第2話 アットホーム
「朝だよ!!お兄ちゃん!今日から行くんでしょ!」
まだ息が白くなる季節だ。眠気に襲われているところへ、弟からの洗礼を浴びせられた。
「朝からうるせぇな。」
布団を頭まで引き上げて言い返す。
「良いでしょ!登校初日なんだから!気合い入れて!」
相変わらず朝からうるさいやつだ。
「別にオメェが行くわけじゃねぇだろ。」
「まあまあ、そういじけないの。トーラスも嬉しいのよ。お兄ちゃんが凄いことしてるからね。」
言い合っているうちにシスターが部屋に入ってきた。
いつも通り和やかな表情を浮かべ、笑っている。
「凄い事と言われてもな。運が良かっただけで、実際は補欠合格みたいなもんだよ。」
「それでも入学はさせてもらえたんでしょ?立派なことよ。」
「そうだよ!うちの兄ちゃんはすげぇんだから!みんなに自慢しちゃった!」
「そうね。私もご近所さんに自慢しちゃったわ。」
「へいへいあんがとさん。」
視線を逸らして、適当に返事をする。
実際、本当に運が良かった。
元々は不要な能力だったが、向こうが必要な時にたまたま噛み合っただけだった。
それでも弟やシスター、孤児院のみんなが大袈裟に喜んでくれたのは。
これから下宿になる僕に対して、心配させないように取り計らってくれているのかもしれない。
そんなことを考えながら、荷支度を済ませて、出発の準備に取りかかる。
「ほんじゃ行ってきやす。」
「まって!ほら首飾り。忘れてるわよ。」
「・・・別にいらないんだが。」
「あなたの両親からの贈り物でしょ?大事に持っておいきなさい。いつもほったらかしてるんだから。」
そう言って強引に首飾りを付けてくる。
顔も知らない上に捨てられた親からの贈り物だ。
正直、そこに特別な感情は抱けなかった。
「はい。これで良い。行ってらっしゃい。体に気をつけて。」
「行ってらっしゃい!ビッグになってよ!」
涙ぐむシスターや、元気な弟を前に、なんとも言えない気分になる。
言葉が見つからず、つい背を向けてしまった。
「……そのうち戻るわ。」
そう告げて、少々強引に外に出る。
少し歩いて、何気なく振り返るとまだ手を振っていた。
僕の姿が見えている間、彼女達は孤児院に戻れなさそうなので、足早に歩く。
そうして進んでいくと次第に、今まで息を潜めていた早朝の静けさが襲ってくる。先程までの騒々しい日常との別れを強く、執拗に押し付けてくる。
「……まだ、寒いなぁ。」




