第102話 3対1だ 燃えるではないか
「一気に潜り込むからね、みんなあたしの中に入ってっ」
そう言われた霧乃たちは、それぞれ火の玉となって楽市へ入り込んだ。
「あとは取り憑くチャンスを待つだけっ」
楽市は四人を体に収めたまま、暴れ狂うがしゃたちに近付いていく。
チャンスは直ぐにきた。
ゴオオオオオオオオンッ
四足獣の二匹が、角つきに襲いかかり押し倒したのだ。
角つきも下から応戦してもみ合いとなった。
つかの間の膠着状態に入る。
「よしいま!」
楽市はすかさず狐火となり、倒れる角つきの後頭部からするりと入った。
その瞬間、角つきの力がふっと緩む。
四足獣はそのすきを見逃さない。
角つきの手を払いのけ、顔面に噛みつこうとする。
するとカウンターのように、角つきの口から青白い炎が勢いよく飛び出した。
炎は四足獣たちの眼窩に入り込み、その頭蓋内でうずをまく。
四足獣は飛びすさって激しく頭をふった。
突然のことでビックリしただろう。
四足獣は前足で顔をかきむしる。
角つきの口からは、なおも炎が吐き出されていた。
その間に朱儀が、ゆっくりと角つきの体を起こし立ち上がらせる。
楽市が狐火を噴射している間に、朱儀はサイズの違いからくる手足の違和感をすばやく確かめた。
確かめながら意識の後方で、角つきが戸惑っているのを感じとる。
それと同時に、角つきを雑になだめる夕凪の心象も感じられた。
(あー)
翼と尻尾は使い方が分からないので、最初から無視だ。
手足を動かすときかなり重く感じる。
けれどすぐに、それを支えてくれる感覚があった。
手を振るとき肘に手を添えられて、一緒に動かしてくれる感覚がある。
足を上げると膝裏から、同じように押してくれる感覚があった。
(ふふふ)
霧乃と夕凪が、後ろから手を添えるようにサポートしてくれているのだった。
さらにふたりが、周りの状況を常に送り込んでくれる。
豆福も一生懸命、感覚を送り込んでくれていた。
豆福の感覚は少し面白くて、地面を踏みしめる足の裏から土の味が送られてきた。
(あはは)
いぜん楽市の体を使った感覚がよみがえる。
自分の五感が大きく膨れ上がる感じだ。
周りの瓦礫一つ一つが、肌で感じ取れるほどである。
(どう、あーぎ?)
霧乃が調子を聞いてきた。
(うん、いけるっ)
朱儀の返事をきっかけに、みんなが狐火を出す楽市へ声をかける。
(じゃあ、らくーち)
(こいっ、らくーち)
(らくーちっ)
(らくーちー)
(ん!? 準備できた?
もういいの? じゃあ出すよっ。
今回は周りに漏れるとまずいから、気を付けなきゃねっ)
楽市はそう言って気持ちを集中させる。
朱儀を抱いたまま、一緒に潰されたことを思い出す。
それだけで怒りが沸々と湧いてくる。
あの時の朱儀の痛がる声。
楽市の中で朱儀の名を呼ぶ、霧乃と夕凪の声。
それを思い出すだけで、楽市の怒りに火が付くのだ。
楽市から黒い瘴気があふれ出た。
(あー、きもちいい!)
(きたー、やっぱ、これすき!)
(ふあー、あーぎ、がんばる!)
(ぶあー!)
朱儀は全身の関節一つ一つが、軽くなるのを感じた。
関節一つ一つに、高速で回転する風を送り込まれているようだ。
朱儀の胸にドス黒く、熱いものがこみ上げてくる。
殺意である。
朱儀はあの時の悔しさを忘れてはいない。
霧乃と夕凪が倒されて、ひとりで楽市の尻尾を動かそうとして藻搔いたことを――
あの時の悔しさを、今日こんな形ではらすことが出来るとは思っていなかった。
朱儀は喜びを抑えきれない。
(ふうっ、ふうっ、ふうっ)
だからこそ角つきの方を選んだのだ。
三対一だ。
燃えるではないか。
やってやる。
この不利な状況を力でねじ伏せてやる。
ゴオオオオンッ
朱儀は角つきの拳と拳を叩き合わせる。
角つき側のほうが、三倍相手をぶん殴れるのだ。
朱儀はそれだけで選んだのだった。
こっちが有利だからじゃない。
こっちが不利だから選んだのだ。
これはみんなに内緒である。
(あははっ)
しかし悲しいかな、思いが強すぎて周りにだだ漏れなのであった。
楽市の低い声が聞こえる。
(あーけーぎー)
(あっ)




