少し、時間を遡ってみよう
「おい、ユースキー。なんだこりゃ?」
あれ? と顔を上げれば、どこぞで見た光景が広がっていた。
チラリと俺の上司にあたるゴンザムの顔を見れば、まるでデーモンの如き表情を浮かべている。が、それでも会話の流れ上、俺は答えるしかなかった。
「は、はぁ。始末書ですが、なにか?」
「始末書、ですが。じゃねーよ、このアホ! 誰がウチ(土木ギルド)に対する不平不満を書けって言った!」
俺の声真似をして、その後で急に怒り出すゴンザム。やっぱり忙しそうである。
「そう言われましてもねぇ。えーっと……俺だって頑張って? たしか、頑張って書いたんですよ? それから……、一生懸命書いたんですよ? それから……なんでしたっけ?」
「お前、なんか読まされてんのか?」
怪訝そうな顔を向けてくるゴンザム。さすがに記憶を遡るのは無理があった。
「とにかく、頑張って書いたんですよ。それを頭ごなしに否定されてもねぇ」
「じゃあなにか? まずはこの始末書を書いたことを褒めろってか?」
「そりゃ、貴重な仕事の時間を割いて書いてますし。そのおかげで納期が遅れてんすよね……とか言ったら怒ります?」
「あったりめぇだ! つーかなに製造止めてまで書いてんだ! 休憩中にでも書けボケ!」
と、まさかの労働基準法を公然と無視する発言。『こりゃ労基にチクらねぇといけねぇな』と思ってみたが、そもそもこの世界には労働基準法などというものは存在しないことを思い出す。
ふざけすぎたこともあってか、ゴンザムはいつのも二割しで説教を始めた。が、俺はそれを無視してスッと顎に手を当てる。
おかしい。さすがにおかしい。俺の記憶が正しければ、たしか俺は異世界に転生したはずだ。だというのに、なぜ俺は元の世界と同じように怒られているのか。
少し、時間を遡ってみよう。




