表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/30

見てくれなんか捨てろ

 アリスを手伝うと決まったその翌日から、俺たちはさっそく行動を開始した。

 朝早くに冒険者ギルドを訪れ、良さげな依頼を見つけては、街の外へと繰り出すことを日課とした。

 俺が敵を引きつけて、それをアリスが燃やす。

 敵を引きつけ、それを燃やす。

 引きつけ、燃やす。

 そうして夕方までには街へと帰り、ひとっ風呂浴びてから『飛ばない大鷲亭』でアリスと共に飯を食らう。

 そして次の日になれば、再び依頼を受けて街の外へと繰り出す。

 それを毎日のように繰り返していれば、アリスは冒険者としての腕を上げ、俺もそれなりに動けるようになってきた。

 そうして、このままいけばしばらく暮らしていけるだけの金を、国を出て暮らしていけるだけの資金を、それぞれが手にすることができる、そんな未来を思い描いてたのだが……



「お金、溜まりませんねぇ」

「んー。だなー」


 アリスはテーブルに突っ伏し、机の上をくるくるとなぞっていた。

 対する俺も机に頬杖をつき、ぼーっと明後日の方を見ている。

 おかしい。さすがにおかしい。

 普通、アニメや映画じゃこういう展開になった場合、なんかいい感じのBGMが流れて、なんか目標に向かって頑張ってる映像が流れるはずだ。そんでもってそんなシーンが終われば、俺とアリスは目標を達成したことになっていて、そのまま感動のエンディングになるはずだ。なのに、どうしてこうなった?


「ユースキーさん。わたくし、なんだか最近やる気がでないです」

「奇遇だな。俺もだ。たぶん燃え尽き症候群ってやつだな」


 おまけに、アリスは完全にやる気を無くしていた。

 とは言え、こんなことになっている理由は3つ。

 1つは、俺が冒険者として慎重すぎるということ。

 普通、冒険者というのは性格が極端な奴が多い。脳筋バカもいれば、俺のように石橋を叩いて渡る奴もいる。なのでパーティーではそれぞれの弱点を補い合うわけだが、相方であるアリスは初心者であるため俺に意見をすることがない。そのため、俺の慎重さに歯止めが利かず、石橋を叩いて壊して渡れない段階になってからGOサインを出すことが多い。簡単に言えば、判断が遅くて獲物を取り逃がしてしまうのだ。


 2つ目は、アリスの火力が強すぎること。

 通常、魔法使いというのはパーティーの要である。その高い火力を生かして敵に致命傷を与えるか、敵の数が多い場合は範囲魔法で薙ぎ払う。そんな使われ方をすることが多い。

 なので魔法使いのいるパーティーは、魔法使いに都合のいいような戦闘体形を構築するのだが、いかんせんアリスの相方は俺である。その高すぎる火力を存分に発揮させるだけの技量がなく、また存分に発揮させようものなら俺が焼かれそうになる。なんなら何度か焼かれた。そういうわけでアリスは全力を出せず、フラストレーションが溜まり、現在のように欲求不満でやる気を無くしている。


 とはいえ、ここまでならそれほど問題ではない。なんだかんだ言いつつ依頼はそれなりにこなしているのだ。にも関わらず、全く金が貯まらず、日銭程度しか稼げていない理由。それは……


「よお、ユースキー! なに辛気クセェ顔してんだ!」


 ドンと机に両手が置かれた。

 顔を上げてみれば、キースが白い歯をキランと輝かせていた。


「んだよ。キースか」

「なんだとはなんだ。紅蓮とこのが元気なさそうだから、心配してやってんだぞ?」

「だから、その紅蓮とこのって呼び方……いや、もうどうでもいいか」

「お、おい。どうしたユースキー。ほんとに元気ねぇじゃねぇか」


 ガチ目に心配そうな顔を浮かべるキース。

 いつも俺のことをからかってくる人間がそんな態度をとるあたり、俺の顔はマジで死にかけなのだろう。


「いや、気にすんな。いい依頼がなさすぎて、やる気がないだけだよ」

「いい依頼? あー、そういうことか」


 キースはパチンと頭を叩いた。


「お前レベルの依頼、最近根こそぎ取られてるもんなぁ……」


 そう、俺たちがここまで依頼をこなしておきながら大して稼げていない理由、それがこれだ。


「前言ってた……あの、アホ貴族のせいでな」


 ここ最近、俺レベルの良依頼がある貴族によって独占されていた。

 その貴族とは、俺がここを訪れた際にキースから聞いた、あの貴族である。そいつが俺たちレベルの手頃な依頼をごっそり持っていくせいで、俺とアリスは大した依頼にありつくこができず、生活費とその足しくらいしか稼げていないのだ。


「ったく。どうなんてんだよ。こっちは朝早く来てんのに、その時点でなくなってるとか、勘弁してくれ」


 と、やや嫌味ったらしくここ(冒険者ギルド)の副所長たるキースに言ってみれば、バツの悪そうな顔をされた。 

「そう言わんでくれ。こっちだって規則に則ってやってんだ。それに相手は貴族。ギルド側としても強くは出れん」

「あん? なんだコラ? こっちは王女様だぞ? その貴族連れて来いや」

「あ? 女王? ユースキー、お前なに言って---」

「ちょっ、ユースキーさん! 何言ってるんですか!?」


 怒りに身を任せて言ってしまえば、さすがにアリスが止めに入ってくる。


「うるせぇ。こういうときに身分を使わねぇで、なにが身分か。ノブレスオブリージュ、その血の義務を果たせ」

「それはわかりますが、このようなときに使う言葉ではありません。いい加減にしてくださいっ」


 わりと本気で焦ってるらしく、アリスは両手で俺の口を押さえつけてくる。するとそんな様子を見てのことだろうか、キースが目を丸くした。


「お、おい、ユースキー。もしかして、この嬢ちゃんとパーティー組んでんのか?」


 そういや、言ってなかった気もする。なので俺は紹介してやることにした。


「ああ。この前からパーティーを組んでる。キース、こいつはアリスってんだ。仲良くしてやってくれ」


 言って俺が手を掲げれば、アリスは立ち上がってスカートの裾を軽く持ち上げた。


「アリスと申します。キースさん、以後、お見知り置きを」


 キースはその様子をぼーっと見ていたが、はっと我に返る。


「わ、悪い。俺はキースだ。ユースキーがガキだった頃から知ってる、そんな関係だ。よろしく頼む」


 キースはそう言って、頭を下げた。

 冒険者界隈の挨拶は握手なだけに、キースのそんな姿を新鮮に思ってしまった。まあ、大方、アリスの貴族的な挨拶につられてのことだろうが。

 そんなことを思っていると、


「おいっ! ユースキーお前っ!」


 いきなりキースに肩を組まれた。そのままアリスから少しばかり引き離される。


「お前、どういうつもりだ? あんな嬢ちゃんを組むなんて正気か!?」

「あ? なにが?」


 俺が首を傾げれば、キースはアリスを二度見した。


「分かってんだろ? パーティーに色恋沙汰を持ち込んだらロクなことにならなぇ! 見てくれなんて捨てろ。それが冒険者パーティーの基本だろ!?」


 ああ、キースが言いたいのはそれか。冒険者パーティーとしての掟、みたいなものである。


「知ってるよ。恋人をパーティーに入れるな。パーティー内で恋人を作るな。仲間を見てくれで選ぶな能力で選べ、だろ?」

「そうだ! 知ってるならなんで---」

「アリスは魔法使いだ。それも最高位の魔法が使えるレベルのな」


 そう言ってやれば、キースはあっけにとられた顔になる。


「だからアリスは俺の女じゃないし、見てくれで選んだわけでもない。なあアリス! 俺らって恋人じゃねぇよな!」

 わざと大声で叫んでみれば、アリスが「はぁ?」みたいな顔をしてくる。

「ユースキーさんとは、ただのパーティーメンバーのつもりですが……」

「そっ、そうなのか?」


 と、キースが疑りの目をアリスに向けた。


「はい。ユースキーさんには冒険者についていろいろ教えていただいているだけです……。あの、なにか可笑しいでしょうか?」

「い、いや」


 そこまでして、ようやくキースは納得してくれたらしい。俺に回していた腕を解き、やっと解放してくれる。


「そっ、そうか。悪かった。だが嬢ちゃん。くれぐれもパーティーで恋人を作るなよ? そういう連中は死にやすい。昔から決まっているんだ」

「わかりました。では私、一生ユースキーさんのこと好きになりません」

「おい、なんか俺がフラれたみたいになってんじゃねぇか」


 そんな俺を無視して「肝に銘じます」とばかりに頷くアリスと、「気を付けろよ」と頷き返すキース。

 まあいい。俺もパーティー内で恋人なんぞ作る気はない。

 社内恋愛が生み出す泥沼が周囲にいい影響を与えないように、パーティー内の恋愛もロクなことにならないのを俺は知っている。なんなら命を張るだけパーティー内の恋愛は危険が高い。

 前世と現世で合わせて58年ほど童貞を守り続けてきた大魔道士が言うのだから間違いない。

 フハハハハ! と高笑いにも似た声を出せば、塩っ辛い涙が出た。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ