表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/141

第26話 さんにんのエルフ

辺境の城塞都市ハインフック。


この都は古代において、北に展開する敵対種族へにらみを効かせ、くさびを打ち込むために建てた砦が始まりだった。

その後はフリンシル川の恩恵で、沿岸部と内陸部をつなぐ、物流の中継地として栄えていた。


しかしそれも過去の話。

今は人の気配がまるでなく、都全てが廃墟のようだ。


ハインフックの北区に鎮座するハイン城の執務室で、三人のダークエルフが浮かない顔を突き合わせていた。

三人とも暗色系を基調とした服を着ている。

かなり肌も露わなデザインだけれど、それがダークエルフにとっては当たり前なのだった。


「やっぱり出てきたなあ……」


疲れた声を出すのは執務室のソファーに座る、王族直轄の情報収集官・イースである。

上背のあるバランスの取れた体躯は、美しい彫像のようだ。

端正な顔立ちをしており、目元が少し優し気で柔和な印象を受ける。

彼はこの所ずっと北部エリアの対応に追われて、寝不足気味であった。


「最初のは?」


対面のソファーに座る、サンフィルドが話をうながす。

こちらの男も背が高く、イースと比べると少しひょろりとしている。

瞳の美しい男だった。


「多分、あの森の上位種族なのだろう。

後から駆けつけた奴らもタイプが違うみたいだけれど、似たようなものでしょ」

 

「最後のは?」

「さらに高い上位の何か……いや新種の召喚獣かな? 

そっちの線の方があり得るな。

しかし分からないよ。情報が足りない」


そう言ってイースは、テーブルに置かれた複数の報告書に目をやる。

それは「千里眼術者」たちからの報告書であった。

魔術により自動筆記された報告書は、どれも途中から文字化けして読めない。


「ねえ、ここだけど……」


イースの隣に座るリールーが、広げられた報告書にしなやかな指を伸ばす。

物腰が柔らかで、その美貌から繰り出される微笑みは、多くの男を癒すだろう。


サンフィルドとリールーは、イースの側近であった。

イースとサンフィルドは、リールーの綺麗な指先を目で追う。


「太い胴。

色は黒く、木々より高し。

うねり、蛇のごとしって記述。

これあの辺りにある、言い伝えに似てない?」


「言い伝えかい? 何だったかな……」


ぼんやりするイースの代わりに、サンフィルドが答える。


「ターツァーだろ」

「そうそれっ、似てない?」

「ターツァーか……確かドラゴンの上位種だとかいう?」


イースが小首を傾げて、リールーを見る。


「違うわ。そう言われているだけで、実際はもっと別の何かだと思う」


「うーん……ターツァーかあ。

そう言われてもなあ。

記述された情報が、これだけじゃ何とも言えないよ。

それで当の千里眼たちはどうしたの?」


それにはサンフィルドが答える。


「駄目だな。ありゃ完全にぶっ壊れている」

「どうしてそうなる?」


「んー、これは推測でしかないがな。

千里眼ってのは物理的距離を無視して、空間と空間を繋げてのぞく術だ。

現場の空間と自分の脳を直接つなげる」


「うんうん、それで?」


イースは、もたれかかる状態から座りなおす。

話をちゃんと聞こうとする、姿勢は良い。

しかし目が開いていない。


「だからな。

その蛇だか何だか分からないものが現れたとき、ハインフックで流

れている瘴気なんかよりずっと濃いやつが、そいつから出たんだよ。

千里眼は、それを直接脳へ流し込んじまったのさ」


「瘴気を無効化するアイテムは、千里眼にも支給されてるはずだろ?」


「されてたけど、自分の内側に直接取り込んだら駄目だろ。

脳みそに濃いやつをさ」


「あー」

「それでも千里眼たちは、頑張った方だよ。

ほら蛇が現れても、しばらく自動筆記は続いているだろ」


確かに記述は続いている。

その蛇が、マース級のストーンゴーレムを放り投げた所。

ダークエルフ兵が、転移魔法で逃げていく所などが記述されていた。


その辺りから文字が怪しくなり、文字化けして読めなくなっている。

それを見て、イースが顔を上げた。


「そうだよ、これ逃げたダークエルフ兵はどうしたの?」


イースの問いに、サンフィルドとリールーが顔を見合わせる。

リールーが答えた。


「転移と千里眼は、基本的に同じよ。

距離を無視してつなげる所がね。

千里眼のつなげた空間に未知の呪いが入り込んだのだから、転移の空間にも入り込んだでしょうね。

それで多分、転移座標が狂ったんじゃないかしら?」


リールーの話を、サンフィルドが引き継ぐ。


「運が良けりゃ、どこかの地にいるさ。

運が悪けりゃ今頃は、土の中か岩の中だろ」


「あー、遠視阻害に転移阻害か。色々やってくれるな」

「やっかいよね」


そう相槌を打つリールーは、なぜか楽し気だ。

リールーの端正な顔立ちを眺めながら、サンフィルドは彼女のちょっとした癖を思い出し、眉根を寄せる。


「まあ、いい所もある。

(おとり)部隊へ、あんな簡単に釣れるなんてアホだろ? 

今後いろいろやり易いかもな」


「もう一度、仕掛ける?」


身を乗り出して、リールーがイースに問う。

イースはソファーにもたれ掛かり、目をつぶった。


「もちろんだ、情報が足りないからね。

とにかく(やぶ)をつついて引き出したい。

千里眼術者のストックは?」


「まだあるわ」

  





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ