第24話 楽市ぼんやりと考える
ダークエルフたちの凶事を目の当たりにして、怒りと共に噴き出したもの。
あの瞬間、自分の怒りとはまた別の何かが、楽市の身で荒れ狂った。
それは間違いなく、仲間たちの怒りだった。
あのとき確かに、兄や仲間の存在を感じたのだ。
そして楽市の身に起きた変化。
楽市は、自分の小袖を見て溜め息をつく。
黒い尻尾と同じ紋様がそこにあった。
その意味する所は何のことはない。
楽市も兄たちと同じように、祟り神と化していたと言うこと。
祟り神かどうか、自覚があるか無いかの違いだった。
楽市は「自覚が無いのに祟り神かよ」と突っ込みを入れたくなる。
けれど考えてみれば、楽市もみんなと同じようにこの地へきたのだ。
自分だけが祟り神になっていない不自然さよりは、まだ納得ができる。
だからといって祟り神になった理由が、分からないというのは歯がゆい。
「自分も、薄々そうだろうとは思っていたけど。
今回の尻尾でガツンと、分からせられたわ……」
楽市は自分の尻尾をなでながら、遠い目をした。
本来ならもっと落ち込むべきなのだろうが、妙に落ち着いている。
「あたし、疲れてんのかな……」
ひどく疲れていると、喜怒哀楽がフラットになるものだ。
しかしそれだけでは無いことを、楽市は分かっていた。
自身が兄や仲間と同じように、祟り神となっていたという自覚。
楽市はここで少し安堵した。
藤見の森の白狐でありながら、祟り神となって喜ぶとは何事か。
そうしかり付ける自分がいる反面、そのとき感じたのは確かに安堵だった。
たとえ忌み嫌われる存在に堕ちようとも、仲間と一緒ならばそれでいい。
それは楽市にとって確かな喜びだった。
だかこそ尻尾の変化に、静かな面持ちでいられる。
「祟り神になって喜ぶ、白狐なんて……
兄さまが知ったら、きっと一晩中説教だろうなあ」
楽市はそんな想像をして、力なく笑みをもらした。
鬼の少女を見つめ、自分に問いかける。
あのとき少女が殺されていたら、自分は獣人たちを黙って返していただろうか?
そして今、自分は祟り神なのだと自覚したならば……
「あたしの仲間を傷つけることは、絶対に許さない」
重く腹に溜めた怒気が、楽市の肌を通して漏れ出していく。
それは祟りの呪そのものだった。
呪を浴びた周りの者たちが、気を昂ぶらせる。
霧乃と夕凪は、頬を朱に染めて陽気に笑い出した。
「あっ、またでてる、らくーち、だした!」
「だせだせ、らくーち!」
「!?!?」
鬼の少女も頬をまっ赤してに、目をパチクリしている。
鬼の爪がうずく。
一角の獣は体を反らせ、吠え始めた。
楽市から漏れ出す呪は、生まれながらにして祟り神の眷族たるものにとって、何よりもの甘露だった。
瘴気あふれる森の中で、さらに極所的な闇が凝る。
その中で眷族たちは酔いしれ、踊り、歌い始めた。