以外に生き残る道がない、
絶望的な状況だった。
「お待ちしておりました。ユーリ様御一行ですね。」
「はい、代表者のユーリです。ヴァレンス連邦までお願いします。」
ユーリ先生と馬車の家主がやり取りをしている。
少し後ろで待っていると、
「ちょっと、なんであんな事聞いたのよ。他に聞きづらくなっちゃったじゃない。」
ジーナが小声で話しかけてきた。
「いや、ゴメン。そこまでヘビーだとは…」
「…まあ、リオが聞かなかったら私が聞いてたか。」
奴隷の過去、
しかも領主を殺した。
「正直、もう聞くの怖いんだけど。」
何より怖いのは、これらの事実を、
何事もなく普通に答えるユーリ先生に対してだった。
「それはわかるけど、聞かなきゃ始まらないでしょ。」
「そうだけど…。ていうか、言ってもいいのかな。領主ってことはそれなりの立場の人間なんじゃ。」
「法律は詳しくないけど、幼少期ならもう時効なんじゃない?
それに、有罪だとして――ユーリ先生を捕まえられる人、いる?」
「…無理だな。」
太陽王しかり、味方で良かった。
「…世界って意外と強者の善意で出来てるよな。」
「…そうね。」
壊れていないのは壊さないだけ。
世界平和、万歳。




