第43話 いっぱつぶん殴っておいた
(うー)
朱儀はどうしようか迷った後、やっぱりもう一発ぶん殴っておいた。
朱儀がダークエルフに集中している間、楽市をものすごく馬鹿にしているのが伝わってきて、ムカムカしたのだ。
そして放してやる。
殺してはいない。
楽市が「放っておけ」と言ったから。
炎の目くらましが薄れるころ、その場にはもう朱儀の姿は無かった。
目の効く獣人兵が、ストーンゴーレムを登る朱儀の姿を見付ける。
ストーンゴーレムの構造は一枚岩ではない。
多くの岩石を組み合わせて、その巨大な姿を保っている。
朱儀は爪を食い込ませて、石垣のようなストーンゴーレムを、するすると登っていくのだった。
獣人兵たちは弓矢を引き絞り、銀髪の後頭部へ狙いを定める。
(なんか、うしろ、ちりちりする?)
(するする、してる!)
「見つけるの早すぎっ、朱儀いそいで!」
(んー!)
獣人兵が指を離す瞬間、気配に気付いた楽市たちがリミッターの壊れたエンジンのように、四重の炎を吹かせまくった。
朱儀の登るストーンゴーレムの側面が、炎で覆われて見えなくなってしまう。
これでは魔法も定まらない。
獣人兵は朱儀を追うため、炎の届かぬ反対側からストーンゴーレムを登り始めた。
朱儀とまでは行かないまでも、かなりの速さで力強く登っていく。
しかしストーンゴーレムが一歩進むごとに発生する、上下落差五メートルの激しいタテ揺れが、獣人兵たちを苦しめた。
ストーンゴーレムが進むごとに、獣人兵がパラパラと落ちていってしまう。
運の悪い者は、落ちてストーンゴーレムの腹にすり潰された。
朱儀はそんな中でもあっさり登り切り、姿が見えなくなる。
ストーンゴーレムの上部は緩やかに湾曲しており、組み合わされた岩が石畳のように広がっていた。
朱儀は迷わず中央に進んでいく。
すると朱儀をさえぎるるように、手前の石畳が四つ迫り上がってくる。
(!?!?)
朱儀に立ち塞がるのは、一辺が二メートルほどの大岩だ。
岩の表面に、細やかな亀裂が入っていき、綺麗に各部が分かれていく。
展開する立方体は、人の姿を模した四体のストーンゴーレムとなった。
それは六つの腕を持ち、それぞれの手にミスリル製の巨大な斧槍を握りしめている。
身長はゆうに三メートルを越えており、感情の無い眼で朱儀を見つめた。
首から上だけの楽市が、目を丸くする。
「護衛だっ、こんなのまでいんの!?」
(ごえーてなに?)
夕凪が聞き返す。
「ここを守っているヤツ!」
(あー)
霧の中でも妖しく光る合計二十四本のハルバートを見て、楽市の顔が青くなった。
「朱儀!」
心配する楽市とは反対に、朱儀は真正面からスタスタと近付いていく。
(はっはっはっ)
心象から、朱儀が思いっきり喜んでいるのが分かった。
「うわー……」
懲りないのである。
それが鬼というもの。
楽市はそれに呆れながらも、霧乃と夕凪に指示を出す。
「霧乃っ、夕凪っ、朱儀の手助けを!」
(わかった!)
(らくーちは、あたまがくんがくん、なんとかしてっ)
「むむむ!」




