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第37話 石でできた四角い森

(らくーち!?)


霧乃(きりの)からも、驚きの感情が伝わってきた。

楽市(らくいち)は心象を読み取られたと知り、苦悶の表情を浮かべる。

夕凪(ゆうなぎ)からは、なおも激しい拒否の言葉がぶつけられた。


(だめだめだめっ、らくーち、だめーっ!)

 

楽市はその気持ちに応えられない。


「夕凪……」


楽市の選択。

それは、あやかしの子の放棄だった。


「分かって夕凪……この段階じゃどうしようもないの。

ここでモタモタしていると、夕凪たちまで危なくなる」


(だめーっ、つれてって、らくーち!)


「夕凪……無理なの。

ここから動かそうとすれば壊れてしまう。

それに、この段階ではまだ意識はないの。

ここに立ち込める霧と変わらない。

まだただの澱でしかない。

だから……」


(そんなことないっ、ないてるし! なーいーてーるーしー!)

  

夕凪は楽市の言葉をさえぎり、むきになって言い返した。


「そんなわけが……」


ないと言いかけて、楽市の表情が固まる。

そもそもここに辿り着いたのは、夕凪と霧乃が声を聞き取ったからではなかったか?


楽市には聞こえなくても、ふたりには聞こえている。

そこに気付いたとき、楽市の声がかすれた。


「そんな……ありえない……」


理解してもまだ否定しようとする楽市に、霧乃が怒りをぶつける。


(らくーち、ひどい。

ぜったい……ぜったい……ゆるさないから……)


霧乃は本気で怒ると陰にこもるタイプなのか、楽市に沸々とした怒りをぶつけてくる。

夕凪とは真逆だけれど、怒りの深さはむしろこちらの方が上だ。


朱儀(あけぎ)が霧乃から伝わる怒りの強さに、びっくりしている。

楽市の顔が、紙のように白くなった。


「まさか……本当に、泣いているの……」


楽市は、強張る表情で空中を見つめる。

いや空中ではなく、自分の中に浮ぶ記憶をにらんでいた。

いったい何を思い出しているのか?


「まさか……それじゃあ……あたしは……」


震える声でつぶやく。

その直後、楽市はパニックを起こした。


「かはっ……」


呼吸が荒くなり、激しく動転し始める。

突然湧いた恐怖に耐えられず、前のめりになって両手で顔を覆った。

楽市は後から後から湧いてくる記憶に、耐えようとする。


「ふううっ……くふうっ……」


楽市の突然の変わりように、中にいる三人はただ驚くばかりだった。


((らくーち!?))

(????)


何が起きているのか、全く分からない。

けれど楽市から伝わってくるものがあった。


楽市の過去へと通じる心象。

記憶の断片。


楽市はそれを止めようとしても止められず、震え続けていた。

その断片が、霧乃、夕凪、朱儀にも伝わってくる。


それは初めて知るものばかりで、霧乃たちは目を丸くした。

どこまでも続く石でできた、しかくい森。

夜でもあちこちが、獣の目のように明るい所。


楽市がひとり、そこにたたずんでいた。





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