ま、そういうことだ
それからしばらくして、アリスと母親が帰ってきた。俺がおたま片手に近づいてみれば、2人ともあれやこれやと買い物をしたらしく、両手に荷物を抱えていた。
「おかえり。どうだった?」
「楽しかったわ。アリスちゃんと色々お買い物できて。ね、アリスちゃん?」
「はい。とても」
母親の問いに、アリスは満足そうな表情を浮かべた。
「ところでユウちゃん。扉がなくなっているんだけど……なにかあったの?」
「えっ、あー、いや〜」
さすがに、事情を説明するわけにはいかない。
「掃除してたら、壊しちゃったんだ。ごめん、弁償するよ」
なので適当に誤魔化してみれば、母親は不承不承といった感じで納得してくれた。扉代はアルべリクに請求することにしよう。
「そんなことより、2人も着替えてきなよ。晩飯の準備してるからさ」
「あら、ありがとう。もしかして、前に言ってたやつ?」
「ああ、新作だよ」
「それは楽しみね。さあ、アリスちゃん。お着替えしに戻りましょう」
言って、階段を上ろうとする母親。なのでアリスもその後を着いて行こうとしたところ、
「なあ、アリス」
と呼びかけてみれば、アリスはその足を止めた。
「はい、なんでしょうか?」
「あのさ、今後のことなんだが……」
一瞬、アリスの顔が強張った。同時に、もう少しタイミングを考えるべきだったとも思う。
アリスにとっての俺は、己の目標を達成するのに必要な存在。そんな俺がいきなりその話を振れば、身構えてしまうのも仕方ないだろう。ただ、これ以上その話を保留しておく必要もなかった。
「……100万だ」
「……はい?」
きょとんと首を傾げ、アリスは俺をじっと見つめた。
「他の国で暮らすなら、100万ルースは欲しい。新居を見つけて新しい生活を始めるなら、50万ルースじゃ心もとない。だから、100万ルース貯めよう」
するとアリスは、しばらくの間よくわからないという顔をしていたが、はっとなって顔を上げた。
「あのっ、それって!」
パッと目を輝かせ、俺に駆け寄ってくる。
「それは、一緒に冒険してくださるということでしょうか!?」
「ま、そういうことだ」
「うわぁっ! やりました!」
アリスは両手で口を抑え、全身で喜びを表した。
「ありがとうございます、ユースキーさん! わたくし、お母様に相談してきてますね! もうしばらく、あの装備を貸していただけるように! お母様!」
アリスは階段を駆け上がり、そのまま二階へと消えていく。足音を耳で追えば、二階からは嬉しそうに話す声と、それを祝福するかのような声が聞こえてきた。
連れ戻されるのが先か、国を出てしまうのが先か。
その結末は誰にも分からないが、せめてアリスが望む形になってほしい。そのときの俺は、そう思った。




