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第47話 イースとサンフィルドとリールー

楽市(らくいち)のいる地から遠く離れて、ストーンゴーレムの並ぶ前線の後方。

そこにこの度の将、イースがいた。


周りを兵で囲み、山頂の開けた場所に陣取っている。

近くをふらつくアンデッドが、生命反応に釣られて寄ってくるけれど、それを兵たちが事務的に破壊していく。


イースの隣には、獣人の娘がゆったりとしたガウンを羽織り、椅子に腰かけている。

体によけいな力みは無い。

その美しい横顔は穏やかで、ただ遠方のみに精神を集中させていた。


右手の指が微かに痙攣(けいれん)している。

その動きに連動して、かたわらに置かれた自動筆記の魔道具が、静かに筆を走らせていた。


娘と魔道具はもう長いこと一緒で、魔道具は娘の一部と言ってもいいだろう。

簡易テーブルに置かれた魔道具は、細長い金管の手にペンを挟み、娘の心象を紙に写し取っていた。

イースは次々に書き写される内容に、順次目を通していく。


そんなイースの遥か頭上から声がした。

飛空魔法で浮ぶサンフィルドだ。

微かに体が発光している。

 

「おーい、やっぱりもっと近寄らないと、何が起きてんのか分からないよ」


手には、細長くしつらえた遠眼鏡が握られていた。

千里眼の術が危険ならば、肉眼で見るしかないのだ。


イースのように千里眼の記述を読めばいいのだが、ここまで来て直接見ないのは勿体ないではないか。

そうサンフィルドは思う。


「ちょっとサンフィルド、動かないでよ」

「はいよ」


サンフィルドの後ろには、同じく飛空するリールーがいる。

遠眼鏡は重いので、サンフィルドの肩に乗せて熱心に覗き込んでいた。


普段は何事も受け流すような、冷めた雰囲気を漂わせているけれど、戦場では熱くなるようだ。

リールーが遠眼鏡を覗きつつ、小首を傾げる。


「ちょっとあれ見て、何かしら?」

「んなこと言っても、よく見えねえよ」

「あたし、ちゃんと見えるわよ」

「何だよそれ」


サンフィルドが「俺は歳じゃない」とか、

「そっちのほうがデカくて長い」とか、不満の声を上げる後ろでリールーが真剣な顔をする。


遠眼鏡の狭い視界。

そこに映るストーンゴーレムに変化が見えた。

活動を停止した後、ストーンゴーレムの輪郭が波打つように揺れている。


「んーそれ多分、自壊トラップが作動したな」


サンフィルドが遠眼鏡を覗き、説明してくれた。


「ねえ黒い特異点って、外側に(あふ)れ出てくるものなの?」

「はー、そんな訳ないだろ。点は点のままだから、点って呼ばれてんだよ」


「それじゃあ……」


覗く先でストーンゴーレムの隙間から、黒くうねる何かが溢れている。

それがストーンゴーレムにきつく絡まるように見え、次の瞬間巨大なゴーレムが宙を舞った。


すぐ右隣りのストーンゴーレムに当たり、両者が砕け散る。

遠距離のため音は聞こえないけれど、巨大な粉塵が立ち昇るのが見えた。

 

「えー!」

「はああ!?」

 

自動筆記を読んでいたイースが、時間差でうなる。

 

「むむ!」

 

リールーとサンフィルドが驚いて覗く反対側。

ストーンゴーレムのいた場所には、何やら黒くうごめくものがあった。


それは木々より遥かに大きく、陽炎のように揺らめいている。

リールーがそれに気付き、かすれた声でつぶやく。 


「あれが……」

 

サンフィルドはその空間ににじむ「黒」を、生きた者が決して見てはならないものだと直感する。


「あれはやべえ……」


時間差で、千里眼の記述を読んでいたイースが叫んだ。


「出たぞっ、黒い蛇が!」



    *



千里眼の記述は、次第に乱れていく。

文字が意味不明の文字化けで、読めなくなっていった。


千里眼の獣娘は、穏やかな横顔のままである。

自動筆記は静かに狂っていく主の思考を、いつまでも書き留め続けた。





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