王の盾
「……はぁっ! ……はぁっ! はぁっ!」
肺が酸素を求めていた。顔からは大量の汗が噴き出し、滴り落ちた滴が石畳に染みを作った。
その染みから顔を上げれば、そこは王都へと続く街道。なんとか森を抜け、ようやくここまで辿り着いていた。
念の為に周囲を警戒するが、人の気配は感じられない。ただ、行商人の馬車が隣を駆けて行くだけだった。
「……あの、ユースキーさん」
後ろから心配そうな声をかけられる。しかし返事を返すことはできず、呼吸を繰り返す。するとそれを不審に思ったのか、足音が駆け寄ってきた。
「ユースキーさん。どこか、お怪我でも……」
「---なんなんだよ、お前は」
ふいに、言葉が口を突いて出た。
咄嗟に振り向けば、アリスが俺に手を伸ばそうとしていた。額に汗を滲ませ、ピンクがかった髪の毛が張り付いてた。
俺が無事だと分かったからだろうか、顔には安堵の表情を浮かべていた。しかしそれが、俺の癪に触った。
「なあ、アリス! お前、いったい何者なんだよ!」
俺はアリスに詰め寄って行く。びくっと肩を揺らすのが見えたが、止まれなかった。
「昨日はキングズ・ウォッチに追いかけられてた! そんで今日は命を狙われたんだぞ! 盗賊なんかじゃない、明確にお前の命を狙う連中だ! おかげでこっちも死にかけたし、依頼もパーだ!」
口を開くたび、頭が怒りに支配された。だが、収まることを知らない。
「それだけならまだしも……いいや、それだけでも十分どうにかしている。でもそれ以上に、あの大男が持ってた盾、ありゃ、王の盾の紋章だぞ!」
俺は、あの男の装いに見覚えがあった。
純白の甲冑と、盾に描かれていた樹木の紋章。キングズ・ウォッチに並ぶ王直属の組織にして、王族の警護を担当する王の盾の象徴。
「そんな男がいきなり俺たちの前に現れた! まるで、お前を守ろうとせんばかりに! ……なぁ……アリス」
俺の呼びかけに、アリスはゆっくりと視線を地面に落とした。
「……お前は、お前はいったい……何者なんだ」
そう問えば、アリスはしばらく地面を見つめていた。だが、観念したかのように目を閉じ、胸に手を当てた。
「……私は」
大きく息を吸ったアリスは、再び眼を開けた。
「私の名前は……アリス・コジマグ。この国の、第三王女です」




