第90話 コールカインでやる気だす
空気を切りさく金属音がさきに動いた。
四体のストーンゴーレムは足元のアンデッドを潰しながら、四体同時に左側の四足獣スケルトンへ突っ込む。
各個撃破するつもりだ。
城壁をたやすく削り取る巨大な回転刃が、純白の骨格に押し付けられた。
接触面から轟音が響きわたり、オレンジ色の火の粉が飛び散る。
四足獣スケルトンはストーンゴーレムよりわずかに背が低く、オレンジ色の光で見えなくなってしまう。
無数のノミが跳ねるように、握りこぶしだいの火の粉が辺りへまき散らされ、夏の木々へ次々に引火していった。
右を歩く四足獣スケルトンが、オレンジ色の光に包まれる相棒を不思議そうにながめる。
おもむろに近付き、大きな顎を開いて回転する刃に噛みつこうとする。
ギャリッ。
軽く牙がはね返されて、四足獣はたたらを踏んでしまった。
それが不満だったのか、頭を大きく振り四足獣はもう一度挑戦した。
今度は長い鼻先を、回転していないゴーレムの下腹に突っ込んで、ひょいと裏へ返してみる。
巨大スケルトンのパワーで、山のごときストーンゴーレムが簡単にひっくり返ってしまった。
回転刃が下になったゴーレムは、地面を盛大に掘りかえし回転が鈍った。
そこへすかさず四足獣スケルトンが飛びつき、柔らかな亀の腹を食い破るように、たやすく嚙み砕いていった。
その動きは「はかばー」のときと違い俊敏だ。
さらにもう一体。
鼻先でひっくり返し、嚙み砕いていく。
残りのストーンゴーレム二体が、それを見て後ずさった。
すると回転するゴーレムに挟まれていた、四足獣の姿がみえる。
全くの無傷だった。
摩擦熱で真っ赤に焼けて発光してはいるけれど、特にダメージを受けた様子がない。
元気に右の四足獣スケルトンに近付き、頬ずりしている。
「ああああっ」
ベイルフの城壁からダークエルフ兵の悲鳴があがる。
期待していたものとは真逆の戦況に、パニックを起こしかけていた。
ダークエルフはひとりふたりと後ずさり、持ち場を離れていく。
その足元には巨大スケルトンの瘴気にやられて、多くの獣人兵が転がっていた。
床に横たわるヤークトは、外の騒音を聞きながら、胸にかけている青い宝石を見る。
宝石からは淡い光が漏れて、ヤークトの身を包んでいた。
「はあ……はあ……クローサはやく……」
倉庫から持ち出した木箱を抱えて、クローサが城壁内部を走る。
クローサの胸元にも青い宝石が揺れ、体が淡い光に包まれていた。
城壁内の廊下には多くの獣人兵が倒れ、うめき声を上げている。
クローサはうめき声を無視し、下唇をかむ。
クローサにはどうしようもなかった。
迫りくる巨大アンデッドのために、もう時間がない。
パーナたちと獣人兵。
どちらも助けるなどクローサには無理だった。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ」
クローサは泣きながら石造りの廊下を走る。
四足獣スケルトンは、逃げるストーンゴーレムを追いかけて、ボールを与えられた子犬のように遊び始めた。
一体の足を全て嚙みくだき、動けないようにしてから、残りの一体を鼻さきで転がし合う。
しばらくすると転がしていたストーンゴーレムが、震えて縮まりはじめた。
巨大な体積がどんどん小さくなり、終いには子供の頭ほどの、小さな黒い玉になってしまう。
四足獣はそろって首をかしげた。
最後の一体は鼻先で高く放り投げすぎて、ベイルフの城壁にぶつかってしまった。
ストーンゴーレムは城壁の上部を砕き、自らも粉々に砕け散る。
そのガレキが大きな坂道を形作った。
無数のゾンビやスケルトンが、そこから這い上がりベイルフへ侵入し始める。
「ああっ、パーナ、ヤークト入ってきた!」
クローサが窓から身を乗り出し、パニックになった。
崩れた城壁は、パーナたちのいる城壁塔のすぐそばなのだ。
「うるさいな分かってるよ。
クローサあんたも飲んどきなっ。
こんなのやってられるか、バカヤロウ!」
ヤークトがコールカインをがぶ飲みする。
飲み切れなくなると、頭からかぶり始めた。
「みんなどうせ死ぬのよっ、あはははは!」
パーナが泣きながら笑っている。
「黙ってろパーナっ。パンみたいな丸顔しやがって、あたしは生き残ってやる!」
「うわああああああーんっ、うわああー!」
「ああ……ポーションの効果がすっごい出てる……」
クローサはふたりのテンションを見て、動揺が収まってしまう。
慌てているとき、さらにおかしい者がそばにいると冷静さが取り戻せるものだ。
「さあいくよっ。やってられるかこんな仕事!」
「うわああああああーん!」
パーナとヤークトがゆらりと立ち上がる。
動けなかった体が動く。
コールカインはすごかった。
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