第45話 ストーンゴーレム
「ああっ」
「このおっ」
護衛ゴーレムを操るふたりの術者が、体を動かしながら悪態を付いている。
「くそ何も見えないっ、誰か俺に視覚矯正をかけてくれっ、早く!」
「俺にもかけてくれ!」
石造りの小部屋で、五人のダークエルフが騒いでいた。
ここは巨大なストーンゴーレムを操る、術者たちの仕事部屋である。
簡素な作りの部屋で、調度品は必要最低限しかない。
そこで大の男が五人、銀髪の獣娘に振り回され喚いていた。
「ああああっ」
「消えただとっ どこへ行った!?」
他の三人も巨大ゴーレムの視界を通して見ているが、銀髪の娘を見失っている。
「何をやっているっ、獣一匹ごときに!」
「何だとっ、なら貴様がやってみろ!」
「ふたり共うるさいっ、お前らも早く探せ!」
「「何だと!」」
そんなダークエルフが苛立ちも隠さずに騒ぐ後ろで、天井から音も無くすり抜けてくるものがある。
すうううううう……
それは青白い狐火だった。
「本当にあった。乗り込んで操るなんて、まるでロボだね……」
「「「「「 なにい!? 」」」」」
突然後ろから声が聞え、ダークエルフが振り向いた瞬間、部屋いっぱいに青白い炎が充満する。
逃げ場など無い。
たちまちダークエルフは焼け焦げるかと思われたけれど、五人の体が青く光り始めた。
ダークエルフの周りに、水流のような膜ができる。
楽市がそれを見てしかめっ面になった。
やっかいだな。
楽市はそう感じたけれど、楽市の中で嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる気配がする。
朱儀だった。
手を挙げて「はいはい、あたしがやりまーすっ」みたいな感じだ。
「まかせた」
朱儀が楽市の体を使い、五人をひとまとめの肉塊に変えている間、夕凪が楽市に尋ねる。
(ろぼってなに?)
*
時にストーンゴーレムは、諸刃の剣となる。
巨大なゴーレムの場合。
度重なる戦で使用すれば、すぐ対策を立てられる。
術者の位置が、特定されてしまう。
敵は確実にそこを狙って来るだろう。
それは何も、破壊行為というわけではない。
ゴーレム内に侵入して術者をほふり、ゴーレムを乗っ取る。
そうすれば、すぐさま敵の有効な戦力となるのだ。
もちろんそう簡単に乗っ取られないような対策を施してあるけれど、そこら辺の技術はイタチごっこだった。
さて、そうした攻防の防御策の一つが、今ストーンゴーレム内で動き出そうとしていた。
ストーンゴーレム内の別室で眠る、獣人種の娘が目を覚ます。
どうやらストーンゴーレムが正規の手順を踏まず、停止したようだ。
正しい手順を踏まないと、彼女が覚醒する。
彼女は仮死状態だった自分が、どれだけ眠っていたかなど気にしない。
彼女は強烈な暗示により、ここがどこかなども気にしなかった。
まずはアイテムを起動する。
これは彼女の魔力を、急激に増幅させるマジックアイテムだ。
体に負荷がかかり危険なのだが、彼女はこれをただの照明器具としか思っていない。
アイテムが起動して柔らかに光り、辺りを照らし始める。
そこはベッドしかない、カプセルのような部屋だった。
次に彼女は、「特異点」を発生させる重力魔法を唱え始めた。
日課である、朝のお祈りと思い込まされたまま……
穏やかに唱えるその姿は、何の不安も抱いていない。
獣人種の彼女は、自分の中に特異点を発生させる。
彼女は何の痛みを覚えることもなく、特異点に吸い込まれてその生涯を閉じた。
(あれ?)
(ん?)
(!?!?)
最初に気付いたのは、やはり霧乃たちだった。




