表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/141

第60話 朱儀ちょっとまつ

「このこのこのこのっ、このこのこのこのこのー!」


楽市(らくいち)は渾身の力を込めて、カケラたちを締め上げた。


「絶対にここで決める!」

 

その思いが瘴気となって、カケラたちへ大量に流れ込む。

朱儀(あけぎ)にも流れ込み、小さな鬼を狂おしいほどに興奮させていた。


(ぷーっ、ふああああああああ!)


さらに楽市と朱儀の怒りを、(あぶ)り焚き付けるものがある。

楽市の背後にピタリと寄り添う、地より(あふ)れし黒炎だった。


楽市、朱儀、黒炎。

三種の憤怒が、カケラたちをこの世から消滅させようとする。


「このこのこのこのこのこのこのっ」

(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ)


すると黒炎に混じる金の流線が、スルスルと手前に回り込み、楽市の顔へのびていった。

身を焦がす怒りで視界がくらみ、何も見えていない楽市の眼に、ぷすりとそれが突き刺さった。


「いったーいっ、目がー!」


楽市は突然の痛みに驚き、目を抑えてのけ反ってしまう。

しばらく目をパチクリしていた楽市が、夢から覚めたように正気へ戻っていった。


「くうっ……何だったの今の!?」


すると楽市は今まで気付けなかった、微弱な心象を知覚して顔を曇らせる。   


「あ……あれ?」


肌と肌が触れ合えば分かることもある。

今まさに楽市は力の限りカケラを締め付けて、殺したいほど強く触れ合っていた。


楽市は密着している部分から伝わる感触に、覚えがあるのだ。

身に覚えがありすぎてドキドキしてしまった。


「これは……」


伝わる感触は、あやかしの(たぐい)とかそういうものじゃない。

楽市は思わず叫ぶ。


「これ形が違うけど、国つ神さまの種族だー!」


楽市の額から嫌な汗が流れでる。


「う……うぐっ……」


楽市はうろたえてしまう。

なぜなら楽市とは、国つ神へ仕えるために()るからだ。


いやいや、今は祟り神として在るのだから気を使う必要はない。

このまま締め殺せばいい。

楽市はそう納得しようとするけれど、心が楽市のままなので、大変に嫌な汗が流れた。


(??)


朱儀がきゅうに挙動不審となった楽市を不思議がる。

殺意と仕える身としての立場。

楽市の心が、両者の間を何度もゆれ動いていた。

その結果、楽市は尻尾をそっと緩めてのぞき見ることにする。


「ごめん朱儀」

(!?!?)


楽市は驚く朱儀をなだめながら、尻尾のすき間をのぞき込む。

そこには黒い尻尾にこびり付く、ブヨブヨしたカケラの姿が見えた。


あれほど大きかったカケラたちは、もう楽市の手のひらに乗るぐらい小さい。

楽市が近づくと、カケラたちは尻尾の上をはって逃げ始める。


その不定形の姿は国つ神というよりも、楽市たちを生み出す(おり)に近い。

それが楽市の心を、さらに揺れ動かすのだった。


「まっ……待って、ちょっと待ってっ」


楽市が声をかけるものの、カケラたちは言葉を解さない。

ただ尻尾の上をはい逃げるばかりだ。

朱儀が楽市の変化に腹をたてる。


なぜ早くとどめを刺さないのか?

朱儀がそう思い抗議しようとしたとき、どこからか歌声が聞こえ始めるのだった。


その歌声は二つ、四つ、八つと重なり合い、複雑な揺れと響きを持っている。

朱儀には聞き覚えがあった。

楽市の歌声だ。


その声にカケラたちが反応して、はい逃げるのを止める。

何か感じるものがあったらしい。

 

朱儀はそれを見て、文句はこの歌が終わった後にしようと決める。

なぜなら霧乃(きりの)に、歌の間は静かにしなさいと教えられたからだ。


(ふー) 


苛立つ朱儀の周りに、楽市の声が響きわたる。

すると楽市の口の中から、一匹の小さな狐が現れた。





面白いと思って頂けたら嬉しいです。

そしてご感想、ブックマーク、下の☆で評価して頂けたら嬉しすぎて作者が泣きます。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ