第100話 シノとキキュール、見つめるふたり
シノは抱きとめた瞬間から、排液管を両手に発動させる。
接触魔法でキキュールの過剰摂取した魔力を吸い取った。
キキュールの表面剝離がとまる。
お姫様だっこされたキキュールは、自分を抱く男の顔をまじまじと見た。
獣人の姿であるけれど見間違えることはない。
「シノ……なのか?」
「間に合ってよかった……」
キキュールは思わず、シノの胸元をギュッと掴んでいた。
見つめ合うふたり。
けれどシノが笑い出す。
「ふふふふ……」
「むっ、何を笑う?」
何だか分からないけれど、キキュールはカチンときた。
「この姿で、聞いて回ったのだよ。
あっちへ行った、こっちへ行ったと聞いている内にすぐ気付いた。
これはキキュールのいつもの散歩道だとな。
ふふ……こんな時でも道を順守するなど、相変わらず生真面目だなキキュール。
だがそのお陰で間に合った」
「私をバカにしているのか?」
「ちがう褒めている」
「……」
黙るキキュールに、シノが言う。
「それにしても無事だった店の品を、道々の者すべてに配っているそうじゃないか。
店をたたむ気か?」
「違う、ほんのわずかだ」
「あれは手当たり次第と言うと思うが」
「……」
何だか見つめ合うふたり。
そんなシノの背を引っ張る者がいた。
「おっとそうだった」
シノはそう言って、キキュールを抱いたまましゃがみ込む。
するとシノの背から、もじもじとしたチヒロラが出てきた。
「私以外の大人に会うのは二人目だからね、少し緊張しているんだ。
大目に見てやってくれ。
さっきまでは、キキュールさんを助けるんだと元気だったのだよ」
それを聞いたキキュールは、チヒロラを手招きする。
少しだけ近付いたチヒロラに話しかけた。
「半透明でぷよぷよの頃から、ずっと千里眼で見ていたよ。
大きくなったねチヒロラ。
私を助けにきてくれてありがとう」
ありがとうと言われて、チヒロラの顔がパッと明るくなった。
すると元気にあいさつする勇気がわく。
「あたしチヒロラですっ」
「私はキキュールと言う、これからよろしく」
元気なあいさつと固いあいさつを聞き、シノはうなずく。
「つもる話はあとにしよう。すぐに脱出するぞ、ここは危険だ」
「はいっ」
「むっ、待ってくれシノ」
「なんだキキュール?」
「私を北地区の地下入口へ、連れていってくれ」
「何だと?」
「私はコールカインを複数人に手渡し、地下へ逃げろと進めたのだ」
「なにを言っている?」
「そこへ行きたい」
「なぜだ?」
「気になるからだ」
逃げた者たちが心配だと、キキュールは暗に言っている。
あの正体不明のアンデッドは、一匹だけなのだろうか?
もし複数いたら?
キキュールはそれがとても気になるのだ。
チラリと下を見る。
そこには全てを溶かしきったマグマが、急速に冷え固まりできた醜いオブジェがあった。
「……」
今度はシノが押し黙る。
ふたたび見つめ合うふたり。
キキュールが目をそらす。
「笑いたければ、笑え」
「ふふふふ……」
「む!」
シノが本当に笑ったので、キキュールはカチンときた。
「すまんな……キキュールがそうなったのは私のせいだ」
「どういう意味だ?」
「無事ここを出れたら話そう……チヒロラ少し寄るところが出来た、私の背中に掴まっておくれ」
「はいっ」
シノはキキュールを抱いたまま、チヒロラを背中に掴まらせてふわりと浮かび上がった。
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