第52話 驚きと期待のいろ
残りのストーンゴーレムを炎で脅したあと、興奮は最高潮となった。
(ひが、かっこいい!)
(すごい、おっきい!)
(はー!)
自分たちの出した炎が思いのほか大きかったので、当の三人が大変に喜んでいた。
やはり楽市のだすモヤモヤは体に良いと、夕凪たちは実感する。
さあこのまま一気にやるぞと思ったその時、楽市の声がした。
「ううっ、ころしてや……ム……ニャ」
瞑っているまぶたが、ピクピクしている。
今にも起きそうだ。
(あっ、やばい、おきそうっ)
(だめーっ)
(!!!!)
こんな所で起きられたら、折角の狩りを邪魔されてしまうではないか。
三人は息を殺して、じっと楽市の様子をうかがう。
「ううう……」
パタパタパタ……
楽市の声に全神経を集中する。
それは外側から見ていると、急に巨獣が活動停止したように思えた。
残されたストーンゴーレム二体は、なぜか動きの止まった巨獣をいぶかしみながらも、今がチャンスと思い、方向転換せずそのままバックで逃走する。
それに朱儀が気付き、声を上げた。
(あー……)
(しっ、あーぎ、しずかにっ)
(らくーちが、おきちゃうっ)
*
夕凪たちが暴れている山間部。
その山頂の一つに、イースたちがいた。
山頂の岩に身を隠しながら現場を見ている。
かなり近い。
イースたちのいる山のすそ野が、戦場なのだった。
肉眼でもハッキリと分かる。
最初にいた場所から、ダークエルフ兵だけを引き連れてここまで来たのだ。
サンフィルドが、興奮気味にイースへ問う。
「何だよあれ!? あんなこと出来る獣人種なんていたか!?」
「分からない……聞いた事がない。
あれはどうやら尻尾のようだが……いや、うーん……」
「あれが尻尾かよっ、あれじゃどっちが本体か分かんねーな!」
サンフィルドの見る前で、またしてもストーンゴーレムが宙に舞った。
山肌に激突し砕け散る。これで三体目だ。
余りにも近すぎて、激突した際の轟音が届くのはもちろんのこと、舞い上がる粉塵までサンフィルドにかかる。
サンフィルドの危機感は、いやが上にも高まっていた。
彼は引きつった顔でイースを見る。
「なあ、近すぎるんじゃないか? もっと離れた方がいいってっ」
「駄目だよ千里眼が使えない以上、直接見ておかないと作戦の意味が無い」
「いや、でもさあ……」
サンフィルドは援護を期待して、リールーをちらりと見る。
しかしリールーはふたりを無視して、別途用意していた双眼鏡――決して貸してくれない――で熱心に戦闘を見ていた。
「はあ……」
なおもサンフィルドがイースの説得を試みるものの、イースは譲らない。
そのうちイースは、サンフィルドに返事をしなくなってしまった。
「あれ? 怒っちゃった?」
その言葉に、イースはキョトンとする。
「僕は怒ってなんかいないよ。ただちょっと考え事をしていて……」
そう言ってイースは、戦場を見つめ黙ってしまった。
話を途中で切りそのままにするイースへ、サンフィルドはヤキモキする。
「くー!」
そんなサンフィルドを置いて、イースは戦場を見つめたままリールーに声をかける。
「リールー、あの山肌を逃げるストーンゴーレム二体……ちょっと〈開放〉してくれないか?」
ここまで黙って双眼鏡を覗いていたリールーが、双眼鏡から目を離し、イースの横顔をまじまじと見る。
大きな瞳には、驚きと期待の色が浮かんでいた。
「イース……あなた本気で言っているの?」




