第57話 ギッタギタにしてやる
「こんのおおおおっ、森をめちゃくちゃにするなああああ!」
楽市はカケラたちが、大岩を引き戻すタイミングに合わせて、尻尾を空高く持ち上げた。
「ふぬぬぬー!」
そのままカケラたちが次弾を撃ち出す前に、渾身の力で尻尾を振りおろす。
「つぶれろおおおおおお!」
粉塵を切り裂く尻尾の一撃は、カケラ一体の頭に直撃し、みぞおち辺りまで肉片にして飛び散らせた。
けれど仕留めることができない。
楽市と同じように、カケラはすぐさま自身を修復していき、また耳障りな悲鳴を上げ始めるのだった。
「またかこの!」
朱儀が楽市に危険を知らせる。
(あー!)
「くっ……」
一方の楽市にも、尻尾を振り下ろした際の反動が襲いかかり、体が霞んで地面へ激突するのだった。
「ぐはーーっ」
(ふあーーっ)
楽市は何とか衝撃を尻尾の腹で吸収するものの、鼻から大量の体液を流しながら荒い息をはく。
互いが撃ちあい壊しあう。
それが先ほどからずっと続いているのだった。
「ハアハアハアっ、これじゃ切りが無いっ、あーもう!」
向こうは知らないが、楽市はもうウンザリしていた。
大岩を撃ち出しては引き戻し、また撃ち出す。
カケラたちがこれを繰り返したため、周りの山肌はもうメチャクチャだ。
チラリとそれを見た楽市は、歯ぎしりをする。
そんな楽市へ射出準備を終えた一体が、大量の大岩を撃ち込むのだった。
軌道に対して浅い角度で身構えた尻尾の表面を、大岩が容赦なく削り取っていく。
頭に血が昇っている楽市は、怒りで痛みを吹き飛ばし、カケラたちを口汚く罵っていた。
「お前の×××××をギッタギタにしてやるっ」
(!?!?)
口では勇ましいことを言っている楽市だけれど、現状は攻めあぐねており膠着状態だった。
一体どうすればいいのか。
すると楽市のサポートに徹していた、朱儀が騒ぎ始める。
(あーっ、ああ!)
「なに朱儀!? えっ、ああ!」
楽市は朱儀が必死に伝えようとする心象を理解した。
「えっ、うわーそうか!」
戦いに天性のものを持つ朱儀は、自分で尻尾を使えないものの、ずっと見ていて気付いたことを楽市に伝えたのだ。
しかしタイミングが悪く、カケラたちが次の大岩を撃ち出そうとしていた。
朱儀が伝えてくれたことを、実行する間がない。
「次しのいだら行くよ!」
(あ゛ー!)
カケラたちが、楽市に目がけて大量の大岩を撃ち出した。
集中された射撃は、高密度の弾幕となり楽市へ襲いかかる。
左に回り込みながら、避けられるものは避ける。
しかし全ては無理だ。
角度をつけた尻尾の表面に数百発もの大岩が激突し、楽市の斜め後ろに弾けていった。
尻尾がみるみる削り取られていく。
痛みに耐える楽市を、朱儀が必死に応援した。
(あ゛ーっ、あ゛ーっ、あ゛ーっ)
「そうだ朱儀っ。これが切れたら、あいつら思い切りぶん殴ってやる!」
白狐と鬼が女神を仕留めるため、黒い尻尾の隙間から殺意を放ちにらみ続けた。




