第13話 特別
あの魔法は何だったんだろう。
ユーリ先生は味方だ。
だが、いつか敵があれを開発出来ない保証なんてない。
先生のような魔法使いが大量生産されたら、太陽王がいたところで終わりではないか。
いや、もしかして先生以外に出来ないのか。先生も自身のことを色々特別とか言っていたし。
午前中は自習になってしまったので、図書館に向かいながら考える。
扉を開けるとそこには、車輪のついた椅子に座っている男がいた。
「お、昨日ぶりだね。おはよう。」
「おはようございます。」
本当にいつもいるんだな。
「今日はどうしたんだい?」
「先生が自習って言ったんですよ。なので少し文献を探しに」
僕の言葉を聞いて、ジルは首をかしげた。
「そんなこと指示する教師はいたっけな。名前は?」
「ユーリ先生」
「え!?ホントに!?」
ジルは驚いて身を乗り出す。
どこか見覚えがある気がする。
「そうかー、あいつが教師かー、それは大変だね。」
「ご存知なのですか?」
ジルは誇らしげに、そして何故か寂しげに話す。
「存じ上げておりますとも。あいつは僕の親友さ。」
ジルに今日の午前にあった出来事を話した。
ユーリ先生が担任になったこと。
ジーナと演習で戦ったこと。
少し様子がおかしかったこと。
「あいつやっぱりまだ……。はあ、ここにも来なくなっちゃったし。どうにかしたいんだけど。」
「一つ質問なのですが、先生の使っている魔法は何ですか?」
「え!?魔法って分かったの?」
ジルはさらに驚く。
「ええ、魔力を使っていたので。」
「こりゃ驚いたな。なんか他の人とは違う感じしたけど、ここまでとは。」
なにかぶつくさ言っている。
ジルは僕に向き直して答える。
「彼の使っている魔法は、〈レツ〉だ。」
「…それって戦闘では使用出来ない魔法じゃありませんでしたか?」
今度はこちらが驚く番だった。
〈レツ〉とは、身体強化魔法である。
実は〈レツ〉は誰でも使える。簡単な魔法だ。
だが、誰もがこの能力を伸ばそうと思うことはない。
「そうだね。じゃあ問題。何故〈レツ〉は衰退したのでしょうか。」
「……問題は大きく分けて二つあります。一つ目は魔力抗体。」
同じ魔法を受け続けると、その効力は次第に弱くなっていく性質がある。
一般的に「魔力抗体」と呼ばれている。
そのため〈レツ〉を含め、自身にかける魔法は次第に衰退し、医療魔法でさえ受けられる回数に限りが生じる。
「二つ目は扱いの難しさです。魔法初学者が集中力を高めるための基礎的な訓練では行いますが、それを戦闘中に出来る人はいません。簡単に暴走して体を傷つけてしまいます。」
「ご名答!魔力抗体についてはよく知られてるけど、暴走に関しても知っているとは。よく勉強しているね。」
ジルは嬉しそうに拍手を浴びせてきた。
「勉強というか実体験ですね。」
「え。」
「子供の頃、村の大人とケンカした時に。腕が弾け飛びました。通りすがりの魔法使いに助けていただきましたが。」
あれは流石に痛かった。
トーラスが泣きわめいていたから、よく覚えている。
ジルの顔を見ると引きつった笑顔だった。
「ハハハッ、君も中々イかれているようだね。うん。」
「僕の話は置いておいて、先生はどうやって〈レツ〉を扱っているんでしょうか。」
「…そうだね。では、魔力抗体ってのはどの段階で発生すると思う?」
気を取り直したジルから更に質問が飛んでくる。
「……魔力を受けたら。という認識です。」
「惜しい、厳密にいうと少し後なんだ。魔力を受けた後、抗体は発生する。」
「……何が違うんですか?」
イメージがわかなかった。
「肉体でいう超回復と同じだ。魔力を受けて、体がその影響を限りなく小さくしたいがために抗体が発生する。」
そして、ジルは続ける。
「ここからが彼の特別な部分。幼少の頃にこの事実を見つけ出し、その日から自身に魔法をかけ続けている。心臓が鼓動を辞めないのと同じようにね。」
「そんな…ことが…。」
「そして、身体強化魔法なんて大雑把にせず、肉体の繊維一つ一つに対して、何千とレベルを分けて発動している。傍から見れば細かすぎて見えないレベルにね。それによって戦闘中に多少乱れてしまっても、繊維が少し壊れる程度で済む。」
「待ってください。分けて発動なんて、そんなこと可能なんですか?」
「僕にも分からないが彼には可能らしい。だからこそユーリは特別なんだ。」
なんてことだ……。
理解できる範囲でも異常ということがわかる。
特別という言葉の重さが、ようやく実感できた。
「誰にでも出来るけど、誰にも出来ない。そんなことをやり遂げる男なんだ。」
そう語るジルの顔は懐かしさと寂しさが両立していた。




