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バレるに決まってんだろ

「では、ユースキーさん。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」 

 挨拶を返せば、アリスはパタンと扉を閉めた。中から聞こえてくる物音的に、そのままベッドに直行したようであった。

 場所は飛んで田舎町。そこにある宿屋。夕暮れまで馬車を走らせ、ようやく本日の目的地に辿り着いたのだ。

 俺は部屋の前から歩き出し、そのまま自分の部屋へと向かう。と思わせておいて、その場でUターンして階段を降りてゆく。そして宿屋のロビーまでやってくると、クルッと振り返った。

「で? なんか用かアルべリク?」

「おお、さすがに気づかれておったか」

 言って物陰から姿を現したのは大男。アルべリクであった。

 アルべリクはのっしのっしと歩いて来て、俺の前で立ち止まった。格好は昼間と同じ。気のいい農夫、という言葉が一番似合っているように思う。

「しかし、我輩の『尾行術』を見破るとは、良い冒険者であるなぁ。ユースキー殿は」

「見破るもなにも、そんだけ気配出してりゃ気づくだろ。つか、アリスが寝たから会いに来たんだろ?」

「うむ。姫の前には姿を表すわけにはいかぬ。だからこそ完璧な変装で、昼間もお主らを助けたというわけよ」

 ガハハ! と豪快に笑うが、全然完璧などではない。昼間アリスにバレなかったのは切羽詰まった状況だったからにすぎない。たぶん平時でじっくり見られれば速攻でバレる。

「で、結局何の用なんだ? まさか、立ち話するために出て来たわけじゃねぇだろ?」

「おおっ、そうであった」と、アルべリクは声を上げた。

「実は、貴殿に少し協力してほしいことがあるのだ」

 協力? と首を傾げれば、アルべリクは「うむ」と頷いた。

「恐らくではあるが、貴殿はこれから地下迷宮へと潜るのであろう?」

「まぁ、そうだけど。つか、言ってたっけか?」

 そう問うと、アルべリクは自慢げに笑った。

「いいや、一言も聞いてはおらん。しかし、アルドワン家に代々伝わりし『推理術』を駆使すれば、貴殿がどこに向かおうとしているかなど……」

「あー、分かった。分かった。それで合ってる。正解だ。俺たちがこれから行こうとしているのは地下迷宮だ。だからとっとと結論を言え」

 俺が気を遣って手短に済ませてやれば、アルべリクは少しだけ残念そうな顔になる。

「容赦がないのう、お主は。まあよい。とにかく、貴殿たちは地下迷宮へと向かおうとしている。むろん、我輩はどんな場所でも姫を守る所存ではあるのだが……」

 チラリ、とアルべリクは気まずそうな目を向けてきた。

「いかんせん、我輩は地下迷宮に潜った経験が無い。故に、どこまで着いていけるか分からぬのだ」

 と言ってアルべリクは困った表情を浮かべる。そんなのでキングズガードが務まるのかと思ってもみたが、よくよく考えればそれも仕方ないとも思った。

 キングズガードは護衛の達人である。守護対象は王族。街の中ならいざ知らず、地下迷宮で王族を守るなんて任務はまずあり得ない。なのでアルべリクが悪いというわけではなく、単純に培ってきた能力の向き不向きの話であるのだ。

「けど、どうすんだ? アリスを警護しないってわけにもいかんだろ?」

「無論である。それゆえ、我輩を貴殿らのパーティーに加えてもらいたい。さすれば、警護も簡単というものよ」

「おお、なるほど」

 言って俺は感心してしまう。確かに後ろからコソコソ着いて行くより、一緒に行動したほうが確実だと言える。なので「それでいこうぜ」と言いかけたのだが、ふいその可笑しさに気づいてしまう。

「いや、待て待て待て。普通にバレるだろそれ」

「むっ、そうであるか? 変装は完璧であるが?」

「完璧であるが? じゃねーよ。バレるに決まってんだろ」

 俺は続ける。

「つーか、まさかその格好で行く気じゃねぇだろうな? 地下迷宮舐めてると死ぬぞ」

「そこまで愚かではない。いつもの鎧は着れぬゆえ、別な装備を用意してある。ほれ見よ」

 言ってアルべリクは腰からぶら下げていたものを見せてくる。見れば、それは兜であった。あの純白の甲冑とは違い、やや古ぼけた兜だった。

「かつて、我輩が兵士をやっていたときの装備である。顔が隠れる形ゆえ、バレることもあるまい」

「まぁ、それならいけるかもしれんが……」

「まだ何かあるのか?」

 含みを持たせた俺の言い方に、アルべリクは小さく首を傾げた。

「いや、そもそもアルべリク。あんた、地下迷宮に潜ったことねぇんだろ? アリスだけならまだしも、そっちまでは面倒見切れんぞ」

「なるほど。確かにそうではあるか……」

 一瞬、アルべリクは考える素振りを見せる。が、

「だからとて、姫をお守りするという使命をほっぽり出すわけにもいかぬ。いざとなれば、我輩のことは見捨てよ。良いな?」

 そこまで言われれば、もう俺には止められない。キングズガードの矜持がそうさせるのであれば、恐らくなにを言っても無駄であろう。

「分かった。けど、マジでやばくなったら見捨てるからな。恨むなよ」

「構わぬ。姫を守れるならこの命、いくらでもくれてやろう。それに、この剛腕のアルべリク、地下迷宮などで死ぬ玉ではないわ。ガハハ!」

 そういう奴から死ぬんだよなぁ。地下迷宮って……。とは思ってみたものの、流石に縁起でも無さすぎて言うに言えず、アリスにどう説明しようかと頭を巡らすことにした。

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