第39話 楽市やる気だす
ストーンゴーレムが山の峰を越えて、反対の北側斜面を降りてくる。
途中にある木は、すべて薙ぎ倒しだ。
その両サイドを、散開したダークエルフと獣人兵が、視覚矯正魔法を発動させ、霧の中を獲物を探しながら進む。
すると前方にたたずむ獣人の姿があった。
獣人兵がそれに気付き、この森に獣人がいたのかと訝しんだとき。
銀髪の獣人から、青白い炎が爆発的にあふれ出した。
蛇のようにくねる炎が木々を避け、ピンポイントで獣人兵に襲いかかる。
取り囲まれた数人が、その身を焼かれて声もなく絶命した。
崩れ落ちる獣人兵を見て、楽市はつぶやく。
「二度目はないよ……」
(らくーち、やった、しんでる!)
(よしっ、いける!)
(はっはっはっ)
野生児である三人は、硬い表情で見つめる楽市とは逆に、仕留めたことを無邪気に喜び合っていた。
「喜ぶのは早いよっ、三人とも全力で火を出すんだ。
熱いやつをね、派手なら派手な方がいい。
木は燃やしちゃ駄目っ。できる?」
(まかせてっ、らくーちのなか、すごくきもちいい!)
(なんか、げんき、でるよな!)
(あー!)
楽市から、四人の炎が勢い良くあふれ出す。
三つの青白い炎と血のように朱い炎が、ストーンゴーレムへ触手のように絡みついた。
するすると伸びて、ストーンゴーレムを覆いつくす。
しかしストーンゴーレムはびくともしない。
炎を無視して木々を薙ぎ倒し、楽市へ迫ってきた。
楽市はあやかしの子のいる樹とは別方向へ、炎を吹かしながら逃げていく。
派手に炎を絡みつかせてやったお陰で、ストーンゴーレムがしっかりと楽市を追ってきた。
「いい感じに追ってきたっ。
でも炎と岩って相性悪すぎるな……」
渋い顔をする楽市に、夕凪が叫ぶ。
(らくーち、うしろから、なんかくるっ、こっちとんで!)
夕凪が楽市へ「飛んでくる方向」と、「飛びのくべき方向」を同時に伝えてくれる。
楽市が指示に従い、間髪入れず脇へ飛びのくと、今いた空間が白く凝結していった。
効果範囲をすべて凍り付かせる氷結魔法だ。
(こんのおおおおおおっ)
(わーっ)
霧乃と朱儀が炎を伸ばし、魔法を使った獣人兵に絡み付かせた。
楽市とつながって、祟りにどっぷりと浸かるふたりの炎は、子供といっても凶悪だ。
「何だこれはっ、火属性じゃないのか!?
き、消えないっ、うわああああ!」
炎の中から獣人兵の断末魔が聞こえ、それに負けじと夕凪も叫ぶ。
(うわあいっぱいきてるー! らくーちあっち! そしたらこっちー!)
「やばいっ、やばいっ、やばい!」
(きりっ、あーぎっ、あっちとあっち、みてて!)
(うん!)
(!!)
楽市の中で三人が心象を通じて連携し合い、楽市に伝えていった。
楽市は指示どおりに、必死で飛び、体をねじり、地に伏せる。
そのどれもが間一髪のギリギリだ。
躱したすぐそばで、次々に空間が放電し凍り付いていく。
楽市の肌がヒリつき、乱れる銀髪が焦げ臭い。
(らくーち、おそい!)
(のろま!)
(……)
「ええっ、そんなこと言っても!」