終焉の大地3
巨神は、まだ生きていた。
レオンの大型銃による爆撃を受け、胴体の一部が抉れたものの、六本腕の巨神は依然として立ち上がっていた。
煙の向こうから、異様な音が響く。ぐちゅ、ぐちゅと何かが蠢く音――。
「……再生してるのか?」
レオンが低く呟く。
俺も目を凝らした。
巨神の傷口が、うねるように動いていた。皮膚が引き伸ばされ、千切れた肉が再び繋がろうとしている。まるで時間を巻き戻すように、損傷が修復されていく。
「クソッ……またかよ」
灯火の街の記録では、巨神の中には驚異的な再生能力を持つ個体がいると報告されていた。だが、目の前でそれを見せつけられると、絶望感が違った。
「おい、どうする!?」
誰かが叫ぶ。
「爆破しないと、こいつは倒れない!」
「でも、爆薬はもう――」
言葉が途切れる。
誰もが気づいていた。
この戦いは、すでに詰んでいる。
巨神は、動き始めた。
そして――その背後。
もう一体の四足歩行型の巨神が、音もなく忍び寄っていた。
「――っ!?」
気づいた時には遅かった。
黒い影が、広場に飛び込んできた。
轟音。
四足の巨神が地面を踏みつけ、街の広場の中心が抉れた。周囲の瓦礫が吹き飛び、人々の悲鳴が上がる。
「くそっ、二体同時は無理だ!」
誰かが絶叫する。
逃げなければならない。だが、街の防壁がある以上、すぐには外に出られない。逃げ場を失った戦士たちは、なすすべなく後退するしかなかった。
「カイ! イオ! 撤退するぞ!」
レオンが叫んだ。
「まだやれる!」
「バカ言うな! このままじゃ全滅だ!」
確かに、これは無理だ。
だが、撤退すれば何が残る? ここは、俺たちが生き延びるための最後の砦だ。
巨神の足音が、地面を震わせる。
今、この場で決断しなければならない。
俺は歯を食いしばりながら、叫んだ。
「地下シェルターの出口は?」
レオンが息をのむ。
「……南側の通路だ。でも、それを開けたら防壁が――」
「やるしかない!」
レオンの顔に葛藤が走る。
だが、決断は一瞬だった。
「……っ、合図を送る!」
レオンは通信機を掴み、地下にいる仲間へ指示を出した。
「南の防壁を開けろ! すぐに避難を開始しろ!」
カチッという無線の返答音が響いた。
「了解、開ける!」
次の瞬間。
――ドォン!!
街の南側、防壁の一部が爆破された。
瓦礫が飛び散り、煙が舞い上がる。その向こうに、地下へと続く避難路が露出した。
「全員、撤退しろ!!」
レオンの怒号が響く。
生存者たちが、次々と避難路へ走り込む。
俺たちも、それに続いた。
だが――。
巨神が、それを許すはずがなかった。
四足歩行型の巨神が、突進を始めた。
「くそっ、間に合わない!」
俺は体を反転させた。
無謀なのはわかっている。
だが、ここで食い止めなければ――誰かが犠牲になる。
「カイ!」
イオの叫び。
俺は振り返らなかった。
巨神が迫る。
次の瞬間。
空気が変わった。
――ゴォォォォォ!!
耳をつんざくような轟音が響く。
地面が、揺れた。
俺は目を見開いた。
巨神の背中に、閃光が炸裂する。
「な、に……?」
次の瞬間、俺の視界の端に、"それ" が見えた。
高いビルの屋上。
黒い影が、風に揺られていた。
まるで、人間のような――いや、人間とは思えない"何か" が。
「……あれは……?」
だが、次の瞬間、巨神が苦しげに身をよじり、俺の視線を遮った。
爆風が収まると、その黒い影は、すでに消えていた。
「……何が起きた?」
誰も、答えられなかった。
ただひとつ、確かなのは――。
この世界には、まだ俺たちの知らない"何か"が存在している。
そして、それは、俺たちの運命を大きく変える何かになるのかもしれない――。
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