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第61話 朱儀ちょっといい気分になる

それは白く輝く、愛らしい子狐だった。


子狐は楽市の尻尾に降り立つと、辺りをクンクン嗅ぎ回り始める。

どうやら初めて降り立った場所に、警戒しているようだ。

すると何かの気配に気付きおびえだした。


子狐がおびえるなか、楽市(らくいち)の口からさらに多くの白い狐が飛び出してきたのだ。

その狐たちは子狐と違い、長い尾を引いて宙を自在に飛び回っている。


楽市の口からは、最後に大きな白蛇がこぼれ出てきた。

初めに生まれ出た子狐の前で、狐たちと白蛇が戦を始める。


蛇がのたうち回り、その周りを狐たちが飛び交う。

子狐はその戦を見つめ震えていた。

 

そんな戦にカケラたちも興味を示して、子狐と同じようにじっと見つめている。

もうカケラたちに逃げるようすはなかった。


戦の力量は互角のようだ。

そのうち戦は、決着がついたのかどうか、分からないまま終わってしまう。

狐たちと白蛇が絡み合い、その場から消えてしまったのだ。


それを見ていたカケラたちは、どこか首を――どこが首か分からない――傾げたように見える。

恐らく頭の中に、?マークが浮かんでいるだろう。


戦場に残された子狐はうずくまり、その場を離れようとはしなかった。

すると楽市の口の中から、子狐よりもさらに小さな光がふたつ降りてくる。

光たちはうずくまる子狐の周りを、飛び跳ね回るのだった。


その様子に、カケラたちが興味しんしんだ。

次に何が起きるのかと、ワクワクしているようである。

カケラたちは先ほどよりも、子狐に近付いていた。


子狐はふたつの光に元気づけられて、どうやら旅に出るようだった。

軽い足取りで、黒い尻尾の上を歩き始める。


その動きに合わせて、楽市とカケラたちが移動していく。

自然と楽市とカケラが、並んで歩くようになった。


旅の中では子狐たちに様々なことが起こり、カケラたちはますます物語に引き込まれていった。

ある日のこと。

楽市の口の中から、一匹の獣と小さな光が飛び出してきて、子狐たちと出会う。


「あーっ、あはは」


いつの間にか、楽市の中から飛び出していた朱儀(あけぎ)が、子狐の物語を間近で見ていた。

現れた一匹の獣と小さな光が自分のことだと気付き、楽市に向かって嬉しそうな声を上げる。


楽市はニヤリとして物語を続けた。

そして子狐と仲間たちは、新しく見付けた小さなフニャフニャの前で、円陣を組むのだった。


その後、楽市の口から大量に現れた者たちとの間で、戦が始まってしまう。

戦いの中で、子狐たちは助け合いながら前に進んでいった。

最後に子狐は、戦場で「本当に小さな小さなふたつの光」と出会う。


そして子狐はふたつの光に近付くと、かたわらに腰を降ろして丸くなるのだった。

そこで物語は幕を閉じる。

それはわずか二分半のできごと。


楽市は自分の尻尾の上で正座して、居住まいを正す。


「とまあ、これがあたしの自己紹介です。

よろしければこれまでの事、教え願いませんか?」


最後は言葉による投げかけだけれど、その意味は充分に伝わったようだ。

カケラたちは怯えることなくゆっくりと近付き、楽市の膝小僧にふれる。

そこからカケラたちの心象が伝わってきた。


覚醒。

未知。

恐怖。


楽市は伝わってくる想いを、言葉に変えて読み取っていく。


「そうでありましたか。あなた様方も、気付けばここに……」


楽市はカケラたちの心情を、自分に重ね合わせた。

気付けば見知ぬ場所にいてパニックを起こすなど、全く同じではないか。

曲がりなりにも国つ神の種族に、このような思いをさせるなど腹が立った。


楽市は国つ神に仕える身として、改めてダークエルフを苦々しく思う。

楽市は少し考えてから、カケラたちに話しかけた。


「そうなると、いかがでしょう。

似た者同士、あたしと一緒に暮らしませんか?」





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