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ケツを向けたまま答える王女様

 それから数日後のことである。

 今日も今日とて冒険者ギルドにやってきた俺とアリス。毎朝恒例の依頼探しである。が、 


「ないんですね〜。良さげな依頼」

「そうですね〜。困りました〜」

「ユースキーさん、真似しないでください」

「アリス、ぷんぷん!」

「燃やしますよ」

「……はい」


 さすがにキレられる。でも、この大量に依頼書が貼られた掲示板を漁るのにも嫌気が差していたのだ。なんなら最近は依頼を探す時間のほうが長い気がする。

 そんな感じで「ああでもない、こうでもない」と言いながら依頼を探していれば、この間と同じくキースがやって来た。


「よお。また探してるのか?」

「毎朝の習慣なんでな。つか、なんかこの前よりも依頼減ってねぇか?」

「ああ、そりゃまた例の貴族だな。今度は手あたり次第に依頼を受け始めた」

「……はぁ」


 全く、貴族というのはロクなことをしない。

 いや、もちろん良い奴もいるのだ。例えばこの前会ったアルべリクとか。ただその数がアホみたいに少ない。クソの塊ほど権力者になりやすいのは前世でも現世でも変わらない真理である。


「つか前も聞いたが、何でそんなに依頼受けてんだ? 貴族だし金がいるってわけでもないだろ?」

「さあな。前に言ったが、なにか目的があるんじゃないのか? ほら、見てみろ」


 言ってキースはポケットから四つ折りの紙を取り出した。受け取ってみれば、それは依頼書の束であることを知る。


「なんだこれ?」

「貴族が受けた依頼だ。お前に言われて気になったから、まとめてみたんだ」

「なんか分かったか?」

「さっぱりだな。依頼に脈絡がなさすぎる」


 なので俺もその依頼書の束に目を通してみれば、まあたしかに意味不明だった。

 普通、冒険者が受ける依頼にはなんらかの傾向が現れる場合が多い。

 それはパーティー編成によって得意とする魔物が変わったり、個々人の得手不得手によって対応できる魔物が変わったり、そういった理由で受ける依頼にある種の方向性が出てくるのだ。 なのである冒険者ないしパーティーが受けてきた依頼を見れば、そいつらがどんな魔物を得意とし、どんな魔物を不得意とするのかが分かる。のだが、


「ゴブリンにコボルト。スケルトンロードに……おいおい、採取の依頼まで受けてんのかよ」

「それだけじゃねぇ。ワイバーンやオーガの集団にキングオーク。それにここ、見てみろよ」


 言ってキースが指差した依頼書を見れば、


「ダンジョン攻略って……ほんと節操がねぇな」


 魔物の集団をぶっ潰し、個体で強い魔物をぶっ飛ばし、果ては採取の依頼までこなし、極め付けにダンジョンすら攻略してみせる。はっきり言ってとんだバーサーカー貴族である。とは言え、


「どうした? ユースキー」


 ふいに黙り込んでしまった俺を不審に思ったのか、キースが首を傾げてきた。

「いや」と言いつつ、俺はその依頼書を見続けていた。

 たしかに依頼に傾向や方向性はない。ただ、俺はこれまで出てきた魔物の羅列に、少し覚えがあった。

 それをキースに伝えようとしたところ、ふいにキースが「おっ」と声を上げた。


「噂をしてたら、なんとやらだ。見てみろ」


 キースが顎を使って明後日の方向を指し示す。なのでそちらに顔を向けてみれば、ギルドの入り口に甲冑の集団が現れた。

 顎が迫り上がる形の面頬に、胴に描かれるは金の紋様。

 洗練された作りをしているものの、右側の脇には槍支えがあり、この世界においては「古風」とされる騎士の習慣を残した甲冑であった。


「あれが、例の貴族か?」

「いや、ありゃ配下の連中だ。その貴族ってのは……ほら、あれだよ」


 すると、その騎士たちの中から一人の男が姿を現した。

 金髪。碧眼。気の強そうな目。我先にと先頭に立つ勇足。

 勇壮でありながら、いささか冷淡な印象をも感じさせるその男が、例の貴族であるらしかった。


「なんか、取っ付きにくい感じの奴だな」

「まあ、文官殿らしいからな。そんなもんだろう」


 文官、と呼ばれる貴族がこの国にはいる。

 それは武官と対をなす存在であり、基本的に国の政策を王に提案する存在である。逆に武官とはこの国の領土防衛や、諸外国との戦争を担当する存在である。キングズ・ガードやキング・ウオッチの頭も武官に属し、アルベリクもその一人であったはずだ。


「で、どうする? 俺の依頼盗るんじゃねーよクソ貴族って、カチコミに行くのか?」

「冗談じゃねぇ。あんなのに喧嘩売ったら速攻で殺されるわ」


 そんな感じで俺とキースは「おめぇが行け」「いやテメェが行け」と互いケツをド突き合っていたのだが、ふいにその文官がこちらに向かってくるのに気がついた。

 そしてそのまま俺たちの前までやってきて、立ち止まる文官殿。

 俺もキースも長い者には巻かれろ主義なので、部屋飼いの犬が野良犬に出会ってしまったときのように目を逸らして道を開けた。すると文官殿は軽く会釈をしてそのまま掲示板の前に進んで行ったのだが、そこには先客がいた。

 やべっ。と思い、そいつをどかせるために手を伸ばした。が、遅かった。


「失礼、お嬢さん。少し、場所を開けてはいだけませんか?」


 と、見た目とは裏腹に、至極丁寧な言葉使いで語りかける文官殿。


「申し訳ありませんが。いま忙しいのです。あとにしていただけませんか?」


 と、後ろを振り返ることなく、ケツを向けたまま答える王女様。


「お嬢さん。この掲示板は皆が平等に使える場所。そのような態度はいかがなものかと思いますが……」

「ですから、申し訳ありません。私にも止むに止まれぬ事情がありまして。なにが何でも良い依頼を見つけたいのです」

「少し、そちらに寄っていただくのも……」

「絶対に嫌です!」

「おいおいおい!」


 さすがに見かね、俺はアリスの元へ行く。


「おい、なにやってんだ! 退いてやれって!」

「冗談じゃありません! 絶対に嫌です!」


 俺はアリスの肩を引いて退かせようとしたが、全力で抵抗されてしまう。そしてそのまま俺を睨みつけてくる。


「というより、私、先ほどのお話を聞いておりました。その方が私たちの依頼を根こそぎ奪い取っているクソ貴族だと!」

「ちょっ、お前!」

「クソ貴族?」


 と、俺の後ろにいた文官殿が首を傾げた。


「であれば、その方はわたくしたちの目的を邪魔する存在! つまり諸悪の根源! そのような方に譲る義理はありません!」

「だからっ、お前!」

「諸悪?」


 と、文官殿が俺をじっと見つめてくる始末。こりゃまずい。


「いいから! アリス! ちょっとどけって!」


 その瞬間、グイッとアリスの肩を持ってこちらに振り返らせる。


「ちょっ、なにするんですかユースキーさん!」

「うるせぇ! この前は殺し屋! 今度は文官に喧嘩売って死にてぇのか! いい加減に……」

「アリス姫?」


 と、その驚いたような声が俺の動きを止めた。

 振り返ってみれば、文官殿があっけに取られたような顔をしていた。


「フーゴ?」


 と、アリスもまた驚いたような声を上げた。

 え、え? と事情を知らないキースだけが、間抜けな声を発していた。

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